

治安維持法
本資料は「治安維持法」の公布に関する閣議*書です。明治政府は、それまでに讒謗律、新聞紙条例(明治8年(1875))、集会条例(明治13年)、保安条例(明治20年)、治安警察法(明治33年)等の法令により、集会、結社、言論などの社会運動を取り締まってきました。
本資料には、「治安維持法」について、内務大臣と司法大臣の閣議請議、帝国議会に提出した法律案やその理由書等が含まれています。資料からは、大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災後の混乱の統制のため発令された「治安維持令」(勅令第403号)を廃止する形で制定されていることが見えます。
閣議:明治22年に内閣官制が制定され、外務、内務、大蔵等の諸省の長官である各国務大臣とそれを統括する内閣総理大臣が構成する「内閣」において、法律案、予算案、条約案などの重要案件は、内閣における会議である「閣議」を経なければならないことが定められました。「閣議請議」は、内閣を構成する国務大臣が、閣議の開催を求めること(またはその文書)を言います。
1. 内務省の閣議請議において、法案の理由書に「不穏なる行動に出でんとする者」を取り締まるためとあります(17コマ目)。政府はどのような行為を「不穏」と考えたのだろうか。
2. 政府が「不穏なる行動に出」ると考えたのは、どのような人達だっただろうか。
さらなる探究のために
(1) 「治安維持法の文書構成」(PDF資料)をもとに、当時の法律が作られる仕組みを考えてみよう。
(2) 「花押一覧」(PDF資料)をつかって、当時の内閣を構成したのは誰だったかを調べてみよう。
(1)の手引き
i) 一つ一つの資料のまとまり((1)~(6))が、どのような構成になっているかを考えよう。
ii) 資料のまとまりを日付順に並べて、どんな順番で手続きが行われているかを確認しよう。
iii) 資料(1)や資料(6)に観られる、大臣の花押が並ぶページには、どんな意味があるだろうか。
iv) 各文書には、名前、機関の名前、「済」や「可」など、様々な「印」が押されている。それぞれにどんな意味があるかを考えてみよう。
v) 「案」とは、どういう文書のことを言うのか、考えてみよう。
『公文類聚』は、明治15年から昭和29年(1954)にわたる、4,061冊もの簿冊で構成される資料群です。明治15年から同18年までのものは『太政類典』を引き継いだ編集物で、明治19年以降のものは、内閣によって作成・収受された、主として法律および規則の原議書を収録したものです。
資料名 | 治安維持法 |
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請求番号 | 類01554100 (件名番号:005) |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/1643344 |
治安維持法
〔資料(1)〕(PDF資料)
内甲第二七号 起案 十四年三月二十日 裁可 十四年三月二十四日
(花押)
別紙両院の議決を経たる治安維持法案を審査するに、貴族院議長上奏の通り、裁可を奏請せられ、然るべしと認む。
法律案
朕帝国議会の協賛を経たる治安維持法を裁可し、ここにこれを公布せしむ。
御名 御璽
摂政名
大正十四年 四月 二十一日
内閣総理大臣
内 務 大 臣
司 法 大 臣
法律第四十六号
(上奏の通り)
〔資料(2)〕(PDF資料)
治安維持法案
右、衆議院の議決を経たる政府提出案、本院において可決せり。よりて御執奏相成りたく、議院法第三十一条により、この段申し進めそうろうなり。
大正十四年 三月 十九日
貴族院議長 公爵 徳川家達
内閣総理大臣 子爵 加藤高明殿
――
貴族院は両院の議を経たる治安維持法案の裁可を奏請す。
大正十四年三月十九日
貴族院議長 公爵徳川家達
――
(法案)
〔資料(3)〕(PDF資料)
政三十一号 大正十四年三月七日 配付
治安維持法案
右、政府提出案、本院において修正議決せり。よりて議院法第五十四条により、送付に及びそうろうなり。
大正十四年三月七日
衆議院議長 粕谷義三
貴族院議長 公爵徳川家達殿
衆議院書記官長 中村藤兵衛
〔資料(4)〕(PDF資料)
治安維持法案
右
勅旨を奉じ、帝国議会に提出す。
大正十四年二月十八日
内閣総理大臣 子爵加藤高明
内 務 大 臣 若槻礼次郎
司 法 大 臣 小川平吉
―――
(添付資料)
衆議院の修正送付案(原案)と政府提出案と比照しその修正にかかる部分を印刷す。ただし左に掲ぐるほか、政府提出案と異同なきをもって同案を添え、印刷を略す。ーは修正削除の符号なり。
第一条 国体もしくは政体を変革し、または私有財産制度を否認することを目的として結社を組織し、又は情を知りてこれに加入したる者は、十年以下の懲役または禁錮に処す。
前項の未遂罪はこれを罰す。
〔資料(5)〕(PDF資料)
可
治安維持法案、帝国議会へ提出の件
右謹みて裁可を仰ぐ。
大正十四年二月十七日
内閣総理大臣子爵加藤高明
〔資料(6)〕(PDF資料)
大正十四年 二月十六日 (欄外)十四年二月十七日裁可
内閣総理大臣 法制局長官
(花押略)
別紙、内務・司法両大臣請議治安維持法案を審査するに、右は相当の儀と思考す。よりて請議の通り、閣議決定、帝国議会に提出せられ、然るべしと認む。
法律案
呈案附箋の通り
進みて原案第三条に対する修正に付ては、内務省は同意せるも司法省は同意せず。
(別紙)
治安維持法案
右
勅旨を奉じ、帝国議会に提出す
大正十四年 二月十八日 衆へ
内閣総理大臣
内 務 大 臣
司 法 大 臣
(別紙) 参照 (略)
〔資料(6)添付〕
法制局内第五号 二月十三日
内務省警秘第一〇九号
治安維持法案請議の件
現下の状勢に鑑み、治安維持法案、別紙の通り第五十回帝国議会に提出致したし
右、閣議を請う
大正十四年 二月十二日
内務大臣 若槻礼次郎
司法大臣 小川平吉
内閣総理大臣 加藤高明 殿
(法案略)
治安維持法案理由書
近時の情勢に徴するに、帝国の治安を紊るの目的を以て不穏なる行動に出でむとする者あり。しかも、これ取締法規不十分なるをもって新に法律を制定して治安維持を期するの必要あり。これ本案を提出するゆえんなり。
(添付略)