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解説
書下し
資料名

学制発行ノ儀伺

解説

明治政府は教育の整備を進めるため、明治5年(1872)8月2日に学制を発布しました。この前年の12月頃から、フランスへの留学経験がある箕作麟祥(1846~1897)や河津祐之(1849~1894)など12名が「学制取調掛」として草案作成に着手、西洋諸国の教育制度を参酌し、最終的にフランスの制度を手本として学制が制定されました。
資料は、学制の制定に関する文部省による伺文、「甲号」とされる学制の趣旨声明書(学制布告書、太政官布告第214号)、乙号とされる府県への布達文(文部省布達第13号)と121条(章)に及ぶ条文、着手すべき順序、「教官教育所(師範学校)」の設立関係文書、予算書等で構成される長大な文書ですが、ここではその一部である「着手すべき順序」について紹介しています。

こんな「問い」はいかが

1. 今後着手するにあたって優先すべきことに、どのようなことが挙げられているだろう。また、それらを優先すべき理由は何とされているだろう。
2. これまでの学問には、どのような弊害があったと考えていたのだろう。
3. 女子にも「男子と均しく教育」を行わなければならない、とされた理由は何だろうか。また、その理由について、どう思いますか。
4. 「反訳(翻訳のこと)」をもっとも急ぐべきものの一つとしている理由は何だろうか。また、その理由についてどう思いますか。

資料情報

本資料は、『公文録』という明治元年から明治18年までの、太政官が各省との間で授受した文書を、年次別・機関別に編纂した総冊数4,000冊を超える資料に収録されているものです。太政官は、近代内閣制度が成立する以前における明治政府の最高行政機関であり、各省が上申する業務の最終意思決定を行っていました。『公文録』は、平成10年(1998)、国の重要文化財に指定されています。
なお、教科書等でもしばしば紹介される、本文書の甲号「太政官布告214号」(学事奨励に関する太政官布告(被仰出書))は、このデジタルアーカイブの資料画像、6~8コマ目にあります。

資料名 学制発行ノ儀伺
請求番号 公00671100 (件名番号:011)
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/3061390
資料名

学制発行ノ儀伺

(前略)

後来の目的を期し、当今着手の順序を立てる左のごとし。
一、厚く力を小学校に用うべき事
それ人の学業の始めあるにあらざれば、善く終わりある鮮(すく)なし。たとへば高に登るがごとし。もし初階を経ずまさにいずくよりゆかんとす。されば老成の煉〔ママ〕熟は少壮の研業にあり。壮盛の進達は幼時の習学に基づく。これ文明の各国において小学の設盛大隆、壮なるゆへんなり。  皇邦従来の風、およそ人は八、九歳もしくは十二、三才を過ぐ、なお学問の何物たるを弁ぜず、ようやく長ずるに及んでその営生に汲々たりといえども素より天然の良智をそれ以って進達すべきの時に棄てしめたるを以て、志行賤劣、求むる所もまた随いて得ること能わず。流離落魄、自ら活するを能わざる者、あげて数うるべからざるなり、たまたま学ぶものはこれをその学ぶべき時に学ばざるを以ってその基礎すでに立たず。たとえば櫓のなき舟のごとし。至るところ、繋留しその学、遂に上達する能わざること多し。しかれば則ち、世の文明を期し人の才芸を待つ。これを小学の教えのよく広普完整するに求めるにあるのみ。故に力を小学に用ゆること当今着手第一の務めとす。
一、速やかに師表学校を興すべき事
小学の教えの能く完全なるを得るゆえんのもの、小学教則の能く斉整するにあり。小学教則の能く斉整するゆえんのもの、小学教師のよく教則を維持してこれを教ゆるの正しきを得ればなり。それ師の生徒における形と影とのごとし。形、直さずして影、直ならんを求む、得るべからず。各国すでに師表校の設あり。これ小学教員を植成し、以って教則を整全ならしめんが為なり。故に速やかに師表校を興し、小学の教員を植成し、順次四方に派出せしめ、ますます以ってこれを増植し、その教規を正し、以って務めて小学の教育を完斉せしめんを欲す。これ当今着手第一中のもっとも急務とす。
一、一般の女子、男子と均しく教育を被らしむべき事
人間の道、男女の差あることなし。男子すでに学あり、女子学ぶことなかるべからず。かつ、人子学問の端緒を開き、それ以って物理を弁うるゆえんのもの、母親教育の力多きに居る。故に、博く一般を諭すれば、その子の才不才、その母の賢不賢により既已にその分を素定すというべし。しかして今日の女子、後日の人の母なり。女子の学び〔ママ〕ざるべからざる義、誠に大ひなりとす。故に小学の教えを布き、従来女子不学の弊を洗い、これを学ばしむることを務めて男子と並行せしめんを期す。これ、小学を興すについて第一義とす。
一、各大区中、漸次中学を設くべき事
各大区中、一か所の大学を興すべきといえども、生徒の学がいまだ大学に入るに至らざるゆえに、まず西洋教師を撰み、各大区中、まず一、二の学校を興し、生徒を入れ、その階級を乱さず。追日の成業に至るを期すべし。これ、人才芸術の益、広多ならんを求む。学校の数、増加せざるを得ざればなり。
一、生徒階級を踏む、極めて厳ならしむべき事
従来の弊、生徒規則を踏まず、近下なるものをもって卑しとし、動もすれば高尚に馳すといえども、その成就するの幾ど稀なり。近下は高尚の基たることを知らず。ゆえに、生徒をして必ずその成すを期せんと欲す。毫も姑息の進級をせしむべからず。
一、生徒成業の器あるものは、務めてその大成を期せしむべき事
学問すでに開け、生徒袖を連ぬ。しかしてその大成の器、甚だ少しきゆえんのもの、何ぞや。これ多くは目前の小利に安んじ、功を晩成の日に待つを思わざるによる。ゆえに生徒の器ある者は、務めてその志を鼓舞し、その大成を期せしむべし。ゆえにかくのごとくの類、必ずその大成に至るの間、決して転動のことあるべからず。後来生徒の成業を期するゆえんなり〈得業生の設をなすゆえんなり。この規則、別冊にあり、これを略す〉。
一、商法学校、一、二所を興す事
万貨運動の源、察せざれば、万貨運動の用をなす能ず。今や舟足、四通四海比屋万貨の活動、昔日をもってこれを知るべからず。商法の学、講ぜざるべからず〈趣旨、方法、別冊あり〉。
一、凡そ諸学校を設くるに新築営繕のごときは務めて完全なるを期す事
数十年を達観し、務めてその大成を期す、速やかなるを貪りて姑息に陥るべからず。これをもって、順漸斉整し、そのもって成すところは毫も退歩せざらんを旨とす。
一、反訳の事業を急にする事
言語の人心に浸染し自ら一国の語をなす各国然らざるなし。今や人を率いて学に就かしむ。悉く洋語をもってこれを教ゆべからず。反訳の業、またもっとも急なるものとす。

(後略)