国立公文書館 梅原康嗣
はじめに
地方公共団体の公文書館設置や公文書等の管理に関する条例の制定に向けた検討委員会・審議会等への参加を依頼されることがあります。委員の中に認証アーキビストの方が含まれており(委員名簿に所属のほか、「認証アーキビスト」と記載。)、また依頼側も認証アーキビストを委員に含めたいという思いも感じます。このことは認証アーキビストの仕組を構築したことの一つの成果ではないかと内心喜んでいるところです。国立公文書館では、後述するように地方公共団体からの求めに応じ、指導・助言の一環として、上記委員への参画について対応してきています[1]。認証アーキビストが一定数に上り、全国的な拡がりも見せつつあることから、地域の課題を地域の人材で解決していく方向に次第に向かっていくことが望ましいと私は考えますので、今後このような場面でも認証アーキビストが活躍していくことを期待しています。
「アーキビストの職務基準書」[2]の職務(別表2)を見ると、「専門的技術的助言」については、大分類「評価選別・収集」、中分類「指導・助言」がすぐ思い浮かびますが、1で述べるようにそこだけに限定されず、大分類「普及」、中分類「連携」、小分類「21関係機関(公文書作成機関、アーカイブズ機関、図書館、博物館等)との連携・支援」においても専門性に裏付けられた助言の発揮の場があるのではないかと考え、今回のタイトル(テーマ)としました。
1 独立行政法人国立公文書館と「技術上の指導又は助言」
よく似た語ですが、先に、国立公文書館(以下「当館」という。)における「専門的技術的助言」について確認します。
当館の業務の範囲を定めた国立公文書館法の第11条第1項第4号に「歴史公文書等の保存及び利用に関する専門的技術的な助言を行うこと。」があります。「歴史公文書等の保存及び利用に関する」ですので、「評価選別・収集」に限定されないことが分かります。所管官庁である内閣府大臣官房公文書管理課に対しても専門的知見に基づく助言等の支援を行っています。また、行政文書の管理に関するガイドラインの第7及び行政文書の管理に関するガイドラインの細目等を定める公文書管理課長通知にも「国立公文書館の専門的技術的助言」が明記されていますが、紙幅の関係もあり、これ以上ここでは触れません。
本題に戻り、国立公文書館法の第11条第3項では、「国立公文書館は、前二項の業務のほか、前二項の業務の遂行に支障のない範囲内で、次の業務を行うことができる。」とし、第1号で「内閣総理大臣からの委託を受けて、公文書館法第7条に規定する技術上の指導又は助言を行うこと。」があります。ここでいう公文書館法第7条は、「内閣総理大臣は、地方公共団体に対し、その求めに応じて、公文書館の運営に関し、技術上の指導又は助言を行うことができる。」であり、公文書館法の解釈の要旨(平成元年6月1日内閣官房副長官)は、次のように書かれています。
第7条(技術上の指導等) 本条も地方公共団体に対する国の支援に関するものであり、求めに応じて、内閣総理大 臣には技術上の指導又は助言を行うことができることとなっている。「求めに応じて」ということは、歴史資料として
重要な公文書等の保存及び利用という事務は、地方公共団体の固有事務であることを考慮するものであり、「技
術上の」いうことは政策上の判断は含まれず、公文書館の運営に関し、歴史資料として重要な公文書等の保存
及び利用に関する技術的な指導等が中心となるものである。
独立行政法人の業務について、より詳細にみるためには、独立行政法人国立公文書館業務方法書(平成13年4月1日)や独立行政法人国立公文書館年度目標を確認する必要があります。
内閣府の長たる内閣総理大臣から委託を受け行う業務として、業務方法書第12条(その他の受託業務)で次のように示されています。
一 地方公共団体が保管する歴史公文書等の保存及び利用に関し、当該地方公共団体の職員に専門的技術的な
助言を行うこと。
二 第8条に規定する研修に地方公共団体の職員を参加させること。 (※アーカイブズ研修への参加のこと)
三 前各号に掲げるもののほか、地方公共団体の職員に公文書館の運営に関する技術上の指導又は助言を行うこ
と。
こうして、地方公共団体の「求めに応じて」、委員会等に参加し意見を述べたり、地方公共団体の職員に向けた講演等を行ったりしてきました。このような当館の比較的特異な[3]、得難い経験をさせていただいて今日に至っています。
2 地方公共団体への委員派遣の経験から~指導・助言の実際~
これまでの経験を自分なりに分類・整理してみますと、大きく3つになります。
A 公文書館の設立(開設)のため
B 公文書管理条例の検討のため
C その他(公文書館業務検証)のため
このうち、Aは、A1準備委員会委員、A2アドバイザーと立場により細分できるかもしれません。
上記委員会業務に付随して、開館前に地方公共団体の職員向けに講演会を開催し、公文書館や公文書管理の重要性に関する普及・啓発を図ることも行ってきました。そのような場合、一般的な「市職員研修会」の名称のほかに、「公文書館制度研修会」、「公文書管理法と公文書館機能に係る講演会」、「公文書管理と歴史的公文書に関する講演会」がありました。これは、当該地方公共団体が何を目指して、どの段階にあるかを示すものだと思います。私も当該地方公共団体についての事前調査を念入りに行い、担当者の思いに寄り添いつつ、その時の精一杯の準備をさせていただきます。
そもそも、各地方公共団体はその成立の歴史や地理的環境も異なり、独自の風土と文化を持っています。公文書管理についてもそれぞれの流儀があるなど、個性的文化的な存在といえます。「現在及び将来の国民」に対し、地方自治体の諸活動を説明する責務が果たされるようにするため、究極的には公文書館の設置が望まれますが、歴史公文書の制度や公文書館機能を発揮すること、公文書管理条例の制定・浸透を含む公文書管理を充実させることを今後も更に図っていく必要があると考えています。そのために、共通基盤となるのは公文書管理法ですが、この他に提供できる標準化指標を準備することが必要ではないかと思います。デジタルアーカイブの標準仕様書の提供などはその一例かと思いますが、公文書館、公文書管理の“標準(基準)”がある程度整理されるように努めています。
そのため、日頃から心がけていることとして、まずは情報収集が挙げられます。
1) 公文書管理、公文書館に関する情報をこまめに収集(例えば、Googleアラートで「公文書」に係るウェブ上の新着コンテ
ンツを確認する。)。
2) 地方公共団体のホームページで公文書管理担当部局の情報を調査。準備委員会開催中であれば、会議資料及び会
議録の情報。条例制定後であれば、審議会情報。また、定期的に(特に年度末など)議会の議案・議決結果のページ
をチェック。さらに条例・規則などの例規集のページの確認。
3) 条文作成の段階に至れば、メルクマールとなる公文書管理法と条例の比較表を作成し、その相違点を分析。
以上は、目新しい方法ではなく、特段記すまでもないような作業ですが、関心を持って取り組み続けることが大事です。幸い私にはこういった情報について知らせてくれる同僚がいたことも継続できた大事なポイントかもしれません。
準備委員会の資料を見ますと、貴重な情報も散見され、有益な資料になると参考にさせていただくこともあります。例えば、ある観点で先行する地方公共団体の実践や条文を比較した表などがあります。担当者も苦心しながら資料作成したことでしょう。これらの情報を集約すれば、後からくるもの(地方公共団体のご担当者)にとっても、役に立つだろうと思います。
おわりに
本稿では「指導・助言」について取り上げました。地方公共団体は個性的、私にとってどれも一期一会の出会いです。これらの経験を数多く積ませていただいたことに感謝しているところです。委員の方々、事務局の職員の方々とも接し、多くの学びの機会を得ました。会議等当日以上に事前事後のやり取りの中に発見の機会がありました。引き続き、「専門性」を磨き、これらの経験で得られた成果を今後も公文書館、公文書管理の現場・実務に還元出来たら、しなければならないと考えているところです。
[注]
[1]令和8年度独立行政法人国立公文書館年度目標 1 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関す
る事項(2) 歴史公文書等の保存及び利用その他の措置、③ 連携協力、調査研究、国際的な公文書館活動への参加・
貢献、ア 地方公共団体、関係機関との連携協力 は以下のとおり。
ⅰ) 国、独立行政法人等、地方公共団体等の関係機関と、歴史公文書等の保存及び利用の推進のため情報共有や
技術的協力等の連携協力を図ること。 また、地方公共団体等の関係機関における文書管理の取組の促進に係る
内閣府の取組の支援を行うこと。
ⅱ) 公文書館法(昭和 62 年法律第 115 号)第7条及び国立公文書館法 第 11 条第3項第1号に基づき、地方公共団
体からの求めに応じて、 公文書館の運営に関する技術上の指導又は助言を行うこと。 また、甚大な自然災害に
伴う水損等による公文書等の被害への助言、 デジタルアーカイブ化の推進等の助言や情報提供を行うこと。
【指標】 指導・助言等の求めがあった場合の対応:100%
https://www.archives.go.jp/information/pdf/nendomokuhyou_r8.pdf (6頁)(2026年4月16日参照。以下同じ。)
[2] アーキビストの職務基準書
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/syokumukijunsyo.pdf
[3] 地方公共団体の支援に係る指導・助言は国立公文書館特有の業務といえそうですが、歴史公文書等の保存及び利用
に関する専門的技術的な助言を行うことは地方自治体の公文書館においてもありそうです。しかし、各館の設置条例等
で業務を見てもあまり明記されてはいないようです。そのようななか、鳥取県における歴史資料として重要な公文書等
の保存等に関する条例(平成28年12月22日条例第54号)第10条(業務)第1項第5号は、「歴史公文書等の保有主体
に対し、必要に応じ、その保存及び利用に関する専門的な情報の提供、技術的な助言その他の協力を行うこと。」とあ
ります。また、高知県公文書等の管理に関する条例施行規則(令和元年11月15日規則第36号)第11条(業務)第1項
第4号は「県内の市町村その他の団体の文書の管理に関し助言その他の支援を行うこと。」とあります。さらに、令和8
年3月に成立した、松江市文書館の設置及び管理に関する条例第4条(事業)では、「⑶ 歴史資料として重要な公文書
の評価及び選別並びに利用に関する専門的技術的な助言を行うこと。」と明記されています。
申し添えれば、松江市では、同第5条(職員)で、「文書館に館長、専門職員その他必要な職員を置く。」として、
「専門職員」を条文に明記しています。専門職員の明記は戸田市公文書管理条例(令和7年3月31日条例第3号)第34
条(職員)の第2項に「文書館に館長、専門職員その他必要な職員を置く。」が、先例であり、今後の一つの参考になる
と考えます。
