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解説
書下し
資料名

衆議院議員選挙法中改正法律案帝国議会ヘ提出ノ件外一件

解説

本資料は、衆議院議員選挙法の改正にかかる、枢密院での審査委員会の議事録です。枢密院は、大日本帝国憲法下で、皇室典範や憲法または憲法に附属する法律・勅令に関すること等について天皇に意見を求められる機関(諮詢機関)として設置されました。衆議院議員選挙法の改正は、この「憲法に付属する法律」として、枢密院の審査にかけられたものです。
資料は、昭和20年(1945)11月に開催された枢密院の審査委員会の記録で、衆議院議員選挙法の改正案について3回にわたって審査が行われていることが見えます。女性参政権に関わる質疑においては、女性参政権の付与には選挙に相応の反映があると考えられること、女性の戦時中における目覚ましい活動による国家への貢献の顕著さや政治に対する能力の高さから、女性参政権を男子と平等に設定し、かつそれを一挙に実施することとした等の答弁が記載されています。
なお、枢密院は、日本国憲法の施行(昭和22年5月2日)をもって廃止されました。

こんな「問い」はいかが

1.女性への参政権賦与について、各委員の意見を整理してみよう。また、それぞれの意見に対し、賛成や反対など、理由と共に自分の意見をまとめてみよう。
2.「マックアーサ司令部の申し越し」とはどんなことだったのか、調べてみよう。

資料情報

本資料が含まれる枢密院関係文書は、大日本帝国憲法下で重要な国務に関し、天皇の諮問にこたえることを主な任務とした枢密院の会議関係文書を、同会議の手続段階別、年別、諮問案件別に編集したものです。明治21年(1888)に枢密院が設置されてから、同院が日本国憲法により廃止される昭和22年までの、2,700冊以上の簿冊があります。本資料は、枢密院関係文書の「委員会録」に収録されています。

資料名 衆議院議員選挙法中改正法律案帝国議会ヘ提出ノ件外一件
請求番号 枢B00032100 (件名番号:015)
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/1731470
資料名

衆議院議員選挙法中改正法律案帝国議会ヘ提出ノ件外一件

衆議院議員選挙法中改正法律案帝国議会へ提出の件外一件 第一回審査委員会
 昭和二十年十一月十九日(月曜日)枢密院事務所において開会
〔出席者 省略〕

 (午前十時三十分開会)
清水審査委員長開会を宣す。
堀切内務大臣より、本案の内容につき説明あり。
南委員より、
(一)本法案中、連合軍最高司令部の要請にかかる事項を質し、堀切内務大臣より、婦人に参政権を認むべき旨の要請ありたる外、何ら具体的事項を求められたることなき旨
(中略)

潮委員より、
(一)婦人に参政権を賦与するも果たして当局の期待に足る効能ありと認むるや否やを質し、堀切内務大臣より、婦人は多く夫または親と同一歩調をとり、棄権また少なからざるべしと思料せらるるも、女子の思想は中正穏健にして左右両極に走ることなく選挙の結果に相応の反映ありと思料する旨。
(中略)

林委員より
(一)婦人の参政権に付ては、男子のそれと同様の沿革を践み、一定の制限を置くを可とすべきに、一挙男女平等とするの理由を訊し、堀切内務大臣より、一応婦人に限り二十五年以上とするの案を考慮したるが、戦時中二十五歳迄の婦人の活動目覚ましく、国家に対する貢献また顕著にして、政治に対する批判力も豊かなりと認めらるるにより、結局男子に対し年齢上の差等を設けざりし旨。坂内務次官より、現在婦人に参政権を認めざるは、白、仏、伊、端*等ラテン系の諸国にして、英国は前大戦役にこれを認め、当初は男子との間に区別を設けたるも、後、同一とし、米国は性による区別全くなき旨。
(中略)

衆議院議員選挙法中改正法律案帝国議会へ提出の件外一件、第二回審査委員会
昭和二十年十一月二十一日(水曜日)枢密院事務所において開会
(中略)

伊澤委員は、婦人参政権の賦与は漸進的に選挙運動は極力自由にするを可とするの所見を述べたる後、華族の戸主に選挙権及び被選挙権を与えざる理由を問い、堀切内務大臣より今回の改正案は参政権の拡張を中心とし、差し当たり必要なる部分の改正にとどめ、爾余の根本的問題は他日新議員をもって組織する審議会の答申をまち、貴族院の改革問題と睨み合わせ、これが解決を図らんとする旨答弁在り。
池田委員より婦人に対する参政権の賦与に関し、我国における婦人の現情に即せざる嫌いある旨、所懐の開陳あり。

桜内委員より
(一)選挙法改正の基本理念を問い、堀切内務大臣より、選挙を清新溌剌たらしむる意図に併せ、「マックアーサ」司令部の申し越しに応じたる旨。
(中略)

南委員より、国民特に婦人の政治教育、なかんずく家庭と政治との調和につき、いかに女子教育を施さんとするかを問い、前田文部大臣より、現に国民教育刷新委員会を設け研究中なるが、早急これを実施に移すべく、新有権者、ことに婦人に対しては、選挙権拡張の趣旨を解明する等、あらゆる方途を尽くしてこれが啓蒙に努力すべき旨、答弁あり。

右終わりて審査委員長は本日はこれまでとし、閉会を宣す。
(午後二時五十分閉会)

(後略)

【注】

*白、仏、伊、端:ベルギー(白)、フランス(仏)、イタリア(伊)、スイス(端西)と思われる。ただし、イタリアは1920年に選挙法を改正し女性に選挙権を認めている。またベルギーやスイスは多民族国家であり、ラテン系国家とは言えない。