

1.衆議院議員高柳覚太郎提出普通選挙法案ニ対シ貴族院ニ於ケル政府委員ノ言明ニ関スル質問ニ対シ答弁書衆議院ヘ回付ノ件
2.帝国議会貴族院委員会議事速記録(第27回)
第27回帝国議会(明治43年(1910)12月23日~翌年3月22日)において、「普通選挙」法案が衆議院を通過し、貴族院に送付されました。3月11日に貴族院の第一読会に提出されたこの「普通選挙」法案に対し、政府委員(法制局長官)の安廣伴一郎(1859~1951)が、反対意見を表明し、同法案を「極めて危険なる思想に基づくもの」等と言明しました。資料1は、同月14日に衆議院議員の高柳覚太郎(1867~1937)ほか31名が、このような発言が政府の所見であるのかを質すため提出した質問書に対し、政府の答弁書を決定した閣議書です。高柳議員の質問書の賛成者には、「犬養毅」の名前がみえます。
資料2は、安廣伴一郎の貴族院における発言を記録した議事速記録です。
資料1
資料2
資料1について
1.5コマの資料が、どのような順番でつづられているか、その構成を整理してみよう。
2.高柳覚太郎の質問内容をまとめてみよう。
3.内閣は、高柳覚太郎の質問に対し何と答えているだろう。
4.高柳覚太郎の賛成者として見える「犬養毅」について調べてみよう。
資料2について
5.貴族院における政府委員(安廣伴一郎)は、「選挙権」はどのような権利であるとしているか、整理してみよう。
6.政府(委員)は、何を恐れてこのようなことを言っているのか、考えてみよう。
さらなる探究のために
・大日本帝国憲法下での、衆議院、貴族院の権限を調べてみよう。
・現在の選挙や選挙権の考え方から、政府委員(安廣伴一郎)に反論してみよう。
資料1は、『公文雑纂』という資料に収録されたものです。『公文雑纂』は、内閣が作成・収受した、明治19年から昭和25年(1950)までの文書が含まれる3,000冊を超える資料で、『公文録』や『公文類聚』に収録された条規典例以外の文書が編冊されたものと考えられています。
資料1
資料名 | 議院議員高柳覚太郎提出普通選挙法案ニ対シ貴族院ニ於ケル政府委員ノ言明ニ関スル質問ニ対シ答弁書衆議院ヘ回付ノ件 |
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請求番号 | 纂01202100 (件名番号:051) |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/2491760 |
資料2
資料名 | 帝国議会貴族院委員会議事速記録(第27回) |
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請求番号 | ヨ314-0176 |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/file/1256180.html |
衆議院議員高柳覚太郎提出普通選挙法案ニ対シ貴族院ニ於ケル政府委員ノ言明ニ関スル質問ニ対シ答弁書衆議院ヘ回付ノ件
(1) 議甲八一
明治四十四年三月二十日
(花押)
衆議院議員高柳覚太郎提出普通選挙法案に対し、貴族院における政府委員の言明に関する質問に対する別紙答弁書、右、閣議に供す。
衆議院議長へ回付案
衆議院議員高柳覚太郎君提出普通選挙法案に対し、貴族院における政府委員の言明に関する質問に対し、別紙答弁書差し進めそうろうなり。
三月二十一日 内閣総理大臣
衆議院議員高柳覚太郎君提出、普通選挙法案に対し、貴族院における政府委員の言明に関する質問に対する答弁書
一、質問書に記する所は政府委員の述べたる所と異なるものありといえども、要するに政府は普通選挙を以て我が国情に適せざるものと認むるに在りて、政府委員はこの趣旨を陳述せるものなり。
一、政府委員は適当と認むる場合において、何時にても議案に付き、その意見を述ぶることを妨げず。
右、答弁に及びそうろうなり。
(2) 議甲八一
高柳覚太郎提出、普通選挙法案に対し貴族院における政府委員の言明に関する質問主意書
右、議院法第四十九条により、転送に及びそうろうなり。
明治四十四年三月十四日
衆議院議長長谷場純孝
内閣総理大臣侯爵桂太郎殿
衆議院書記官長 林田亀太郎
(3) 明治四十四年三月一四日提出
質第四六号
普通選挙法案に対し、貴族院における政府委員の言明に関する質問主意書
右成規により提出そうろうなり。
明治四十四年三月十四日
提出者 高柳覚太郎
賛成者
犬養毅 大石正巳 河野廣中
関 直彦 石田仁太郎 服部綾雄
武田真之助 日野国明 箕浦勝人
関矢橘太郎 片岡直温 小寺謙吉
関 和知 仙谷 貢 水野正巳
的野半介 蔵原惟郭 大内暢三
岡崎佐次郎 福本 誠 森田勇次郎
坂口仁一郎 佐々木安五郎 守屋此助
西能源四郎 高木益太郎 森 正
神保東作 卜部喜太郎 竹田文吉
大津淳一郎
普通選挙法案に対し貴族院における政府委員の言明に関する質問主意書
一、本月十二日、貴族院会議において、政府委員は普通選挙法案に対し、普通選挙をもって極めて危険なる思想に基づくものとし、君主国にその基礎を有せずと断じ、旦つ多数なる下流社会が少数なる上流社会を圧倒するの結果を来たすものと言明せられたり。政府は果たしてかくのごとき所見を有するや。
一、政府は右言明に対し、責任あるものと信ず。この重大なる問題に関し、政府は衆議院会議において何等弁明する所なく、たまたま貴族院においてかかる不当の言議を弄す。その理由いかん。
帝国議会貴族院委員会議事速記録(第27回)
〇議長(公爵徳川家達君)議事日程第十七、普通選挙に関する法律案、衆議院提出、第一読会
〔東久世書記官朗読〕
普通選挙に関する法律案
右、本院提出案送付に及びそうろうなり。
明治四十四年三月十一日
衆議院議長 長谷場純孝
貴族院議長 公爵 徳川家達君
帝国臣民たる男子にして満二十五年以上の者、選挙人名簿調製の期日前満一年以上、その選挙区内に住所を有し、なお引続き有するときは、衆議院議員選挙権を有す。
衆議院議員選挙法中、納税に関する規定はこれを廃止す。
附則
本法は次の総選挙よりこれを施行す。
〔政府委員安廣伴一郎君、演壇に登る〕
〇政府委員(安廣伴一郎君) 本案につきましては、政府は絶対的に反対を表するものでございます、本案はただいま行われて居りまするところの制限選挙の制度に代うるに、普通選挙の制度を用いようという案でござりまするが、この普通選挙ということの理想は、そもそも天賦人権論という、いわゆる一時ヨーロッパに流行りましたところの思想より起こりましたところのもので、各人ことごとく生まれながらにして選挙権をもって居るものだという、極めて杜撰なる、極めて危険なる思想に基づくところのものであろうと存じます。今日においては、最早この学説の勢力というものはございませぬで、無論、人々生まれながらにして左様な権利などをもって居るものではない。すなわち国家から与えられたる賜りものである。他の公権と同様なるものであるということは、ほとんど今日は争う余地は無いと存じます。よし多少の余地はありましたと致しましたところが、民主国ならばその基礎があるかもしれませぬが、君主国においては全然その基礎を有しないところのものと存じます。いわんや、立憲の基礎において全然、他の君主国と国体を異にして居るところの我が帝国では到底適応しない制度だと考える次第でございます。もしかくのごとき制度をば採用いたしたならば、選挙人の識見は益々下がりは致しまするとも更に上がるということは言われませぬので、決してこれをもって一国の選良を得ることにおいては不十分なる結果を来たすであろうと考えます。遂には多数なる下流社会が少数なる上流社会を圧倒せざればやまないところの結果を来たしはしないかというおそれをいだいて居るのでござりまして、政府は徹頭徹尾、これに反対を表しまする次第でございます。