

時局の急転に伴う学校教育に関する件
昭和20年(1945)8月15日、玉音放送により戦争の終結が国民に告げられました。それから間もない8月21日には、教学復興計画案策定の指示が文部次官から出され、さらに8月28日付で、文部省は学校教育における平常授業の復元再開に関する通牒(発専118号)を、各地方長官(府県知事)や官公立・私立大学等学校長、その他教員養成諸学校長宛てに発信しています。
本資料は、上述の通牒(発専118号)に基づき、国民学校・青年学校・中等学校の教育の再開についてのさらなる留意点をまとめた通牒案で、文部省国民教育局が作成した文書として保存されていたものです。国民学校については、速やかに平時の授業に復元することを建前としつつも、学童集団疎開は当面継続する等とされ、また戦災都市において校舎が焼失している場合には、学校間で校舎の融通を図る、寺院や集会所などの施設を利用する等の指示が出されています。
なお、通牒(発専118号)は、参考資料として本資料の末尾に添付されています。
1. 資料に書かれていることから、終戦直後の教育復興において、学校の平常授業を再開するためにどのような難しさがあったのかを確認してみよう。
2. 国民学校とはどのような学校だったのか、調べてみよう。
3. みなさんの町や学校の周辺が、終戦直後、どのような被害状況にあったか、「全国主要都市戦災概況図」でしらべてみよう。
4. 子どもたちの学びは、どのような場所で再開されようとしていたかを、話し合ってみよう。
資料名 | 時局の急転に伴う学校教育に関する件 |
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請求番号 | 平28文科00205100 (件名番号:002) |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/4679696 |
学童疎開強化ニ関スル件ヲ定ム(学童疎開強化要綱、昭和20年3月16日)
https://www.digital.archives.go.jp/item/1711373
戦時教育令(昭和20年5月21日):
https://www.digital.archives.go.jp/file/116396
時局の急転に伴う学校教育に関する件
発国184号
昭和二十年九月五日 起案 裁決定 九月十二日 発送 9月13日
案
年月日
局長
各地方総監
各地方長官
時局の急転に伴う学校教育に関する件
昭和二十年八月二十八日発専118号をもって文部次官より標記の件通牒相成りたるところ、右に関連し、国民学校、青年学校(1)及び中等学校(2)の教育に関しては、左記事項御留意相成りたく、この段、命により通牒に及ぶ。
記
一、国民学校教育に関する事項
1.昭和十九年二月十六日勅令第八〇号国民学校等戦時特例第一条の適用に付きては、なお従前どおり義務制の実施を延期せられ居ること。
2.昭和二十年八月二十八日発専一一八号通牒の趣旨により、なるべく速やかに平時の授業状況に復元することを建前とするも、学童集団疎開は当分の内、そのまま継続することに方針決定致し居るをもって、これに依り一層教育訓練の徹底を期すること。なお集団疎開実施都市ならびに戦災都市における残留学童の教育にありても、平時の授業状況に復し得ざる場合においては、当分の内、昭和二十年四月十六日発国一一四号「学童疎開強化要綱に基づく甲地域残留学童の教育に関する件」通牒の趣旨に準じ、一層これが教育の振興を期すること。
3.戦災児童にして他の地方に転住疎開し転学の手続をなし居らざる者または戦災のため授業困難なる学校の児童にして家庭にある者に付きては最寄りの国民学校に転入学せしめ、勉学につとむる様指導すること。
4.農業および運輸通信業務関係への通年動員継続の場合においては、戦時教育令は廃止せらるる見込みなるも、なお当分の内、昭和二十年七月十日発国一六三号「戦時教育令に基づく国民学校教育実施に関する件」通牒の趣旨を斟酌し、地方の実情に即して措置すること。
5.現下食糧増産の緊要性に鑑み、農山村等における国民学校初等科にありても、これが教科科目の授業ならびに授業を行わざる日の取扱いに関しては、当分の内、昭和二十年七月十日発国一六三号「戦時教育令に基づく国民学校教育実施に関する件」通牒の趣旨を斟酌し、教育の弾力性を有する様措置すること。
(中略)
四、戦災都市における学校校舎ならびに教育に関する事項
戦災都市における国民学校および中等学校の校舎の焼失せる場合において、国民学校および中等学校の間に校舎の融通を計り、原則として男子中等学校はなるべく郊外地域にまとめ、国民学校および女子中等学校はなるべく保護者の住宅地区に近接したる従前地区に校舎を設くる様措置すること。なおこれが実施困難なる地区においては、当分の間寺院、集会所等適当なる施設を利用して本来の教育形態を整えしむる様指導すること。
発専118号
昭和二十年八月二十八日
文部次官
各地方総監
各地方長官
官公私立大学高等専門学校長
教育養成諸学校長
時局の変転に伴う学校教育に関する件
標記の件に関しては、曩〔さき)に電信をもってこれが実施に関し指示したる次第のところ、右は当面の緊切なる問題なるに、付きては左記事項に御留意の上、実施上万遺憾なきを期せられたく、この段依命通牒す。
記
一、学校(女子の学校を含む)の授業の実施に付きては平常の教科教授に復原する様、措置すること、学生生徒を帰省せしめたる学校にありても、遅くも九月中旬より右に依り授業を開始すること
二、特別の必要ありと認めらるるときは、前項によらず、当分の間授業を休止し、または帰省せしむる等の措置を取り得ること
三、戦災により、未だ授業開始の目途たたざる学校にありても関係諸機関と連絡の上、校舎設備ならびに教職員学徒の宿舎の調達等を図り、または授業の委託の方法を講ずる等、なるべく速やかに平常の教科教授を開始することに努力し、差し当たっては食糧の増産等の作業に当たらしむる等、適宜の措置を講ずること。
右に関しては大学、高等専門学校にありては学校集団においてよく互助協力の実を挙ぐること。
四、教科用図書教材等の取扱いに付きては八月十四日渙発せられたる詔書の御趣旨を奉戴してその取扱いに付き十分なる注意を払い、その一部の授業の省略等、適宜措置すること。
備考 農業運輸通信関係等に出勤中の学徒に付きては、なお■の電信指示の趣旨に依ること。
(1)青年学校:昭和10年(1935)に設置された、尋常小学校卒業後の勤労青年に職業や生活に必要な知識技能の訓練や教育を行った学校。戦時中は、多くの生徒が軍需物資生産関係の工場などに動員された。
(2)中等学校:旧制の中学校。本資料の時代の中学校は、昭和18年に中学校(国民学校を終えた男子に高等普通教育を行った学校)、高等女学校(高等小学校を修了した女子に高等普通教育を行った学校)、実業学校(国民学校を修了した者に職業教育を行った学校)を統合してできた、四年制の学校。第二次大戦後の教育改革により、新制高等学校の母体となった。