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解説
書下し
資料名

女子政社並政談集会参加制限撤廃運動 一冊

解説

大正11年(1922)10月、「近時、選挙法改正の論、いよいよ盛んなる」状況に鑑み、「普通選挙法」施行にむけた徹底した調査を実施するため、内務大臣水野錬太郎(1868~1949)を委員長とする14名で構成された衆議院議員選挙法調査会が内閣に設置されます。
この資料は、翌年6月19日付で、水野委員長から時の内閣総理大臣である加藤友三郎に提出された調査審議結果が、大正13年の衆議院議員選挙法改正を審議する枢密院会議資料に収録されたものです。選挙権、被選挙権、選挙方法、選挙法のほか、選挙権等獲得運動に関する調査、10ヶ国以上の諸外国の選挙法や選挙事情が調査されています。
この資料はその中でも「女子政社並びに政談集会参加制限撤廃運動」に関する調査をまとめたもので、運動の経過、請願の要旨、女子の政社等参加に関する賛成・反対論の要旨に加え、治安警察法改正後の状況にも言及されています。

参考:「内務大臣水野錬太郎外十三名衆議院議員選挙法調査会委員長、委員並幹事任命ノ件」より(https://www.digital.archives.go.jp/img/3191632

こんな「問い」はいかが
  • 1.当時の「女子政社並びに政談集会参加制限撤廃運動」に対する、賛成論、反対論をそれぞれ整理してみよう。
  • 2.「女子政社並びに政談集会参加制限撤廃運動」に対する、政府の考え方をまとめてみよう。また、それに対してどう思うか、自分の考えをまとめてみよう。
  • 3.「女子政社並びに政談集会参加制限」が解禁された後の「女子会同の状況」を読んで、意見を出し合ってみよう。特に、この報告者が記載した、「我が国婦人の政事に興味を有せざることを証するに足る」の一文から、どのようなことが読み取れるだろうか。

資料情報

本資料が含まれる枢密院関係文書は、大日本帝国憲法下で重要な国務に関し、天皇の諮問にこたえることを主な任務とした枢密院の会議関係文書を、同会議の手続段階別、年別、諮問案件別に編集したものです。明治21年(1888)に枢密院が設置されてから、同院が日本国憲法により廃止される昭和22年(1947)までの、2,700冊以上の簿冊があります。本資料は、枢密院関係文書の「会議筆記」に収録されています。

資料名 女子政社並政談集会参加制限撤廃運動 一冊
請求番号 枢D00534100 (件名番号:012)
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/1745021
資料名

女子政社並政談集会参加制限撤廃運動 一冊

女子政社並びに政談集会参加制限撤廃運動

一 運動の経過並びにその方法

女子の政社加入、政談集会の会同及びその発起人たることを禁じたるは明治二十〔ママ〕年七月法律第五三号集会及び政社法に始まり(明治十三年布告集会条例には別段の規定なし)その以前においては問題視するの要なかりしもののごとかりしが、前記法律実施以来、早くも一部人士間にその得失を論議せられ、貴衆両院議員を通じてこれが撤廃運動を試むる者を生じ、同年十一月以来同法改正案は屡々衆議院に現れ、累年同院においてはその撤去を議決したるも常に貴族院において否決するを常とせり。
しかして明治三十三年三月法律第三十六号治安警察法の実施せらるるや、同年の議会に採択を得るべく今井歌子外四百五十九名よりなる請願書を貴衆両院に提出したる以来、毎議会前、必ずこれが撤廃に関する請願書を呈出するを常とせり。しかれどもその運動の方法は、請願その他、貴衆両院議員を通じて目的を貫徹せんとする以外に出づることなく、時に婦人団体中、一二の団体は不公開の席上においてこれが撤廃を叫ぶ者あり。また一般公開の席上においても治安警察法の撤廃及びその改正を論議せらるる際、他の問題と併せてこれが撤廃に論及する程度に出でざりき。けだし政談集会参加禁止の現在の制度においては、他に運動方法に出づるを得ざるがためなるべし。

ニ 請願の要旨

婦人の家庭的に、はたまた社会的に政治的思想を必要とするは現時の趨勢なり。しかるに婦人をして一面自由に諸新聞および雑誌の政治記事政論等を読ましめ、貴衆両院の傍聴をなさしめ、他面政治結社に加入するを禁じ、政談集会に会同し、もしくは発起人たることを禁ずる現行諸制度は矛盾は甚だしといわざるべからず。よりて治安警察法第五条中「五、女子」を削除し又は同条第二項中「女子及」を削除せられたし。

三 賛否両要旨

(1)賛成論
(イ)異性なるがゆえに政社加入・政談集会参加の自由を制限するは不合理なり。
(ロ)政事的智識を欠く婦人は妻として母として社会的使命を完うせしめんとするゆえんにあらず。
(ハ)職業婦人を要求する現代社会において、婦人の政治的知識を必要とするは男子と異なるなし。
(ニ)現在の日本婦人は政治的に無知なりとするにかかわらず、その能力を増進する方法を阻止するは矛盾なり。
(ホ)婦人参政権は普通選挙制の世界的大勢により根本的に解決せられんとするに当たり、今なおその智識の修得の機会をすら禁止制限するは他日に悔いをおよぼすものと云うべし。
(ヘ)新聞雑誌その他貴衆両院の傍聴等において政治論及び政治の実際を見聞せしめ居るにかかわらず独り政社及び集会参加のみを禁ずるは無意義なり。
(ト)現代の婦人の教育は異常の進歩を来たし、その思想においても向上して政治に参与せしむるに充分なる者多数あり。この時に当たり政治運動参加を阻止するは不合理なり。
(チ)婦人を家庭のみの者とし、高等家婢視する時代は既に経過せり。たとえ今なお女子の天分が家庭の経理、子女教養にありとの断定に従うとするも、妻とし母としなお(ロ)の必要あるや論なし。
(リ)政談集会等を禁止するもその場屋の模様により禁ぜざると同様の状況にあるは地方の実際なり。
(2)反対論
(イ)婦人の社会的任務は生理的に男子と異なる。婦人をして政治運動に参加せしむるは、男子をして家政保養を兼ねしむるに似たり。文化の促進を期し得べからず。
(ロ)我が国特有の家族制度を破壊するものにして国家の発進を阻害するに至るべし。
(ハ)我が国の女子は男子に比し、意志弱くその他の能力においても及ばざること遠し。ことに感情に動きやすきをもって不利益を蒙ること多かるべく、むしろ直接政治運動に参加せしめず、強いて政治上の知識を必要とせば他の方法を採るも支障あるなし。
(ニ)我が国の法制においては、女子に関する制限を付したるものすこぶる多し。特に民法において妻の能力を制限したる顕著なる根本条項あり。独り本制限のみ撤去するもその目的を達し得るものにあらず。しかも現在諸制度を根本的に変改せんとするは不可能の事に属す。
(ホ)人心昂奮しやすき政談集会に女子を混入するは、集会自体を狂激に導くおそれあり。女子に危害を及ぼすことなしとせず。
(ヘ)政治上の知識を修得するとその運動とは根本的にその性質を異にす。政社加入政治集会参加は政治上の知識を修得するを阻むにあらず。その運動に参加するの弊害を論ずるにあり。
(ト)欧米諸国といえども婦人に政治運動をなさしむるの可否については今なお議論の存する所にして、可とする議論に一致しおるにあらず。いわんや特有の沿革を有する我国においてをや。
(チ)地方政談集会において、場屋の関係上、集会に参加すると同様なりと称するも、婦人に政治運動を禁ずるは政治上の知識の修得を阻止するためにあらず。その主たる目的は他に存す。ことに偶々隣室においてこれを聴取したりとて一般禁止解除の理由とならず。

四 政府の意見(四十四議会及び四十五議会)

(1)第五条第一項中「女子」を削ることに関しては反対
(2)第五条第二項中「女子及」を削ることは賛成。
(3)理由
(1)女子が政社に加入するを非とするは国体に覊束力あると継続的性質あるによる家族制度に背反すると現在の婦人の政治的智識低きとに鑑み害ありて益なし。これを解放するは時期尚早なり。
(2)女子が政治集会に参加するは一時的にして結社のごとく覊絆を受くべき事情なく、むしろこれを解放して妻として母として広く知識を修得せしむる機会を得せしむるを至当とす。

五 結果

第四十五議会において議員の提出に係る治安警察法改正案中、左記(2)のみを改正することに修正可決し、本年四月十九日より実施せり。
(1)第五条第一項中、「女子」を削ることは委員会において修正改正案より削除せらる。
(2)第五条第二項中、「女子及」を削ることは可決。

六 解禁後の政談集会における女子会同の状況

政治集会会同の自由を得たる女子はその集会の都度、多数の会同者あるべしと予想したる者なきにしもあらざりしが、事実はこれに反し、解禁当時の報告的集会を除き、一集会において最も多きも十を出づることはその例稀にして、女子の会同者ある場合においてもニ、三名に過ぎざるを常とし、その多くの集会は解禁前と異ならず女子の入場者なし。要するに政社加入禁止を解くもこれと同様の現象を観るにあらずやと認められ、少数の新婦人は別問題とし、我が国婦人の政治に興味を有せざることを証するに足る。