〔認証アーキビストだより〕アーキビストを生きる

外務省外交史料館 太田 宗志

1、はじめに
  本稿は、私がどの様に「アーカイブズ」の世界と出会い、「アーキビスト」になったのか、その経緯をご紹介するとともに、現職である外務省外交史料館の主担当業務である国立公文書館アジア歴史資料センターへの協力に関する経緯・概要・課題についてご紹介することを目的としている。
  本稿執筆の機会を賜った国立公文書館の関係各位に満腔より感謝申し上げる。なお、本稿において意見・解釈にわたる部分は私の独自のものであり現職・元職等の所属機関を代表するものでないことを念のため申し添える。

2、「アーカイブズ」(「團藤文庫」)との出会い
  私がアーカイブズの世界とはじめて関わるようになったのは、2013年4月、龍谷大学大学院法学研究科博士後期課程への進学に際し、指導教員の福島至先生より團藤重光博士(1913~2012年)の遺贈史料(以下「團藤文庫」という)の整理と研究についてお誘いをいただいたことを端緒としている。上記とほぼ同時期に團藤文庫を所蔵する龍谷大学矯正・保護総合センター[1]に嘱託研究員(2014年度以降はリサーチ・アシスタント)として入職し、アーキビストの一歩を踏み出した。

(1)法学者・團藤重光と團藤文庫の構造
  團藤は、東京大学教授、最高裁判所判事、東宮職・宮内庁参与などの栄職を歴任した戦後日本を代表する法学者であり、現行刑事訴訟法立法化への主導的な関与をはじめ、戦後社会の骨組みを築いた人物の一人である。また、学界のみならず刑事裁判を中心とした裁判実務に大きな足跡を残した。
  文庫所蔵の史料は、日記メモ類、手稿、裁判記録、立法史料、大学史料、書簡類、アルバム類、書籍類(日、英、独、仏、西、露文など)の多岐にわたるほか生活史料を含み、その数は8万点以上に上る。史料の整理事業は龍谷大学矯正・保護総合センターにおいて現在も続いている。

(2)救い主としての「アーカイブズ学」
  さて、着任当初、一介の刑事訴訟法学徒であり、原史料と向き合ったことがなかった私は途方に暮れていたが、ほどなく組織や個人の活動記録の収集、整理、保存、提供に関する理論や方法を研究する「アーカイブズ学」やアーカイブズ運営の専門職である「アーキビスト」の存在を知り、わらをもつかむ思いで日本アーカイブズ学会の門をたたくとともに、国文学研究資料館の主催するアーカイブズ・カレッジ(史料管理学研修会)長期コース(2015年度)を受講・修了した。アーカイブズ・カレッジを受講したことによりはじめてアーカイブズ学の基礎的な知識体系を習得することができた。これは私の文庫全体への理解を深めるとともに、学内業務を進めていく上でも非常に役立った。また、人脈形成の面でもアーカイブズ・カレッジは重要であった。私の同期生の多くは現在有力な文書館や博物館に勤務し、いまでも仕事のよき相談相手である。

(3)史料の整理と研究
  團藤文庫の整理と研究は、「團藤プロジェクト」という多様な学問領域の研究者(刑事法学、法史学、法社会学、公法学、日本政治外交史、アーカイブズ学等)による共同研究により進められてきた。史料の紹介を通じて研究の可能性を発信するとともに、團藤の日記の翻刻を進め、現在第1巻(1978年11月~1981年3月)を刊行したところである。また、團藤の法思想や総合的な人間像について日本放送協会との共同研究にも着手し、その成果を2023年4月ドキュメンタリとして放送した[2]。團藤が最高裁判事として大阪空港公害訴訟に対してどの様な思いでどの様に取り組んだのか、訴訟をめぐる新たな解釈を明らかとした。加えて、團藤の史料を学生や社会一般の方たちに発信するため、團藤のライフヒストリーを中心に企画展示を展開した。かつて團藤のテキストで学説を学んだ方、團藤の生き方に共感した方、今現在の司法に團藤の様な人物が必要であると感じる方々が遠方から京都の展示会場へ足を運んでくださった。ギャラリートークを通じて多くの方にアーカイブズとアーキビストの仕事と魅力を伝えられたのも良い機会であった。
  この間、2020年には、第1回目となる国立公文書館認証アーキビストの認証の審査に合格し、認証アーキビストとなった。以後、正式に能力を認められたアーキビストとして学内業務に関われるようになった。

3、「アーキビスト」として生きる-外務省外交史料館へ
  私は、2024年2月1日付で外務省外交史料館に国立公文書館アジア歴史資料センター(以下「アジ歴」という)協力事業の担当官(アジア歴史資料センター協力室任期付職員)として採用された。

(1)外務省外交史料館について
  外務省外交史料館(以下「当館」という)は、1971年4月、外務省大臣官房総務課に設置された公文書館である。
  当館は、2026年4月現在、117,000冊の特定歴史公文書等(外交史料)を所蔵している。主要な所蔵史料としては、外務省記録等(戦前期約40,000冊、戦後期約63,000冊)、条約書(約900件)、国書・親書(約1,100通)、正・続「通信全覧」(重要文化財、約2,100巻)、吉田茂元総理関係史料等がある。
  主たる業務としては、①外交史料の整理・保存、②閲覧者対応・利用請求対応・レファレンスサービス、③所蔵史料検索システムの管理・運用、④展示[3]、⑤『日本外交文書』の編纂・刊行、⑥アジ歴への協力、⑦調査・研究、⑧広報・教育連携等を実施している。
  私は上業務のうち⑥を所掌しており、アジ歴に対する戦後外交記録の画像データ提供を担当している。本業務を理解する基礎として「アジア歴史資料整備事業」の経緯を以下簡単に振り返るとともに、戦後外交記録画像データの提供に関する当館の立場を説明したい。

(2)「アジア歴史資料整備事業」の経緯と戦後外交記録画像の提供[4]
  当館では、2001年11月のアジア歴史資料センター創設時より我が国とアジア近隣諸国等との間の歴史に関し、国が保管する資料について国民一般及び関係諸国民の利用を容易にし、併せて、これら諸国との相互理解を促進することを目的とした「アジア歴史資料整備事業」に協力し、当館所蔵記録の画像提供を行ってきた(2001年から2015年までに提供した戦前期の記録は900万コマに上る)。
  2015年、第二次安倍晋三内閣時に設置された「21世紀構想懇談会」において、戦後の我が国とアジア近隣諸国等との和解のプロセスについても資料を公開して情報発信可能か、問題提起がなされた。それらを踏まえた上で政府の戦後70年施策の一環としてアジ歴の充実が打ち出された。従来取り扱われている資料は第二次世界大戦前のものであるが、戦後の資料についても収集、公開する必要があることが確認された。外務省、国立公文書館、アジ歴等で調整の結果、戦後外交記録の画像提供が決まり、提供対象は、第1回(昭和51年)から第21回(平成20年)外交記録公開で公開されたファイルのうち、アジア諸国に関連するファイルを1972年の日中国交正常化を目途に提供することとなった。2025年度末現在、当館からアジ歴に対して提供したファイル数は約41,000冊、コマ数は約987万コマである。またこのうち戦後外交記録については、約3,800冊、約87万コマの画像データを提供しているところである。

(3)業務のプロセス
  業務のプロセスとしては、①提供対象史料の選定、②審査、③公開準備作業(文書のマスキング等)の史料撮影の準備作業を進めたのち、撮影事業者による撮影を行うわけであるが、審査およびマスキングの確認等のファイル内容の確認は徹底して実施している。撮影事業者による撮影は検品から納品を含め半年程度であり、当館による検品を徹底したのちアジ歴にデータを提供している。

(4)業務上の課題
  当館では、2025年度までは史料保存の観点から史料のマイクロフィルム撮影を行い、マイクロフィルムを電子画像データ化してアジ歴に画像を提供していた。当館のアジ歴への画像提供数が、近年のマイクロフィルム及び処理薬品(現像液等)の価格高騰等により減少傾向を示していたのは心苦しい限りであった。
  さて、2025年12月末、マイクロフィルムが終売し、当館では2026年度より直接デジタル撮影によるアジ歴への画像提供を開始する。色味による文字の不鮮明やにじみ等がマイクロフィルム撮影時に課題となっていたが、これらはデジタル撮影への移行により解消される見込みである。アジ歴へ鮮明なカラー画像を提供する等、当館では今後もアジ歴のデジタルアーカイブの利用者にとってより裨益となる内容を目指しアジ歴協力事業を進めていく次第である。また、期待寿命500年と言われたマイクロフィルムの終売は、アーカイブズ界に長期保存方法の研究を強く迫ることとなった。本件について現実的課題として調査研究を進めていく所存である。

4、結びにかえて
  「アーカイブズ」も「アーキビスト」も知らずアーカイブズの世界に飛び込んで今年度で13年になる。外務省に任官して大学を去るとき、学生諸君に「今まで本当にありがとう。歴史を仕事にして生きていけることをアーキビストとして実践し、証明する」と約束して出てきた。あの日の約束を忘れず今後もアーキビストを生きていきたい。

  

[1] 犯罪・非行をした人の立ち直りを支え、再び罪を犯すことを防ぐこと等を目的とする民間唯一の研究教育機関。團藤文庫のほか、正木ひろし文庫、竹沢文庫(帝銀事件)、巣鴨プリズン関係資料などを所蔵する刑事司法アーカイブズでもある。https://rcrc.ryukoku.ac.jp/index.php
[2] ETV特集「誰のための司法か~團藤重光最高裁・事件ノート~」(2023年4月15日放送)。
[3] 2024年4月8日、麻布台ヒルズ森JPタワー5階に展示室をリニューアルオープンした。常設展示室では、幕末から21世紀に至るまでの代表的な条約書を展示している。また、企画展示室では吉田茂元総理の関係資料を展示するとともに、企画展示も開催している。2026年5月2日に来訪者が3万人を越えた。https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/shiryo/archive.html
[4] 当館のアジ歴への協力事業の経緯・現状等についてはアジア歴史資料センター協力室「活動報告 アジア歴史資料センターへの協力の経緯と現状」『外交史料館報』31号(2018年)が詳細であり本稿はこれに依拠した。