国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 長岡智子
はじめに
国立公文書館(以下「当館」という。)は2025年12月にカザフスタン共和国大統領公文書館(以下「大統領公文書館」という。)と協力覚書を交換した。2026年6月9日から11日にかけて、大統領公文書館の主催による「第3回国際アーキビスト会議――デジタルアーカイブ・エキスポ」が同国首都のアスタナで開催され、同館からの招待を受け、当館の古矢一郎理事他職員1名が会議に参加した。本稿では同会議の概要及び会期中に行った同館の視察について報告する。

アレムAI外観
1.第3回国際アーキビスト会議
1.1 会議の概要
この会議は、アーカイブズをめぐる現代的課題を議論し、国際協力と記録遺産の保存を推進するため、大統領公文書館が隔年で開催している国際会議で、2022年及び2024年に続いて今回が第3回となる[1]。当初から開催に当たって国際公文書館会議(International Council on Archives、 以下「ICA」という。)やユネスコの支援を受け、今回もICAの会長やユネスコ「世界の記憶」の関係者等が主要ゲストとして招待されていた。当館からは初めての参加となったが、今回もヨーロッパ、中東、アジア等の30か国以上から500人以上のアーカイブズ関係者が参加したということだった。
会場となったアスタナの国際人工知能センター(アレムAI)は、2017年の国際博覧会のカザフスタン・パビリオンを、AI分野における教育・研究・起業の促進を目的とした国際センターとして整備し、2024年に開館した施設である。巨大なガラス張り球体のデザインが特徴的な建物で、1階の公共スペースの一画に主会場の会議場が設けられ、そこに隣接するスペースでIT関連企業等の展示会「DA-EXPO」も開かれた。会議は一部のプログラムを除いてこの建物の中で、主会場と別フロアの円形劇場に分かれて2つのセッションが同時並行する形で進められた。使用言語はカザフ語、ロシア語、英語の3か国語で、カザフ語と英語、ロシア語と英語の2組の同時通訳が用意されていた。
会議のプログラムは以下のとおり[2]。次項で、いくつかの発表について内容を紹介する。
第3回国際アーキビスト会議「デジタルアーカイブ・エキスポ」
2026年6月9日~11日、アスタナ
| 6月9日 | |
| 展示会「DA-EXPO」の開会 | |
| 第3回国際アーキビスト会議開会式 | |
| (全体セッション) 「デジタルアーカイブ:パラダイムシフト」 |
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| (セッション1) 「アーカイブズとAI:ツール、倫理及び将来戦略」 |
(セッション2) 「デジタルアーカイブ:現代の言説」 |
| 6月10日 | |
| (ユネスコ・セミナー) 「人工知能:『世界の記憶』国際登録への影響」 |
(セッション3) 「革新的アーカイブ・エコシステム:インフラ、連携及び持続可能性」 |
| (セミナー) 「よりよい歴史教育:AIを活用して学生の文書理解力を高める」 |
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| (MURAトーク) 「デジタルアーカイブズ:国家、科学、ビジネス、及び創造産業の新たな機会」 |
(セッション4) 「アーカイブズの未来:新たな能力とリーダーシップ」 |
| 6月11日 | |
| (ワークショップ1~3) 「アーカイブズ実務向上のためのデジタル技術」 |
(セッション5) 「社会のためのアーカイブズ」 |
| 第3回国際アーキビスト会議閉会式 | |

当館古矢理事の発表の様子
1.2 発表等
1.2.1 全体セッション「デジタルアーカイブ:パラダイムシフト」
会議初日、開会式に続いて開催された全体セッションで、当館の古矢理事が「国立公文書館におけるデジタルアーカイブ連携と学習コンテンツの挑戦(Challenges in Digital Archives Collaboration and Learning Content Development)」のタイトルで発表を行った。発表では、当館のデジタルアーカイブ事業を通じた連携の拡大について、他機関との横断検索の拡充や国の分野横断型ポータル「ジャパンサーチ」との協力を通じた取組を紹介した。さらに、近年は、デジタルアーカイブを基盤として、一次資料を用いた動画・クイズ・資料集などの学習コンテンツを制作し、学習支援の場へと活用の幅を広げていること、今後ともデジタルアーカイブの価値の最大化と、次世代に向けた歴史教育支援の基盤づくりに取り組んでいく所存であることなどを述べた。
同じセッションでは、他に大統領公文書館のAliya Mustafina館長、国連ジュネーブ図書館公文書館のCharlotte Warakaulle館長、ファミリーサーチ・インターナショナルのMark Bragg理事長、中国国家档案局のQu Kai档案・記録監督部副部長、イギリス国立公文書館のJohn Sheridan最高デジタル・情報責任者、韓国大統領記録館アーカイバル・サービス課アーキビストのImjeong Ko氏等が登壇した。
このうち、Mustafina館長は「AI時代のアーカイブズ」のタイトルで発表を行い、2026年がカザフスタンにおいて「デジタル化と人工知能の年」と宣言され、アーカイブズの分野に於いてもAIとデジタル化を軸に改革を推進し、記録管理の高度化と信頼基盤の強化を目指していることを紹介し、AI活用の利点とリスク、法制度や人材育成、公開と安全の両立等の課題に触れた。
Kai氏は「アーカイブズ情報提示の革新的実践:中国の視点から」というタイトルで、中国では過去20年にわたりAI、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)及びモバイル技術を活用してアーカイブズの提示方法を革新してきたとして、国内の具体的事例を示すと共に、それらを支えてきた戦略、法制度、国家事業について、体系的に紹介した。
Sheridan氏は「AI時代のデジタルアーカイビングの経済学」と題して、アーカイブズの経済的特性とAIの影響を分析し、記録量の急増に対しデジタルアーカイブズの生産性向上が必要であることなどを述べた。
Ko氏は「大統領私文書収集の現状と課題」というタイトルで、韓国では大統領記録管理法と専門機関の設立により大統領の公私の記録保存体制が確立していることを述べた上で、大統領の私的記録は歴史の空白を補う一方、予算の制約やプライバシー等の課題があり、今後はAIの活用による効率化が期待される、という報告を行った。

ユネスコ・セミナーの様子
1.2.2 ユネスコ・セミナー「人工知能:『世界の記憶』国際登録への影響」
本セミナーでは、Fackson Bandaユネスコ「世界の記憶」担当課長、Kumis Seitova「世界の記憶」カザフスタン国内委員会委員長、Sun Parkユニバーシティカレッジ・ダブリン助教、Lai Ti Phangシンガポール国立公文書館上級副館長らが登壇した。セミナーの前半ではBanda氏から「世界の記憶」の概要紹介とSeitova氏からカザフスタン国内における「世界の記憶」関係の活動紹介が行われた。
セミナーの後半では、Park氏及びPhang氏から「世界の記憶」国際諮問委員会保存小委員会の下に設けられたAI作業部会の活動について報告があった。作業部会メンバーでもあるPark氏は、AIによって生成されたものがユネスコの定義による「記録遺産」とみなせるかという点を中心に作業部会で検討が進められている、AI生成記録と「世界の記憶」の登録基準に関する議論を紹介した。Phang氏は、AI作業部会の上位組織に当たる「世界の記憶」保存小委員会の議長を務める立場から、2025年にAI作業部会が設置された経緯と、部会で検討中のもう一つの課題であるAI生成記録の保存方法に関する議論について述べた。

大統領公文書館外観
2.大統領公文書館視察報告
大統領公文書館[3]は1994年に大統領令により当時の首都アルマトイ(アルマティ)に設立された。アスタナへの首都移転後も同館の拠点はアルマトイに置かれていたが、2022年にトカエフ現大統領によって大規模な組織再編が行われ、2025年にアスタナに新本館が開館した。
アルマトイの分館とあわせ、1918年以降の記録を管理しており、大統領府及び大統領総務局の所管組織を中心に、外務省を含む45機関から行政文書の移管を受け入れる他、私文書の寄贈も受けている。アルマトイ分館では旧ソ連からの独立前の資料が保管されており、同館内には2021年に「20世紀の政治的弾圧に関する資料研究センター」が設置されている。なお、他の政府機関の記録については文化情報省所管の国立公文書館が管理している。
今回の滞在中に、アスタナ本館の展示室、閲覧室及び保存修復ラボを視察した。展示会場は11のセクションで構成され、共和国の独立から現在に至る各時期を代表する文書が展示されていた。インタラクティブ機能や映像を多用し、幅広い世代が理解しやすい展示となるよう工夫が施されていた点が印象的であった。中央に配置された憲法の展示は、15世紀半ばのカザフ・ハン国にその起源を求め、現行憲法に至るまでの変遷をたどれる構成となっていた。
閲覧室には44台の端末が設置されており、そのうち22台が資料閲覧用として運用されている。利用者は原本ではなくデジタル化資料を閲覧する仕組みとなっているが、オンラインでの提供は行われていない。また、歴史上の重要な時期やテーマごとに編纂した資料集も整備されており、これらの利用率も高いとの説明を受けた。1994年のアルマトイでの開館以来、研究事業向けに約6,000件の資料提供を実施しており、そのうち約400件は海外研究者による利用で、日本人研究者による利用実績も約15件に上るとのことであった。
資料のデジタル化率は50%弱で、館内で利用請求に応じたデジタル化作業も行っているという。修復については、世界各国の手法を比較・分析した結果、和紙が最も優れた材料であると評価し、活用しているとの説明があった。
おわりに
今回の国際アーキビスト会議への参加及び大統領公文書館の視察を通じて、アーカイブズ分野を取り巻く最新の国際動向、特にロシアや中央アジア諸国など、日本では接する機会の限られる地域の取組に触れることができた。その中でも、カザフスタンには、新たな技術や知見を積極的に取り入れようとする姿勢が強く感じられた。
また、会議期間中にはICAや各国機関との協力関係強化に向けた取組が数多く行われており、大統領公文書館がアーカイブズを国際協力や対外発信のための重要な資源として活用していることがうかがえた。当館でも今回得られた知見や人的ネットワークを今後の業務に活かすとともに、大統領公文書館をはじめとする海外機関との連携・協力の深化に努めていきたい。
[1]第1回及び第2回はカザフスタン最大都市のアルマトイで開催され、アスタナでの開催は今回が初めてだった。過去2回の会議については以下を参照。
第1回会議報告書 https://archive.president.kz/upload/iblock/b53/az4alkorzebrfjcukqp3xoluy7pnktqf/mat_congr_
1%20%D0%BE%D1%82%2020.06.2025.pdf(access: 2026年7月31日)
第2回会議報告書 https://archive.president.kz/upload/iblock/cc1/330aq66a6kz01pltna3znu5xh2pppfxu/2%20congress%20materials.pdf(access: 2026年7月31日)
[2]発表者・タイトルの入った詳細プログラム(英語)は以下を参照。
https://www.archives.go.jp/publication/archives/pdf/archives101_Final_Programme_III_Congress.pdf
[3]https://archive.president.kz/en/(access: 2026年7月31日)
