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解説
書下し
資料名

東京横浜間開業式及臨幸諸件・二十三条

解説

新橋―横浜間の鉄道開業式に関する資料です。
明治5年(1872)9月9日に開催された開業式における諸行事につき、明治天皇の臨幸のルートや隊列の順、服装、汽車内の席次、また開業式にあたって参列する外国公使や国内関係者、臨幸を警備する兵士や式典時の祝砲の回数等の予定など、様々な取り決めが事前に行われていたことが記載されているほか、開業式が一度、雨天で延期されたことが見えるものです。ここで取り上げる、開業式の当日の様子では、外国の公使や領事の参列、明治天皇のお言葉や、参列者からの返礼の挨拶文などが記載されています。開業式への外国からの賓客招待は、明治政府にとって近代化の強い意志を見せるためであり、鉄道開業式は、近代化の起点のシンボルとも言えるものでした。ここでは、当日の状況を示す一部分を紹介しています。

こんな「問い」はいかが

1.「臨幸」とは何かを調べてみよう。
2.開業式にはどんな人々が出席したか、書き出してみよう。
3.開業式にどんな国の人々が参列したかを書き出してみよう。また、開業式に、外国の公使が招かれたのはなぜかを考えてみよう。
4.鉄道の開業式に天皇が出席し、お言葉を述べたことの意味を考えてみよう。

資料情報

この資料が収録されるのは、『太政類典』という資料です。慶応3年から明治14年までの太政官日記及び日誌、公文録などから、先例や法令等を選んで浄書したもので、制度、官制、官規、儀制等の19部門に分類し、年代順に編集されています。

資料名 東京横浜間開業式及臨幸諸件・二十三条
請求番号 太00403100 (件名番号:008)
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/1390885
資料名

東京横浜間開業式及臨幸諸件・二十三条

(前略)

九月十二日(五年)
開業式を行う。
  鉄道開業に付き、新橋横浜両所鉄道館へ臨幸あらせらるその式左のごとし。
本日朝九時  御出門馬車に御して新橋鉄道館に臨幸〈途上両傍に近衛歩兵三大隊、鎮台歩兵三大隊布列警衛す。着御の節、鉄道館内の近衛兵横隊に布列し、捧銃式を行い、喇叭ヲーシャンの曲を吹かしむ。横浜も同じ〉。工部省長官、鉄道頭その〈工部本省並びに鉄道寮〉奏任官を率い、欄廊に奉迎し、直に長官頭先駆けして館内に入御、ここにおいて勅任官並びに各国公使拝迎す。各国公使へ  御会釈あり。外務卿これを伝う。鉄道頭、鉄道図一巻を奉献す。おわりて長官・頭等また前駆けして進御あらせらる。奏任官南廊の側らにて拝礼す。これより勅任官及び工部省の奏任官・外国公使等、供奉列に加わり、列を正して乗車場に  御進行、列車に  入御す〈この際、近衛砲隊、日比谷操練場において祝砲を発すること百一発、且つ品海碇泊の軍艦より二十一発、且つ新橋にあるの楽隊、楽を奏す〉。一同乗者す。第十字、十両の列車にて  御発行〈鉄道寮へ着御より、この時に至るの際、国旗を挙げ、国楽・万歳楽を奏す。御発車の時、楽隊楽を奏す〉。第十一字、横浜鉄道館へ  着御〈この際、東京鎮台砲隊、横浜において祝砲を発する百一発、且つ同港碇泊軍艦より二十一発〉。御出車〈この時、また国旗を挙げ、国楽・慶雲楽を奏す〉。工部省長官、鉄道頭先駆け、乗車場より 進御。神奈川県令及び同所居合の奏任官、同所鉄道掛奏任官、御雇い外国人職長等、館外の両傍にて拝迎す。館内を  御通行の間、同所居合の奏任官並びに各国領事、両傍にて拝礼す。  便殿の御椅子に  着御。供奉列を始め県令、各国領事等、立列す。この時、中外の衆庶へ 勅語す。
   百官へ
今般我国鉄道の首線工竣るを告ぐ。朕親ら開行しその便利を欣ぶ。ああ汝百官、この威業を百事維新の初めに起こし、この鴻利(1)を万民永亨(2)の後に恵まんとす。その励精勉力、実に嘉尚すべし。朕、我が国の富威を期し、百官万民のためにこれを祝す。朕、更にこの業を拡張しこの線をして全国に蔓布せしめんことを庶幾(3)す。
   人民へ
東京横浜間の鉄道、朕親く開行す。自今、この便利により貿易いよいよ繁昌し、庶民益々富威に至らんことを望む。
次に各国公使等祝詞を奉る。
 闕下に拝奏す。今日の大典に列せしめんがため、恭しく  陛下の寵呼を蒙り、公使一列、斉しくその誉れを受ける限りなし。今この鉄道の首線を開くの祝典は美政の光輝のここに発見するゆえんにして、しかも  貴国のこれより駸々歩を進め、昭然たる文明の域に伍列するの徴験とり〔ママ〕、予輩も近年親しく見聞を経、且つ欧米両州においても深く心意を注ぎたる、かくのごときの大業を  陛下及び諸政官の黽勉(4)止むことなきの偉力をもってたちまち成功に至らしめたり。よりて庶希わくは衆庶これよりなお幸いに物足り性修まり福禄ますます増進し全国の威力もその栄誉も共に威隆の地に至らんことをこれ各国公使一列の均しく  陛下に切実欣希し奉り、併せて敬意と賀悃(5)を呈奏する所なり。

伊太利全権公使
〈コント、アレサンドロ、フエ〉 
米利堅全権公使
〈チヤルレス、イ、デロング〉
米利堅書記官
〈イクレルト、デロング、ヘロリ〉 
同上通弁官
〈チリーイライス〉
墺地利弁理公使
〈ヘンサー、カリッセ〉
同上書記官
〈シーボルト〉
西班牙代理公使
〈ヘブレヲロドリ、ケセムノス〉 
同上書記官
〈ニコラス リウエロ〉
仏代理公使
〈コントデ、チュレン〉
同上書記官兼通弁
〈レヲン〉
同上書記官
〈ウコント ダリエ〉
魯代理公使
〈エウグニー ヒエツオフ〉
英代理公使
〈アーシー ワットソン〉
同上書記官
〈クリツチャン、ウィリエム、ローレンス〉
同上
〈エルネス、トサトウ〉
同上
〈マルチン、ドーメンエンスリー〉
和蘭書記官
〈フアン、デルワルーク〉

各国公使等へ勅語
我国鉄道の首線を竣り、朕親ら開行するの日にあたりて列国公使等斉しく来たりて祝意を表せらる。朕、欣喜の至りに堪えざるなり。朕、更に庶幾くは、自今中外人民共に鴻利を享け、永く幸福を保ち、公使等の祝詞に負かざらんことを祈る。

【注】

(1) 鴻利:大きな利益。
(2) 永亨:永く続くこと。
(3) 庶幾:こころから願うこと。
(4) 黽勉:つとめはげむこと。精を出すこと。
(5) 賀悃:よろこばしい気持ち。