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解説
書下し
資料名

選挙権ニ関スル調査資料 一冊

解説

 大正11年(1922)10月、「近時、選挙法改正の論、いよいよ盛んなる」状況に鑑み、「普通選挙法」施行にむけた徹底した調査を実施するため、内務大臣水野錬太郎(1868~1949)を委員長とする14名で構成された衆議院議員選挙法調査会が内閣に設置されます。
この資料は、翌年6月19日付で、水野委員長から時の内閣総理大臣である加藤友三郎(1861~1923)に提出された調査審議結果が、大正13年の衆議院議員選挙法改正を審議する枢密院会議資料に収録されたものです。選挙権、被選挙権、選挙方法、選挙法のほか、選挙権等獲得運動に関する調査、十カ国以上の諸外国の選挙法や選挙事情が調査されています。資料はその中でも「選挙権」に関する調査をまとめたもので、年齢、性別、住所、納税資格など、様々な論点ごとに、国内法の沿革や、賛成・反対論の要旨、外国立法の例などがまとめられています。

参考:「内務大臣水野錬太郎外十三名衆議院議員選挙法調査会委員長、委員並幹事任命ノ件」より(https://www.digital.archives.go.jp/img/3191632

目次

年齢に関する件

性別に関する件

納税に関する件

各国における投票の状況

こんな「問い」はいかが
全体 -目次-

1.「(男子)普通選挙」に対し、どのような論点があったか、確認しよう。
2.そのうち、議論の中心だったと考えられるものはどれか、考えてみよう。

年齢に関する件

1.民法上の成人「20歳」と、選挙権が認められる年齢「25歳」の差について、どのような主張がされているか、整理してみよう。
2.現在の「成年年齢」の考え方と比較してみよう。
  参考:法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」
  (https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00218.html
3.当時の諸外国の例をみながら、思ったことを話し合ってみよう。

性別に関する件

1.「女子の公務に参与することを認めたる立法例」より、女子が公務に参与することを認める場合の基準は何であることが多いだろうか。
2.当時の諸外国の例をみながら、思ったことを話し合ってみよう。

納税に関する件

1.「恒産恒心論」について調べてみよう。また、この考え方について、自分の意見をまとめてみよう。
2.「普通選挙賛成論」のそれぞれに対し、どのような「普通選挙反対論」が述べられていたか、各要旨を対応させて整理してみよう。

各国における投票の状況

1.日本における投票率と、他国の状況を比較して、思ったことを話してみよう。

さらなる探究のために

・なぜ、諸外国の事例を調査しているのか、考えてみよう。
・なぜ、男子の納税額による制限のない選挙権の獲得を、「普通」選挙、と言ったのだろうか。女性に選挙権が認められなかったことと併せて、考えてみよう。

資料情報

本資料が含まれる枢密院関係文書は、大日本帝国憲法下で重要な国務に関し、天皇の諮問にこたえることを主な任務とした枢密院の会議関係文書を、同会議の手続段階別、年別、諮問案件別に編集したものです。明治21年(1888)に枢密院が設置されてから、同院が日本国憲法により廃止される昭和22年(1947)までの、2,700冊以上の簿冊があります。本資料は、枢密院関係文書の「会議筆記」に収録されています。

資料名 選挙権ニ関スル調査資料 一冊
請求番号 枢D00534100 (件名番号:005)
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/1745017
資料名

選挙権に関する調査資料 目次

第一 年齢に関する件

  • 一 年齢に関する我が国選挙法の立法並びに法案の沿革、及びその理由
  • 二 年齢満二十歳以上の男子数調べ
  • 三 年齢に関する外国立法例

第二 性に関する件

  • 一 女子選挙権に関する我が国の立法並びに法案の沿革、及びその理由
  • 二 我が国現行法上、女子の公務に参与することを認めたる立法例
  • 三 女子選挙権に関する外国立法例
  • 四 英国の婦人選挙権の内容

第三 住所に関する件

  • 一 住所に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革、及びその理由
  • 二 住居の要件に関する外国立法例

第四 納税資格に関する件

  • 一 納税資格に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革
  • 二 普通選挙論の要旨
  • 三 普通選挙反対論の要旨
  • 四 納税資格に関する外国の立法例

第五 教育資格に関する件

  • 一 教育資格に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革、及びその理由
  • 二 教育資格に関する外国立法例

第六 独立の生計に関する件

  • 一 独立の生計に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革、及びその論拠
  • 二 独立の生計に関する行政裁判所判決例
  • 三 独立の生計に関する外国立法例

第七 兵役義務の完了に関する件

  • 一 兵役義務完了に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革、及びその理由
  • 二 兵役義務の完了に関する外国の立法例

第八 戸主に関する件

  • 一 戸主選挙論の要旨
  • 二 戸主に関する我が国選挙法上の立法並びに法案の沿革
  • 三 戸主選挙権に関する外国立法例

第九 欠格者に関する件

  • 一 我が国選挙法上の選挙権欠格者に関する立法及び法案の沿革
  • 二 各国下院議員選挙欠格者一覧

第一〇 各国下院議員選挙権内容並びに沿革、及び投票の状況に関する統計

  • 一 下院議員選挙権者数と人口数との割合
  • 二 各国下院議員選挙資格要覧
  • 三 各国における選挙制度発達の沿革
  • 四 各国における投票の状況
資料名

(選挙権に関する調査資料)第一 年齢に関する件

一 年齢に関する我が国選挙法の立法並びに法案の沿革、及びその理由

(一)立法の沿革

年次 明治22年 法律第3号 明治33年 法律第73号 大正8年 法律第60号
年齢 25年 25年(政府提案20年) 25年
(参照)
  • 一、満20年をもって成年とす (民法第3条)
  • 二、貴族院 (イ)有爵議員(1)(貴族院議員令第4条)25年
          (ロ)多額納税議員(2)(  同 第6条)30年
  • 三、地方制度、総て25年なり(府県制第6条、市制第14条、町村制第12条等)

(二)法案の沿革

年次 大正8年
41議会
大正9年2月
42議会
大正9年7月
43議会
大正10年
44議会
大正11年
45議会
憲政会案 25年 同上 同上 同上 同上
国民党案 20年 同上 同上 同上 25年

(三)理由

(イ)20歳説の主張
  • 〇今日の日本のありように照らして、20年以上とするを適当とす(第12回衆議院委員会修正説 中村弥六)。
  • 〇成年に達したる者は、治産の能力もあり、また兵役の義務も負うて居るものなるがゆえに、選挙権を与うるも差し支えなし(第13回貴族院 一木政府委員)。
  • 〇成年者は既に法律上総ての行為の自由を有す。外国にもその例あり(第13回貴族院 末松謙澄)。
  • 〇満20年以上の男子は既に徴兵の義務に服し、また法律上社会上、自己の行動につき、すべて責任を負うものなるがゆえにこれに選挙権を与うるは当然なり(第42回、第43回衆議院 植原悦二郎)
(ロ)25歳説の主張
  • 〇20年の時代にありては、なお学校にあるか、または学校を出てたる時にして、思想未だ定まらず、この際においてはこれに政治上の大権を与えざるを可とす(第12回衆議院 前川槇造)
  • 〇成年に達するもなお修業年齢期にあるものには選挙権を与えざるを可とす(第13回貴族院 曽我祐準、周布公平)

二 年齢満20歳以上の男子数調べ

満20歳以上の男子数調べ
年齢別 大正7年12月31日現在 大正9年8月1日現在
満20歳以上 15,789,482 16,112,515
満25歳以上 13,398,23 13,697,016
満30歳以上 11,321,347
備考
  • 一、大正7年12月31日現在数は本籍人口にして、大正10年12月刊行国勢院統計書による。
  • 二、大正9年8月1日現在数は、地方制度改正の参考資料として、内務省地方局調査に係る現住人口とす。

三 年齢に関する外国立法例

国名 現行選挙資格年齢 現行民法の成年期
イギリス 男子
女子
21
30
21
21
フランス 男子 21 21
ドイツ 男女 20 21
北米合衆国 男女 21 21
イタリア 男女 21 21
ベルギー 男子 21 21
スイス 男子 20 20
オーストリア 男女 20 24
ロシア 男女 18 21
プロシア 男女 20 21
デンマーク 男女 25 25
オランダ 男女 23 23
スペイン 男子 25 25
ポーランド 男女 21 21?
チェコスロバキア 男女 21
極東共和国 男女 18 21?
スウェーデン 男女 23 23
ノルウェー 男女 23 23
カナダ 男女 21 21
オーストラリア 男女 21 21
トルコ 男子 25
ギリシア 男子 21
アイルランド(憲法草案) 男女 21 21
【注】

(1) 有爵議員:伯爵、子爵、男爵の爵位を有する者が、それぞれ同爵の25歳以上の男子から選ばれる、貴族院議員。任期は7年。貴族院に占める議員数は、それぞれ同爵位を有する総数の5分の1を超えない人数と定められた。
(2) 多額納税議員:各府県から選出される貴族院議員で、当該府県において多額の直接国税を納める上位15人中の1人が互選により選ばれた満30歳以上の男子が、勅任によりなった。任期は同じく7年。

資料名

(選挙権に関する調査資料)第二 性に関する件

一 女子選挙権に関する我国の立法並びに法案の沿革、及びその理由

(一)立法の沿革

未だ女子選挙権を認めたるものなし。

(二)法案の沿革

未だ女子選挙権に関し、法案の提出せられたるものなし。

(三)理由

婦人に対して選挙権を与えることに付きて、内務大臣の御意見如何(高木益太郎質問)。婦人に選挙権を与える必要はないと思います(第28回衆議院原内務大臣答弁)。婦人と男子とを区別するの理由無し、かつ国会は国民全部の縮図たるべきものなるをもって女子に対して選挙権を拒否すべきものにあらず(第41回貴族院山脇玄)。選挙権の拡張は、時代に相応し、順を追うて、なすべきものであると思います(床次内務大臣答弁要旨)。

二 我国現行法上、女子の公務に参与することを認めたる立法例

関係条文 内容
地方制度 旧市制 第14条第2項
旧町村制第12条第2項
帝国臣民にして直接市税を納むる者、その額市公民の最も多く納税する者三人中の一人よりも多き時は、第9条第1項の要件に当たらずといえども選挙権を有す。
水利組合 水利組合法
第18条第2項
組合会議員選挙人被選挙人の資格議員の定数、任期及び選挙に関する事項は、組合の規約をもって定むべし。
農会 農会法第11条 市町村の地区内の耕地牧場、または原野を所有する者及びその地区内において農業を営む者は市町村農会の会員とす
商業会議所 商業会議所法
第9条第1項第4項
第12条
一、帝国臣民、または帝国の法律に依り設立したる法人にして、商業会議所の地区内に営業所または事務所を有し、左の各号の一つに該当する者は議員の選挙権を有す。
(一)自己の名をもってある種の行為をなすことを業とし、営業税を納むる者
(二)自己の名をもって製造及び加工に関する行為をなすことを業とし営業税を納むる者
(三)取引所営業税を納むる取引所
(四)鉱産税を納むる鉱業権者
(五)売薬営業税を納むる売薬営業者
二、前項各号の一つに該当する者の業務を執行する社員、取締役、理事長、理事または登記したる支配人にして所得税を納むる帝国臣民は、その主として職務に従事する営業所または事務所の所在地において議員の選挙権を有す。
三、法人及び年齢30歳以上の男子にして2か年以来議員の選挙権に関する要件を具備する者は議員の被選挙権を有す
所得税調査委員 所得税法第31条 選挙区域内に住居し、前年第三種の所得税を納め、その年所得税の申告をなしたる者にして、選挙人名簿に登録せられたる者は調査委員及び補欠員を選挙し、又これに選挙せらるることを得
営業税調査委員 営業税法
第26条の6
選挙区域内において営業し、前年営業税を納めたる者にしてその年営業税課税標準の申告をなしたる者は、調査委員選挙人を選挙し、または調査委員補欠員もしくは調査委員選挙人に選挙せらるることを得
官吏 文官任用令第7条 教官、技術官その他特別の学術技芸を要する文官は、高等官にありては高等試験委員、判任官にありては普通試験委員の詮衡を経てこれを任用す。学校長は前項の規定により任用することを得

附記 治安警察法第五条第二項において、女子及び未成年者は公衆を会同する政談集会に会同し、もしくはその発起人たることを得ざりしが、大正11年法律第51号により、未成年者にあらざる限り男子と同様、その自由を認めらるることとなれり。

三 女子選挙権に関する外国立法例

国名 女子選挙権の有無 女子選挙権の内容 女子選挙権に関する沿革
イギリス 有り
(約800万人、
1919年現在)
男子と同一の条件にあらずして資格の制限、やや高し。
要旨
一、年齢30年以上のこと
二、法律上無能力にあらざる事
三、一定の資格により地方議会選挙人たること、)
もしくは地方議会選挙人たる男子の妻なること(以上一般選挙)
または学位、またはこれに相当する資格を有すること(以上大学選挙区)
(1918年国民代表法第4条)
1900年代に入り、女子参政権の問題漸く論議せられ、1910年以降に及んではいよいよ盛んとなり、有名なるサフラジェット(1)の運動等となれり。 欧州大戦開始後、その運動はようやく鎮静に帰せしが、これ、かえって女子参政権問題に有利なる影響を与え、遂に1918年の選挙法改正の際において幾多論議の末、女子選挙権は認められたり。
フランス 無し 女子選挙権を認むるべしとする議論は相当にあるがごとしといえども、未だ実現せず。反対論がまた旺なり。
ドイツ 有り
(約1800万人
1919年現在)
男子と同一の条件なり
(1920年ドイツ選挙法
 第1条、第3条、第11条 普通選挙)
男子に対しては1871年ドイツ帝国創立以来、普通選挙を認めたるも、女子に付いては全くこれを認めざりき。ドイツ革命後1919年憲法制定の国民議会の選挙の際においてはじめて女子にも選挙権を認め引き続き現行選挙法においても認めたり。
プロシア 有り
(約1100万人
1919年現在)
男子と同一の条件なり
(1920年プロイセン選挙法第1条、第3条、第11条、普通選挙)
男子に普通選挙権を認めたるは1849年のことなるも、女子にこれを認めたるは1919年プロイセン憲法制定国民議会の選挙をもって始めとす。1920年の新選挙法においてもまたこれを認む。
イタリア 男子と同一条件なり
(1920年改正選挙法普通選挙)
従来、女子選挙権に関する議論は存したりしが遂に1920年選挙法を改正し女子選挙権を認めたり。
北米合衆国 有り
(約2200万人
1920年現在)
男子と同一の条件なり
(1920年 修正憲法第19条 大体普通選挙)
北米合衆国諸州においては従来男子と同様に女子選挙権を認めたるものもありしが(憲法修正前11州)1920年合衆国憲法を修正し、性別によりて選挙権を区別する事を得ざるに至れり。
ベルギー 無し 一少部分の女子にのみ選挙権を認む。一般の女子選挙権に付きては議論は相当にあるがごとしといえども、未だ実現せず(ちなみにベルギーにおいては地方議会には女子にも選挙権を認む)
スイス 無し 議論は存するも未だ実現せず
オーストリア 有り 男子と同一の条件なり
(1920年新憲法第27条普通選挙)
男子に普通選挙権を認めたるは1907年の選挙法改正の後なるも、女子に選挙権を認めたるは革命以後のことなり。
ロシア 有り 男子と同一の条件なり(1918年革命憲法第13条普通選挙) 1917年11月革命起こりし以後、女子にも選挙権を認めたり。
チェコスロバキア 有り 男子と同一の条件なり(1920年新憲法第9条普通選挙) 新憲法にて女子選挙権を認めたり。
極東共和国 有り 男子と同一の条件なり(1921年新憲法第35条普通選挙) 右に同じ
ポーランド 有り 男子と同一の条件なり(1921年新憲法第12条、普通選挙) 右に同じ
スペイン 無し
オランダ 有り 男子と同一の条件なり(普通選挙) 1919年選挙法を改正して女子選挙権を認めたり。
スウェーデン 有り 男子と同一の条件なり(普通選挙) 1919年選挙法を改正して女子選挙権を認めたり。
ノルウェー 有り 男子と同一の条件なり(普通選挙) 1913年選挙法を改正して女子選挙権を認めたり。
カナダ 有り 男子と同一の条件なり(普通選挙) 1921年選挙法を改正して女子選挙権を認めたり。
オーストラリア 有り 男子と同一の条件なり(普通選挙) 1900年濠洲憲法第30条及び各州憲法参照
トルコ 無し
ギリシア 無し
アイルランド 有り 1922年6月15日発表にかかる憲法草案によれば男子と同一の条件にあらざるがごとし(女子制限選挙)

四 英国の婦人選挙権の内容

(略)

【注】

(1)サフラジェット:Suffragettes。20世紀初頭のイギリスにおける女性参政権獲得運動において、人々の注目を集めるため器物破壊や納税拒否などの過激な運動をおこなった活動家。

資料名

選挙権に関する調査資料 第四 納税資格に関する件

一 納税資格に関する我国選挙法上の立法並びに法案の沿革

(一)立法の沿革

年次 明治22年法律第3号 明治33年法律第73号 大正8年法律第60号
納税資格の内容 満1年以上直接国税15円以上を納むること。ただし所得税に付きては満3年以上なることを要す。 (イ)満1年以上地租10円以上を納むること
(ロ)満2年以上地租以外の直接国税10円以上を納むること
(ハ)満2年以上地租と地租以外の直接国税とを通し10円以上を納むること。
満1年以上直接国税3円以上を納むること
有権者の総数 467,331人
(明治31年7月20日現在)
1,462,226人
(大正7年10月1日現在)
3,038,091人
(大正9年5月10日現在)
備考 直接国税の種類
地租所得税
(明治22年勅令第41号)
営業税
(明治29年勅令第263号)
(一)直接国税の種類
地租所得税営業税
(明治34年勅令第186号)
売薬営業税
(明治44年勅令第135号)
(二)政府原案は「地租5円以上その他の直接国税3円以上、地租とその他の直接国税とを通し3円以上」にして、その推定有権者数は2,805,757人なりき。
直接国税の種類
地租、所得税、営業税、売薬営業税に付きては同上
鉱業税、砂鉱区税
(大正9年勅令第37号)

(参照)地方制度における納税資格の内容

関係条文 要旨
府県制 第6条 2年以来直接市税もしくは直接町村税を納め且つ1年以来直接国税を納むること
市制 第14条
第9条
2年以来直接市税を納むること
町村制 第12条
第7条
2年以来直接町村税を納むること

(略)

(二)法案の沿革

年次 明治44年
第27議会
大正8年
第41議会
大正9年2月
第42議会
大正9年7月
第43議会
大正10年
第44議会
大正11年
第45議会
日向輝武他
21名提出
納税資格撤廃
(衆議院通過貴族院否決)
憲政会案 満1年以上直接国税2円以上を納ること。
別に独立の生計者たること。
納税資格撤廃
ただし独立の生計者たること。
同上 同上 納税資格撤廃
国民党案 満1年以上直接国税2円以上を納ること 納税資格撤廃 同上 同上 同上

二 普通選挙論の要旨

第一 国体論に基づくもの

  • 一、億兆と国事を談ずるは我国国体の精華なり。これ実に古来我国明帝の採りたまいしところにして、かつ我が国憲法制定の根本義、またここに存す。
  • 二、広く会議を興し、万機公論に決すべきは、明治維新の浩謨(1)にして、明治聖帝のつとに訓諭したまいし大義なり。普通選挙の断行は最もよくこの聖旨に適合するものなり。

第二 法理的根拠によるもの

  • 一、国家は国民の国家なり(天下は万人の天下にして一人の天下にあらず)。国民の全体はこれを維持すべき義務あるとともに、またこれを維持する権利を有す。すなわち国民が国家の一員として国事に参与するは、その当然の責任にして、かつ必然の権利なり(社会連帯論より出づるもの)。
  • 二、広く国民の輿論に聴き、総て国民の利益を主張せしむべきは、立憲政治の要諦なり。これがためには国民の多数に発言の権を与えざるべからず。ゆえに、立憲政治必然の帰趨は、普通選挙に達す。
  • 三、下級民衆の利益を尊重し、その権利の伸張を図らんためには、必ずや普通選挙を断行してこれに発言の機会を与えざるべからず。
  • 四、国会は国家の縮図たるべし。ゆえにその組織および構成は必ずや一切の国民を代表し得べきものならざるべからず。国会をして一切の国民を代表せしめんがためには普通選挙を実施するのほかなし。
  • 五、人は各々その生存を維持すべき本来の権利(いわゆる生存権)を有す。しかして参政権のごときは、生存権の重要なる一発露なり。ゆえに各人は必ずや参政権を享有し、生存を維持し得ざるべからず。
  • 六、衆議院をして民選議員たるの意義を明らかにし、両院制度の実績を挙げしめんがためには、普通選挙を実施するを急務とす。
  • 七、選挙資格に制限を附し、または差別を設くること、たとえ理論上正当なりとするも、その制限または差別を設くべき適当の標準なし。財産的標準のごとき、国民の参政能力の有無の判定標準として不当なるは言をまたず。
  • 八、人は生まれながらにして天賦の権利を有す。参政権のごとき、その一つなり。国民は総て、参政権を享有せざるべからず。しかして国民参政権行使の最良の具体的方法は、普通選挙制度の実施にあり(天賦人権論より出づるもの)。
  • 九、国家は人民の構成せるものにして国家の主権は人民に発す。従いて、主権者たる総ての人民は当然に国政に参与するの権利を有せざるべからず(人民主権説又は社会契約説より出づるもの)。

第三 政治的根拠に基づくもの

  • 一、普通選挙の実施は、世界的大勢なり。この大勢に逆行するは得策にあらず。
  • 二、普通選挙の実施は国民多数の熱烈なる要求なり。国民多数の赴くところを察知してこれが適策を講ずるは為政家の当然の任務なり。
  • 三、自治的精神は、国家存立の基礎なり。しかして普通選挙実施の要求は、国民の自治的精神の発露なり。しかのみならず、普通選挙の実施は逆に国民の自治的精神の涵養に対しても大益あるものなり。
  • 四、普通選挙は必ずしも国民に高度の教養を要求せず、我が国の国民は既にこの点に関し充分の参政能力を有す。能力を具備せざるものに対して権利をこばむは不当なり。
  • 五、民本主義(デモクラシー)は近世の大思潮にして普通選挙制度は民本思潮の一表現なり。これに背離するがごときは、現代政治の帰趨を察知せざるものにして、到底許すべきにあらず。
  • 六、近代の政治は労働者の自覚とその勃興せる勢力を無視することを得ず。かつ、労働者階級と資本家階級との衝突は、近時益々甚だし。これが対策としては、普通選挙を実行するほかに適策なし。
  • 七、階級的偏見を打破し、近時の改造思潮を利して、社会の改善を図らんとせば、普通選挙の断行を有利とす。
  • 八、停滞せる政界を覚醒し、その偏見と固陋(2)とを打破せんが為には、普通選挙実施のほかには別に方法なし。
  • 九、腐敗せる選挙界を廓清し、在来の弊害を除去して公明の選挙を行わしめんがためには普通選挙の断行を要す。
  • 十、近時国内に流行する過激なる言動を抑止し、急激なる社会的変革を予防し、社会の正常穏健なる発達を期せんがためには、普通選挙を断行して人心の安定を図るべし。
  • 十一、政党内閣の基礎を確立し、これをしてその実績を挙げしめんがためには、普通選挙を実施して国民的後援を強大ならしむることを要す。
  • 十二、普通選挙を断行して臣民翼賛の道を広め、国民全体をして国家に対し重大なる責務を負わしむるは、熱烈なる愛国心を養成し、国家観念を鞏固にするゆえんなり。
  • 十三、現在政党の弊害を除去し、政党を改造してその健全なる発達を図らしめんがためには、普通選挙の断行を必要とす。
  • 十四、不真面目なる衆議院の気風を一新し、沈衰せる状態を覚醒してその真摯なる活躍を促すには、普通選挙を断行して、これを国民全体の監視に附するを最良策とす。
  • 十五、一朝有事の際において全国民の大動員をなさんがために、あらかじめ準備するところなかるべからず。これが精神的準備として、普通選挙の実施を必要とす。

第四 雑

  • 一、国民は総て兵役義務を負担す。義務のみを負担せしめて権利を拒否するの理由なし。国民は当然に参政の権利を有す。
  • 二、普通選挙を断行するは世界に対する軍国主義的誤解を一掃するために必要なり。
  • 三、普通選挙の断行は、国民に最も有効なる教育的効果を及ぼし、その政治的ならびに社会的智識を増進す。
  • 四、責任観念の欠乏は現時の大弊なり。国民責任観念を養成するためには、一般に参政権を附与してこれに責任を負わしむるは必要なり。
  • 五、参政権は国民の栄譽権なり。特別の理由なくしてこの栄与権を制限するは不当なり。
  • 六、現時国民の通弊たる内的生命の萎縮を恢復し、国民性の健全なる発展を庶幾(3)せんがためには、普通選挙の断行より良策なし。
  • 七、国際連盟の精神を実行するため、普通選挙の実施を必要とす。

三 普通選挙反対論の要旨

第一 絶対的反対論

  • 一、立憲政体は必ず普通選挙に根拠を置かざるべからずというの理由なし。選挙は国政に参与するに適当なる者を挙ぐるの一手段たるに過ぎず、その形式は一つに時の便宜に従うべきのみ。議会制度に民意代表の意味を加うべきものにあらず。
  • 二、普通選挙は選挙人の識見を低下す。普通選挙によりて選挙界を廓清(4)せんとするがごときは不可能なり。
  • 三、普通選挙に在りては、衆愚が多数を推して少数なる有識上流社会を脅威するのおそれあり。
  • 四、天賦人権説または人民主権説を根拠とせる普通選挙論が我が国において到底採用することを得ざるは明らかなり。
  • 五、普通選挙は立憲君主政体と相容れず。
  • 六、納税資格をもって選挙権の要件とするは、必ずしも不当にあらず(恒産恒心論)。
  • 七、現行法は選挙権に付き、機会均等なり。決して不公平あることなし。かつ、いかなる選挙制度を設くるも、選挙資格に付きて何らかの制限を設くることはけだしやむことを得ざるなり。

第二 相対的反対論

  • 一、政治は理論にあらず。よくその国の実情に適合するを主眼とす。しかも我が国においては選挙制度の実施以来、日なお浅し。国民の政治的智識、未だ低級なる今日、直ちに普通選挙制を実施するは、その実情に適応せざるものなり。
  • 二、選挙権の拡張は、急激に行うべきものにあらず。順に遵い、漸を追うて進むを可とす。しかも我が国においては最近に選挙権拡張して以後日なお浅し。今日直ちに普通選挙を実施するは、未だその時機にあらず。試練と経験を経たる後、これを行うもあえておそしとせず。
  • 三、我が国の国情は普通選挙を断行するにあらざれば救済することあたわざる様に急迫せるものにあらず。今日において普通選挙を断行するは、かえって国情を騒然たらしむるのおそれなきや。
  • 四、国民は未だ普通選挙を要求せず。これ大正八年衆議院解散の結果に見るも明らかなり。
  • 五、まず地方制度において普通選挙制を施き、しかる後、国会に及ぶを順序とす。
  • 六、普通選挙は思想の悪化を防止すというも、かえって今日行わるる普通選挙論の背後に危険思想を包蔵せずと断ずることを得ず。
  • 七、普通選挙は世界的大勢なりというも、直ちにこれに模倣するは識者の態度にあらず。外国にも普通選挙反対の議論を存す。

第三 雑

  • 一、兵役の義務と選挙権とを比較して考量するは非なり。選挙権は義務に対する報酬たるべきものにあらず。
  • 二、普通選挙に国民を教化するの効果なし。たとえ効果ありとするも、国民の教化を目的として選挙制度を設くべきものにあらず。
【注】

(1) 浩謨:大きな計画のこと。
(2) 固陋:古い習慣や考えに固執して、新しいものを好まないこと。
(3) 庶幾:心から願うこと。
(4) 廓清:わるいものをすっかり取り除くこと。

資料名

選挙権に関する調査資料 第五 各国における投票の状況

第一 日本(地方局調査)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
明治45年5月 1,503,650 1,351,793 89.90 選挙資格=25年以上の男子にして同一選挙区内に1年以上住居し直接国税10円以上を納むる者
大正4年3月 1,546,341 1,424,695 92.13
大正6年4月 1,422,118 1,307,167 91.92
大正9年6月 3,069,787 2,661,591 86.70 選挙資格=25年以上の男子にして同一選挙区内に6カ月以上住居し直接国税3円以上を納むる者

第二 イギリス (1921年版憲法年鑑による)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
1885 5,707,531 4,391,952 76.9 男子準普通選挙
1886 5,707,531 2,764,896 48.4
1892 6,121,307 4,349,778 71.0
1895 6,332,454 3,622,223 57.2
1900 6,732,613 3,278,583 48.6
1906 7,266,708 5,631,698 77.4
1910 10月 7,705,602 5,234,293 87.0
1918 21,392,322 10,788,639 58.9 男子普通選挙
女子制限選挙
1922

第三 フランス (政治議会評論による)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
1877 81.0 男子普通選挙
1881 69.0
1885 77.0
1889 77.0
1893 70.0
1898 76.0
1902 76.8
1906 77.5
1910 11,330,000 8,786,000 77.5
1914 11,141,547 8,401,260 75.4
1919 10,863,421 6,730,000 62.0

第四 ドイツ(ドイツ統計年鑑等による)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
1871 7,656,745 3,888,095 50.78 男子普通選挙
1874 8,523,984 5,190,254 60.89
1877 8,943,568 5,401,021 60.39
1878 9,124,085 5,760,947 63.14
1881 9,090,157 5,097,760 56.08
1884 9,383,524 5,662,957 60.35
1887 9,769,320 7,540,938 77.19
1890 10,145,322 7,228,542 71.25
1893 10,628,771 7,673,973 72.20
1898 11,441,399 7,752,692 67.76
1903 12,530,464 9,495,586 75.78
1907 13,352,494 11,262,829 84.35
1912 14,236,722 12,188,337 84.53
1919 1月 36,784,000概数 30,525,000 83.00 男女普通選挙
1920 36,777,000概数 26,028,362 70.3
1921 36,777,000概数 27,673,104 75.8

第五 イタリア(Atrtistica delle elezioni generali poli tieke Roma 1914による)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
1870 530,018 240,974 45.5
1874 571,939 318,517 55.7
1876 605,007 358,258 59.2
1880 621,896 369,624 59.4
1882 2,017,829 1,223,851 70.7
1886 2,420,327 1,415,801 58.5
1890 2,752,658 1,477,173 53.7
1892 2,934,445 1,639,298 55.9
1895 2,120,185 1,251,366 59.0
1897 2,120,909 1,241,486 58.5
1900 2,248,509 1,310,480 58.3
1904 2,541,327 1,593,886 62.8
1909 2,930,473 1,903,687 65.8
1913 8.443,205 5,100,615 60.4 男子普通選挙
1919 12月 9,554,273

第六 北米合衆国(1922年版世界年鑑による)

総選挙年次 有権者総数 投票者総数 有権者数に対する
投票者数百分比
備考
1918 概数
24,024,000
13,079,261 54.4 男子は普通選挙にして女子に選挙権を認めたる州は11なり
1920 概数
44,500,000
25,338,350 56.9 男女普通選挙
1922