アジ歴システムリニューアルについて

アジア歴史資料センター
渡部英俊

1 はじめに
  
  アジア歴史資料センター(以下「アジ歴」)は、国立公文書館、外務省外交史料館及び防衛省防衛研究所の3機関が所蔵するアジア歴史資料を横断的に検索・閲覧できるデータベースとして、インターネットを通じて歴史資料を広く公開している。利用者は国内研究者のみならず、海外研究者、教育関係者、学生、一般利用者等、多様な層に広がっている。
  
  近年、デジタルアーカイブを取り巻く環境は大きく変化している。従来は利用者が直接データベースへアクセスして資料を検索する利用形態が中心であったが、近年では検索エンジンや多言語検索、さらには生成AI等を通じて情報へ到達する機会が増加している。また、スマートフォン等多様な端末から利用する利用者も増えており、利用環境も大きく変化している。
  
  今回のリニューアルは、このような利用環境の変化を踏まえ、国立公文書館デジタルアーカイブ(以下「DA」)と一体的な形で検索・閲覧・公開環境全体の見直しを行ったものである。

アジ歴データベース詳細検索画面

2 リニューアルの全体像
  
  アジ歴とDAは、従来から相互に連携した形で運用されてきた。アジ歴では国立公文書館所蔵資料を含め、各機関資料を横断的に公開している。
  
  今回の更新では、アジ歴及びDA双方についてシステム更新を実施し、検索・閲覧・公開環境全体について見直しを行った。これは単なる画面デザイン変更ではなく、利用者の利用環境変化を踏まえた更新として位置付けられる。
  
具体的には、検索エンジン経由の利用増加やスマートフォン利用増加等も踏まえ、検索画面や閲覧画面等のUI(User Interface:利用者が直接触れる部分)及びUX(User Experience:利用者体験)の見直しを行った。
  
3 今回の主な変更点
  
今回の更新においては、主に以下の点について見直しを行った。
  
  第一に、検索機能について、従来機能を継続しつつ、検索環境全体の整理を行った。表記揺れへの対応等を維持しつつ、検索機能全体の利用環境について見直した。
  
  第二に、検索画面や閲覧画面について、検索導線等の整理を行った。詳細検索、辞書検索等について、利用者が必要な情報へ到達しやすくなるよう画面構成全体を見直した。
  
  第三に、ビューア画面について見直しを行った。画像表示領域を拡張することにより、資料画像を閲覧しやすい環境を整備した。
  
  第四に、利用方法やFAQ等について継続的な提供を行うとともに、利用者向け情報提供について見直しを行った。
  
4 国立公文書館DAとの関係
  
  今回の更新で、アジ歴では従来のURL体系(アジ歴が従来から採用している「/das/meta/」「/das/image/」などのURL構成)を維持しつつシステム更新を実施した。アジ歴とDAの両システムは共通基盤上で更新されたものの、利用者の継続利用や既存リンクとの関係等も踏まえ、それぞれ異なる対応が採られている。
  
  さらに、アジ歴トップページから国立公文書館横断検索への導線整備も実施し、利用者の情報探索支援の充実を図っている。国立公文書館横断検索は、国立公文書館の所蔵資料に加え、全国の公文書館等が公開する歴史資料の目録情報を横断的に検索できる機能である。利用者は単一機関のデータベースを個別に検索することなく、複数機関の所蔵資料を一括して検索することが可能であり、歴史資料へのアクセス向上に寄与している。

アジ歴HP トップページ画面

5 検索環境の変化とアクセス可能性の拡大
  
  近年、デジタルアーカイブを取り巻く情報探索環境は大きく変化している。従来は利用者がデータベースへ直接アクセスし、検索画面から資料を探す利用形態が中心であったが、現在では検索エンジンや生成AIを介して資料情報へ到達する機会も広がりつつある。
  
  こうした環境変化を踏まえ、今回のシステムリニューアルでは、クローリング対象となるサイトマップをアジ歴・データベース全体へ拡充した。これにより、日本語及び英語の目録情報について、検索エンジンや生成AIから参照されやすい環境が整備された。実際に、生成AIの中には、利用者が「日本海海戦」や「東郷平八郎」などの歴史事項について質問すると、アジ歴のレファレンスコードを示しながら関連資料を案内する事例も確認されている。利用者は生成AIを入口として資料の存在を知り、そのままアジ歴で一次資料を閲覧できるようになりつつある。
  
  このように、アーカイブの利用形態は、利用者がデータベースへ直接アクセスするだけでなく、検索エンジンや生成AIを経由して資料情報へ到達する形へと広がっている。
  
  また、歴史資料へのアクセス向上を図るため、アジ歴ではジャパンサーチとの連携について関係機関との調整を進めている。ジャパンサーチは、全国の図書館、博物館、公文書館、美術館等が保有する多様なデジタルコンテンツを横断的に検索できるプラットフォームであり、利用者は一つの検索画面から複数機関の資料情報へアクセスすることができる。アジ歴としても、関係機関との連携を進めながら、歴史資料へのアクセス性及び利便性の更なる向上を目指している。
  
6 利用者への影響と対応
  
  リニューアル後、利用者からは画面構成や利用方法に関する様々なご意見が寄せられた。新たな検索画面や閲覧画面への変更に伴い、従来から利用している利用者にとっては操作感の違いを感じる場面もあった一方、新たな利用者にとっては、検索導線や閲覧環境の整理により、利用しやすい環境の整備が図られた。
  
  また、検索機能についても、利用者から寄せられたご意見や検索ログ等を踏まえながら、検索結果の表示方法や検索支援機能について継続的な改善を進めている。開発・運用業者と連携し、検索結果の表示順位や検索語の表示方法などについて検証を行い、より利用しやすい検索環境となるよう改善に取り組んでいる。
  
  さらに、辞書・表記ゆれ機能についても、検索ログ等を活用しながら、基本語・同義語・関連語の整理や検索支援機能全体の見直しを進めている。今後も利用者からの様々なご意見を踏まえ、より使いやすいデータベースとなるよう継続的な改善を図っていく予定である。
  
7 今回の更新の位置付け
  
  今回の更新は、現時点で実現可能な範囲において、安定性及び継続運用を重視した設計となっている。
  
  一方で、AIによるレファレンス支援等の高度機能については、現時点では実装されていない。これらについては、技術成熟度、運用面及び予算面等も踏まえ、今後の検討課題となる。
  
8 今後の展望
  
  今後については、引き続きコンテンツ(目録情報)の充実を図っていく。
  
  具体的には、3機関から提供される資料公開拡充、日英目録整備等を進めるとともに、資料に付与する目録情報(件名、作成者、年代、識別子、関連情報など)をより充実・標準化し、検索性や他システムとの連携を向上させるといった、メタデータ高度化についても検討を進める予定である。
  
  また、将来的にはLOD(Linked Open Data)化、Wikidata連携、多言語対応等についても検討の余地がある。(注:LODは、目録情報を他機関のデータと機械的に結び付けて活用できる形式で公開すること。Wikidataは、人物・地名・出来事などの知識データを世界中で共有・活用するためのオープンなデータベース)
  
  さらに技術面では、日本語目録のAI事前翻訳、AIを活用した検索支援、AI-OCR等についても今後の可能性として考えられる。
  
  今後は、検索エンジンや生成AIへの対応に加え、ジャパンサーチをはじめとする外部サービスとの連携を進めることにより、国内外の利用者がアジ歴の資料へより容易にアクセスできる環境の整備を進めていく。また、関係機関との連携を深めながら、歴史資料の利活用促進と情報発信の充実を図っていく。
  
9 おわりに
  
  アジ歴は、今後も継続的改善を行いながら、歴史資料へのアクセス環境向上を図っていく。
  
  また、アーカイブズ関係者との連携や、利用者のご意見等も踏まえながら、歴史資料の利活用促進に努めていきたい。