神戸大学大学文書史料室
室長補佐(主任政策研究職員(特務准教授))
野邑 理栄子
はじめに
国立大学法人神戸大学(以下「本学」という。)では、2025(令和7)年4月1日付けで「神戸大学准認証アーキビスト養成プログラム」(以下「プログラム」という。)を設置し、大学院人文学研究科及び大学院法学研究科において全7科目12単位を開講した。このプログラムは、履修者に「准認証アーキビストの資格取得に必要な知識・技能等を修得させるため、大学院博士課程前期課程の科目を履修させること」を目的としており、研究分野を問わず、全学の全ての大学院生が履修可能となっている(申合せ(後掲)第1、第2)。同年5月9日付けで国立公文書館が定める「認証アーキビスト審査細則」第2条第1項第9号に規定され、認証及び准認証アーキビストに必要な「知識・技能等」の要件を満たす「大学院修士課程の科目」として正式に認められた。
本稿では、プログラムの設置経緯、概要及び履修状況について取り上げたい。
1 設置の経緯
プログラム設置のきっかけは、2021(令和3)年、理事(副学長)からの提案であった(以下の役職名は当時のもの)。長年にわたり「歴史資料ネットワーク」活動を通じて地域の歴史資料保全に尽力してきた彼は、同年の理事就任まもなく、本学におけるアーキビスト養成の推進を周囲の学内関係者らに呼びかけるようになった。理事は、本学がアーキビスト養成によって、国、自治体、地域及び民間企業などの重要な文書や記録を守り活用し社会の発展を支える人材の育成に寄与することを期待した。この提案の背景には、1995(平成7)年阪神・淡路大震災の被災大学としての本学の責務があった。本学では、被災大学の重要な責務として、約30年もの長きにわたり災害対策研究や震災資料の収集保存公開に従事するとともに、自然災害によって被災した資料の救出保全に注力してきた。また、「国立公文書館等」政令指定を受けた本学公式アーカイブズとして大学文書史料室を設置し10年超の実績もある。これらの経験と実績を活かした人材育成こそが本学の使命である、これがプログラム実現を目指した全ての学内関係者の共通認識であった。以後、アーキビスト養成のための授業科目の検討や先行する他大学の情報収集など、少しずつ準備が進められた。
2023(令和5)年3月、国立公文書館において「「准認証アーキビスト」骨子」が決定され、准認証アーキビストの認定が2024(令和6)年度から開始される見込みとなった。これを受けて本学では、准認証アーキビスト資格取得のためのプログラム設置に向けて本格的な準備を開始した。同年5月、理事、人文学研究科長、法学研究科長の三者会談が行われ、以後、プログラム設置に賛同した両研究科長を中心に、地域連携推進本部長、DX・情報統括本部情報基盤センター長、大学文書史料室長の協力を得て、具体的な準備が進められることとなった。
同年9月、人文学研究科長、法学研究科長、大学文書史料室長の三者連名で、プログラム設置の要望書を学長に提出し、プログラムの意義と必要性を対面で訴えるとともに、実務関連2科目を開講するため弁護士やアーキビスト等の実務経験者による授業担当が必要であるとして非常勤講師費用の大学負担を要望し、学長から理解を得ることができた。この学長への要望書では、本学がプログラムに取り組むことの主要な意義として、「(1)公文書及びその他の文書の適切な管理という、社会的必要性の高い事項に即応する人材を養成するという点で、公共性が高いこと、(2)本学は、かねてより阪神・淡路大震災及び東日本大震災等により被災した史料の保存・再生・利用に向けてわが国をリードする役割を果たしてきており、文書管理・保存に向けた多大なノウハウを既に有していること、(3)それだけに、このノウハウを今後も積極的に後進に伝えていくという使命を負っていること、(4)とりわけ西日本においてはアーキビスト養成の仕組みが今のところ十分に整っておらず、神戸大学が現時点でこれに積極的に取り組めば、大阪大学と並んでアーキビスト養成の先導組織となれること」の4点が示された。
プログラム設置に当たって特に重視された点は、(1)複数の部局が協力して運用すること、(2)履修対象者を全学の大学院生(博士課程前期課程及び後期課程)に広げること、(3)目的を資格取得に特化すること、の3点である。なかでも(2)は、幅広い多彩な研究分野のアーキビストを養成するために必要なことであり、(3)は、大学院生の職業選択の幅を広げる手助けとなることを期待したものである。幅広い多彩な「知識・技能等」が求められるアーキビストを養成するためには、履修対象者を特定の研究分野のみに限定すべきではない、との認識があった。また、社会全体として常勤研究職が極めて少なく、高度な専門的知識を活かすことのできる就職先が期待できない厳しい現況下で、専門職であるアーキビストを就職先の選択肢として大学院生に提供することの意義は大きいと考えられた。
2024(令和6)年11月20日、「神戸大学准認証アーキビスト養成プログラムに関する申合せ」(以下「申合せ」という。)を制定し、プログラムの運用に当たっては人文学研究科、法学研究科、地域連携推進本部、DX・情報統括本部情報基盤センター及び大学文書史料室(建制順)の5部局が協力することを申し合わせた(翌年4月1日施行)。なお、当初の計画では、プログラム設置は2024(令和6)年度の予定であったが、準備遅延のため1年延期し、2025(令和7)年度設置となった。
2 プログラムの概要
プログラムでは、准認証アーキビストの資格取得に必要な全7科目12単位(表1参照)を提供しており、「神戸大学大学院に在籍する学生(特別聴講学生、特別研究学生、科目等履修生、聴講生及び研究生を除く。)」であれば、誰でも履修することができる(申合せ第2)。
プログラムの運用に当たっては、学内の5つの部局(人文学研究科、法学研究科、地域連携推進本部、DX・情報統括本部情報基盤センター及び大学文書史料室)が自らの専門性を活かして協力し合うことを申合せで定めている(申合せ第3)。特定の部局が主導するのではなく、5部局の連絡会議において情報交換及び意見交換を行いプログラム運用の実効性を高めることとしている(申合せ第4)。なお、連絡会議の準備や議事進行などの全体調整は大学文書史料室が担当する(申合せ第3、第4)。
本学では、このプログラムを教育職員免許(教員免許)や学芸員資格と同様に資格取得のための授業科目として位置付けている。例えば、新入生に配布される人文学研究科の『学生便覧2026年度(令和8年度)』には、各種資格の取得方法を説明する「資格取得関係」(146~167頁)の中に、教育職員免許、学芸員資格、社会調査士及び専門社会調査士資格と並んで「准認証アーキビスト資格取得について」(166~167頁)の説明が掲載されている。このように本学のプログラムは、大学院生を対象とする准認証アーキビスト資格取得のための授業科目であり、そのため、准認証アーキビスト資格取得を希望する全学の大学院生に門戸を開き、それぞれの授業科目について専門的知見を持った教員が、所属の垣根を越えて講義を担当している。
なお、プログラム提供科目に関する規定の建付けは、開設部局ごとに異なる。人文学研究科の場合は、「神戸大学大学院人文学研究科規則」別表第2(授業科目及び単位数)の中で、博士課程前期課程の「研究科共通科目」として2科目(アーカイブズ活用研究、アーカイブズ活用演習)、「准認証アーキビスト関連科目」として3科目(アーカイブズ学特殊研究、アーカイブズ古文書特殊研究、アーカイブズ情報管理特殊研究)の全5科目を規定している。法学研究科の場合は、「神戸大学大学院法学研究科規則」第11条第5項(「授業科目は、必要に応じて増設することがあり、その科目区分、授業科目の名称、単位数、要件その他必要な事項は、増設の都度定める。」)に基づく「増設」科目として位置付けており、別途、申合せ別表の中で全2科目(法学基礎論特殊講義、アーキビストと法特殊講義)を規定している。
複数の部局が協力して運用し、履修対象を全学の大学院生に広げ、目的を資格取得に特化したプログラムの設置は、現時点では本学だけである。本学ではプログラムを通じて、国、自治体、地域及び民間企業などの重要な文書や記録を守り活用し社会の発展を支える人材の育成に尽力している。
表1 神戸大学准認証アーキビスト養成プログラム提供科目
| 授業科目名 | 開設部局 | 単位数 | 履修区分 | 科目分類 | 開講に協力する部局等 |
| アーカイブズ学特殊研究 | 人文 | 2 | 必修 | M | 大学文書史料室(※)、地域連携推進本部 |
| アーカイブズ活用研究 | 人文 | 2 | 必修 | M | 大学院人文学研究科 |
| アーカイブズ活用演習 | 人文 | 2 | 必修 | M | 大学院人文学研究科 |
| アーカイブズ古文書特殊研究 | 人文 | 2 | 必修 | M | 大学院人文学研究科 |
| アーカイブズ情報管理特殊研究 | 人文 | 2 | 必修 | M | DX・情報統括本部情報基盤センター |
| 法学基礎論特殊講義 | 法学 | 1 | 必修 | M | 大学院法学研究科 |
| アーキビストと法特殊講義 | 法学 | 1 | 必修 | M | 大学院法学研究科 |
人文:大学院人文学研究科、法学:大学院法学研究科、M:博士課程前期課程、(※):主担当
3 履修状況
開設初年度である2025(令和7)年度の履修状況は、全ての授業科目において1科目当たり平均17名と予想を上回る人数の履修があった。所属先については、文系のみであるものの、4つの大学院研究科の6専攻という広範囲に及んだ。翌2026(令和8)年度は、理系を含む5つの大学院研究科から6専攻の学生が履修中である(6月末現在)。参考までに、必修科目「アーカイブズ学特殊研究」の履修者の内訳は、表2のとおりである。
表2 「アーカイブズ学特殊研究」履修者数一覧 (単位:名)
| 履修者所属 | 2025年度 | 2026年度 | |
| 博士課程前期課程 | 人文学研究科 文化構造専攻 | 1 | ― |
| 人文学研究科 社会動態専攻 | 9 | 6 | |
| 人間発達環境学研究科 人間発達専攻 | 4 | 2 | |
| 法学研究科 法学政治学専攻 | 1 | 2 | |
| 工学研究科 建築学専攻 | ― | 1 | |
| 工学研究科 市民工学専攻 | ― | 1 | |
| 博士課程後期課程 | 人文学研究科 社会動態専攻 | 1 | ― |
| 国際文化学研究科 文化相関専攻 | ― | 1 | |
| 国際文化学研究科 グローバル文化専攻 | 1 | ― | |
| 法学研究科 法学政治学専攻 | ― | 2 | |
| 工学研究科 建築学専攻 | ― | 1 | |
| 合計 | 17 | 16 | |
履修取消者を除く
なお、相対的に大学院の授業科目は少人数制が通常であるため、次年度以降は履修者数の極端な減少もあり得ることから、改めて周知を図る必要があると考えている。
おわりに
本学のプログラムでは、社会人を履修対象外としている。これは、人文学研究科において規定上、社会人の科目等履修生を受け入れていないことによる(法学研究科では科目等履修生の受入れ規定あり)。履修対象を社会人に広げることは将来的な課題であるが、まずは大学院生のためにプログラム運用の安定化を優先することとしている。
なお、あくまで私見だが、本来自らの研究に専念すべき大学院生たちが、12単位修得という多大な努力の末に准認証アーキビスト資格取得を果たしたとしても、その専門的「知識・技能等」を活かす場があまりにも少ない現況下で、大学院修了の准認証アーキビストが幅広く活躍できる社会的環境を、早急に整備すべき必要性に迫られていると痛感している。
