公文書館整備に向けた取組―平成28年熊本地震から10年―

熊本市総務局行政管理部総務課 文化財保護審議員 美濃口紀子

1 はじめに
  平成28年(2016年)に発生した熊本地震から、令和8年(2026年)4月で10年を迎えた。
  本市では現在、令和9年度末(2027年度末)の開館を目指して公文書館の整備を進めているが、その背景・経緯には、平成28年熊本地震も大きく関係している。
  今回は公文書館整備に向けた本市の取組を紹介するとともに、平成28年熊本地震から10年の節目に本市の公文書管理の現状と課題を整理することで、今後の適切な公文書管理や活用に役立てたいと考える。

2 平成28年熊本地震の被害 註1)
  平成28年(2016年)4月14日に前震、16日に本震が発生、最大震度7が2回、震度6が5回、震度1以上の余震は4000回以上を数えた。死者90人の内訳は関連死が84人と多く、避難所は最大で267箇所、避難者数は最大で11万人、住宅被害は全壊・大規模半壊ほか合計13万件を超え、がけ崩れや液状化の被害のほか、断水、停電、ガス供給停止等も発生した。
  こうした中、本市では地震直後から膨大な数の地震関連文書が発生し、文書管理の主管課である総務局行政管理部総務課は、文書管理に関する様々な対応を迫られることとなった。

3 本市の公文書管理と公文書館整備に向けた主な動き
  本市の公文書管理と公文書館整備に向けた主な動きを、表1にまとめた。その内容は、①ハード面(公文書館や公文書館システム等の整備)、②ソフト面(法律・条例の施行、検討委員会の開催・答申、行政監査等)、③人材育成(アーカイブズ研修受講、東京都公文書館への職員派遣等)に分類できる。以下では①~③の3種に分けて、それぞれの経緯を報告する。

表1 公文書管理と公文書館整備に至る経緯                                               ①ハード面、②ソフト面、③人材育成

年度 本市の公文書管理と公文書館整備に向けた主な動き 分類
H16 2004 熊本市「総合文書管理システム」導入(電子決裁開始)
H23 2011 「公文書等の管理に関する法律」施行
H28 2016 「平成28年熊本地震」で公文書(地震関連文書)が大量に発生
H30 2018 「熊本市保存文書等の管理に関する検討委員会」
市長マニフェスト「文書管理条例を制定します」
平成28年熊本地震に関する文書の保存期間を当分の間10年保存とする(通知)


R2 2020 「熊本市公文書の管理に関する検討委員会」
R3 2021 「熊本市公文書管理条例」 註2)施行
「熊本市公文書等管理委員会」 註3)設置、廃棄審査開始
「熊本市歴史公文書等選別基準」 註4)制定


R4 2022 市長マニフェスト「公文書館を設置し、専門職員を配置します」
熊本市公文書等管理委員会「公文書の管理の在り方についての答申」 註5)
①②③
①②③
R5 2023 「熊本市公文書館整備基本計画」案
本市職員「アーカイブズ研修Ⅰ」受講開始(R5~)
①②③
R6 2024 「熊本市公文書館整備基本計画」パブリック・コメントの実施後、7月に成案 註6)
熊本市公文書館整備(新築工事)基本設計・実施設計(R6~7)
文書管理システムの更改
公文書管理プロジェクトチーム招集(文書分類表について)
行政監査テーマ「公文書の管理について」 註7)
東京都公文書館へ職員派遣(年1名×3年間:R6~8)
①②③




R7 2025 熊本市文書分類表の作成(総務課による文書ファイル管理開始)
「アーカイブズ研修Ⅲ」受講開始(R7~)

R8 2026 公文書館整備工事(R8~9)予定
公文書館システム構築、公文書デジタル化、公開開始予定
公文書管理プロジェクトチーム招集(平成28年熊本地震関連文書の取扱いガイドライン)


R9 2027 熊本市公文書館(仮称)開館 ※年度末を予定

 

  3―1 ハード面(公文書館や公文書館システム等の整備)
  本市では約80,000箱の公文書を市内20か所以上に分散保存しており、その中には水害等の危険性がある場所も含まれている。地震以外にも、昭和28年(1953年)6月26日水害で市役所地下書庫保管の『熊本市政資料』 註8)の大半を失う苦い経験も持つため、公文書館建設予定地の選定では地震・水害等のリスクが低いことも条件とし、北区植木町の旧リサイクルプラザに決定した。令和5年「熊本市公文書館整備基本計画」案では既存建物改修案と新築工事案について様々な観点から比較検討の結果、新築工事案を採用、その後、パブリック・コメントを経て、令和6年7月「熊本市公文書館整備基本計画」策定、同年10月「熊本市公文書館整備基本・実施設計」着手(図1・2)、令和8年度公文書館整備工事着手、令和9年度建物竣工予定、令和9年度末(2027年度末)開館を目指して準備を進めている。
  また本市では、館建設以外にも様々な公文書管理業務に取り組んでいる。公文書館システム構築では、資料閲覧環境の充実を図るため既存3システム(史料目録管理システム、行政文書目録公開システム、地震関連文書保存・検索システム)の機能を統合、さらに新機能(横断検索、オンライン閲覧、書庫管理)を追加して一元的に管理・公開する予定である。あわせて、公文書のデジタル化 註9)も進めている。

図1 熊本市公文書館(仮称)外観パース

図2 同 内観パース

  3―2 ソフト面(法律・条例の施行、検討委員会の開催・答申、行政監査等)
  平成28年熊本地震後、平成30年度に「熊本市保存文書等の管理に関する検討委員会」を設置、「協議報告書」では公文書が市民の知的資源であることに鑑み、公文書の取扱いは条例によるべきとの意見が出された。そして、公文書管理条例の制定は、市長マニフェストにも位置付けられた。その後、同検討委員会で示された考え方を基礎とし、「熊本市公文書の管理に関する検討委員会」で新たに条例化の検討等、公文書管理全般の審議を行い、令和2年第四回定例会で「熊本市公文書管理条例」が可決、12月18日公布、令和3年4月1日から施行した。令和3年度以降は「熊本市公文書等管理委員会」を設置、毎年数回の会議を開催し、公文書管理に関する様々な課題や取組について随時諮問、廃棄文書の審査も依頼している。
  他に注目すべき点として、令和6年度行政監査テーマ「公文書の管理について」がある。公文書管理を取り上げること自体、全国的に珍しい例と思われるが、公文書館整備に向けた適切な文書管理は、総務課(主管課)だけでなく市全体で進めるべきという本市の姿勢の表れでもある。監査内容も公開されているが、指摘を踏まえて、紙文書、電子文書を問わず、全庁的に適切な公文書管理を今後さらに進めていく。
  3―3 人材育成(アーカイブズ研修受講、東京都公文書館への職員派遣等)
  本市では、総務課職員が国立公文書館の「アーカイブズ研修Ⅰ・Ⅲ」を受講し、実務経験・調査研究実績等の条件を達成することで、今後順次、認証アーキビストの認証を受けることを想定している。
  また、令和6年度から東京都公文書館に本市職員を派遣している(1人1年ずつ、計3人)。資料保存や整理閲覧のノウハウについて、先進施設の現場で日々学んでおり、帰庁後の活躍が期待される。

4 公文書管理の庁内プロジェクトチームについて
  公文書管理に関するルール策定は全庁への影響が大きいため、全庁照会や職員研修はもとより、重要な課題解決に向けた庁内プロジェクトチームを適時招集している。近年は「熊本市文書分類表の再編成」(R6~7年度)や「平成28年熊本地震関連文書の取扱いガイドラインの策定」(R8年度)を目的に招集した。
  4-1 熊本市文書分類表の再編成(R6~7年度)
  熊本市文書分類表の再編成作業は、総務局行政管理部総務課を中心に、庁内各局主管課の職員(文書主任)をプロジェクトチームのメンバーとして招集して協議を行った。令和6~7年度にかけてアンケート、職員研修、全庁照会等も実施しつつ段階的に進め、「熊本市文書分類表」の全面的な再編成に取り組んだ。
  4-2 平成28年熊本地震関連文書の取扱いガイドラインの策定(R8年度)
  平成30年度末に「平成28年熊本地震に関する文書ファイルの保存期間を当分の間10年保存とする」との通知を出し、当面は廃棄処分を行わないこととした。しかし、令和9年度(2027年度)から、保存期間満了(10年)の文書が順次発生する。その大半は、歴史公文書等選別基準により特定歴史公文書(永久保存)とする予定だが、対象外として廃棄すべき文書の有無や選別ルール等のガイドライン作成が必要となるため、地震関連文書が多い課をプロジェクトチームに招集し、令和8年4月から協議中である。

5 熊本市公文書館(仮称)の開館に向けて ―今後の課題と展望―
  今後は、「平成28年熊本地震関連文書の取扱いガイドライン」作成、「熊本市文書分類表」と共有フォルダ内ファイルとの紐づけ等、さらなる公文書管理ルールの整備が必要となる。引き続き、熊本市公文書等管理委員会への諮問等により、客観的かつ開かれた議論を重ねていきたい。また職員の専門性向上にも努め、将来は公文書館の専門職員による職員研修等により、本市職員全体のスキルアップに繋げたい。
  本市では公文書館に中間書庫を併設予定であるため、現用文書の「レコードマネジメント」から非現用文書の「アーカイブズ」に至る文書のライフサイクルについて、館の設置を見据えた業務全体の検討・整理が肝要となる。適切な文書分類は公文書管理の基盤であり、その良否は後続する公文書館業務の全てに影響を及ぼす。今後もハード面、ソフト面、人材育成を含め、望ましい公文書館の設置を目指したい。
  
註1 熊本市2026年4月『平成28年熊本地震総括資料10年間の歩みと更なる発展へ』
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00370449/index.html
註2 熊本市公文書管理条例 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00338660/index.html
註3 熊本市公文書等管理委員会 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00336442/index.html
註4 歴史公文書等選別基準 https://info.city.kumamoto.jp/download.php?tp=youkou&id=12447&nm=1
註5 熊本市公文書等管理委員会2022年11月『公文書の管理の在り方についての答申』
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00336442/5_36442_329295_up_P22BSAX8.pdf
註6 熊本市2024年7月『熊本市公文書館整備基本計画』 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00356602/index.html
註7 熊本市監査委員2025年3月『令和6年度(2024年度)監査報告書 第23回 行政監査~公文書の管理について~』
https://www.city.kumamoto.jp/kiji0033937/3_3937_459013_up_wiwxysc3.pdf
註8 『熊本市政資料』 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00336442/3_36442_493274_up_8xt00mz2.pdf
註9 熊本市公文書等管理委員会 第25回 配布資料2025年7月『熊本市公文書デジタル化計画』(案)
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00336442/3_36442_493274_up_8xt00mz2.pdf

【追記】
  本稿の提出後、7月28日に「令和8年熊本地震」が発生しました。国立公文書館の皆様をはじめ、全国の関係者の皆様には大変ご心配をおかけいたしました。
  本市では、発災直後に災害対策本部を設置し、「レベル5強化」の全庁総力態勢に移行しました。総務課でも業務継続計画(BCP)に基づき、通常業務をストップして、避難所対応や施設の被災状況確認、その他継続が必要な業務に注力しつつ、昼夜を徹した対応に追われております。
  全国の自治体や関係機関、企業・団体、ボランティアの皆様からの多大なご支援に対しまして、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。本市の公文書管理については、今後も適切に対処してまいります。