令和7年度アーカイブズ研修Ⅱ6班グループ報告
~電子公文書の利用に係る課題について~

国立公文書館 岡谷舞

1.はじめに
  本稿は、令和8年2月5日、6日に開催された令和7年度アーカイブズ研修Ⅱにおいて、2日目に行われたグループ討論で6班が行った討論内容をまとめたものである。
  6班は、本研修のテーマ「電子公文書の管理・保存・利用」のうち、「電子公文書の利用」に関心を持つ班員で構成されており、岡谷舞(独立行政法人国立公文書館)、太田亮吾(独立行政法人国立公文書館)、中村夏実(愛知県公文書館、午後書記)、重田香澄(山口県文書館、報告者)、仲嶺清華(沖縄県公文書館)、高野まりい(新潟市文書館、司会)、小島順子(郡山市歴史情報博物館、午前書記)、松本望(尼崎市立歴史博物館、午前書記)の7機関8名(名簿順に氏名、所属、当日の役割。敬称略)である。

2.課題の整理と設定
  電子公文書の利用に関する課題の設定にあたり、班員の所属先はいずれも非現用文書を受け入れる公文書館等の組織(以下、公文書館とする)ではあるものの、人員や予算の規模等も異なることから、それぞれの機関における電子公文書の移管・利用に関して現状の情報共有を行い、課題の設定を行うこととした。
  まず、各所属機関において電子公文書の移管が既に行われているのは半数の4機関(国立公文書館、愛知県公文書館、新潟市文書館、尼崎市立歴史情報博物館)に留まり、移管が行われていない3機関(山口県文書館、沖縄県公文書館、郡山市歴史情報博物館)については、いずれも今後移管の見込みがあることがわかった。
  次に、電子公文書を利用提供したことがあるのは1機関(国立公文書館)のみであり、所属する班員は実際の利用提供に携わった経験はなかった。移管が行われている4機関中3機関は利用請求を受けたことがなく利用提供を行ったことがないことがわかった。
  しかしながら、紙媒体の特定歴史公文書等の利用提供は全ての班員の所属機関で行っていることから、紙媒体の電子化及びそのデータの利用制限情報のマスキング処理、閲覧方法等も踏まえた対応方法の違いについても情報共有を行った。
  これらを踏まえ、6班の議論の課題として、今後の電子公文書の利用提供を念頭に、(1)利用の前段階ではあるが利用にも影響がある標準的なフォーマットへの変換について、(2)利用制限情報に関する技術的な課題、(3)利用提供方法についての3点について、機関の規模等を踏まえてどのような方法が考えられるか、とした。

3.課題(1) フォーマット変換
  電子公文書の標準的なフォーマットへの変換は班の討論テーマである「公文書の利用」からは逸れるが、班員の関心が高く、利用にも関係する内容であることから課題として設定した。
  まず、どの時期にフォーマット変換するのが理想的かについて班員で意見を出し合ったところ、文書作成時、移管時、公開(提供)時の3つが挙がった。それぞれの時期において考えられるメリット及びデメリットを表1に示す。

表1. フォーマット変換の時期

  文書作成時は、原課において長期保存フォーマットの形式を用いる、パスワードはかけない等、フォーマット変換を実施しなくて良い状態で文書を作成することである。メリットとして、公文書館での受入担当者の作業が最小限で済み人的資源が少ない機関においても対応しやすいことや、現用文書管理システム内で保存を行っている機関において対応しやすいことが挙げられた。原課の協力や原課と公文書館とのコミュニケーションによる協力体制の構築は必須であるが、その徹底が難しいことがデメリットとして挙げられた。また、フォーマット変換した際に元の文書の情報が失われる可能性や、用紙サイズが複数ある場合の操作性が悪くなる可能性が挙げられた。
  次に、移管時に一括でフォーマット変換することが挙げられた。メリットは移管時の技術で一括作業することからエラーが生じにくいこと、標準的なフォーマットに一括変換することで移管後の管理や技術的な更新にも対応しやすいことが挙げられた。デメリットは、作業量が移管の量に依存するため公文書館の組織や予算の規模によっては対応が難しい可能性があることが挙げられた。また、移管時の変換について、班員の所属機関が採用している文書管理システムのデフォルト機能に組み込まれているものがあることがわかり、システムの仕様として業者への要求や改修の際に検討しやすい可能性も挙げられた。
  最後に、資料の提供のタイミングでフォーマット変換を行うことが挙げられた。メリットとして、個別の利用請求ごとに対応することから、公文書館の規模や予算が小さくても対応がしやすいことが挙げられた。デメリットとして、移管後から利用請求までの間にファイルの確認等を実施しない場合はファイルの破損やソフトウェアの陳腐化に対応できない等のリスクを抱えた状態になることが挙げられた。
  また、いずれの時期に実施するにあたっても、今後電子で作成された文書の量が増えていくことは明らかであることから、保存用媒体の限界も見据えて追加サーバ等も考慮していくことが大切であるとの意見も挙がった。どの時期が最適かについては、公文書館の規模や予算によって選択し、閲覧に適切なフォーマットを選択する必要があるとなった。

4.課題(2) 利用制限情報に関する技術的課題
  電子公文書における利用制限情報に関する技術的課題は、審査担当者によって利用制限の判断の相違により生じるマスキング箇所の差、マスキング残しのリスク、公開範囲が異なる閲覧用データの管理が挙げられた。ソフトウェア等の技術的な面については、国立公文書館が作成した「電子公文書の作成・保存・利用ガイドブック」の資料編が参考になるとの意見が挙がり、ガイドブックの普及により解決するだろうとなった。リスクの軽減方法としては、マスキング部分のダブルチェック等、確認体制を整備することが挙げられた。
  挙げられた課題のうち、まず公開範囲や閲覧方法が異なる閲覧用データの管理の必要性について話し合った。閲覧用データには、利用制限情報にあたる本人、又は親族への提供用(以下、「本人・親族用」という。)等、公開範囲(マスキング箇所)が異なる閲覧用データを複数作成している実例が班員により紹介された。この例においてウェブ公開用は個人識別情報等を一律でマスキングを行うが、閲覧室閲覧用は時の経過を考慮した上で審査しマスキングを行うほか、本人・親族用はマスキングを実施しない。というように、一つの文書であっても複数の閲覧用データが作成されることとなる。このような場合提供の際には、提供するデータの確認を徹底することが重要との意見が挙がった。データであるからこそ、利用提供には柔軟に対応しやすい反面、管理は複雑化し、データ量も多くなる課題も挙げられた。
  次に、利用制限審査の判断においては、情報公開制度の開示・不開示の判断が公文書館での個人または法人の不利益になる情報かどうかの判定基準等の参考になるのではないか、との意見も出た。

5.課題(3) 利用提供方法
  電子公文書の利用提供方法については、班員の所属機関が実際に提供している電子化された公文書の3種類の方法を参考に、各方法におけるメリットと、課題(2)と関連してマスキング関連の課題について検討を行った。
  ウェブサイトでの提供は、デジタルアーカイブとして公開するものである。来館が不要のため、利用者は気軽にアクセスすることができる。利用制限情報があるものについては、利用制限情報部分の変更等によるデータ更新の必要性がでてくること、利用請求者ごとの個別対応がウェブサイト上では取扱いにくいことが課題として挙がった。
  記録媒体での提供は、利用者のために光ディスクやUSB等を用意し、閲覧室の端末や利用者が持ち込んだ端末等で閲覧する方法である。利用者が来館する必要があるが、利用制限情報がある場合等について、利用者毎に個別対応することができ、提供用のデータの書換えも容易であることがメリットとして挙がった。しかしながら、1つの文書に対して複数のファイルが存在することになるため、ファイルの管理が煩雑になる可能性が示唆された。
  オフライン端末は、閲覧室の端末を利用してもらう方法である。利用者に来館してもらう必要があるが、閲覧室内のみでのアクセスとなるため、セキュリティの確保がし易い点がメリットとして挙がった。利用制限情報がある場合等の対応では、端末毎に閲覧可能な部分を変更する等の対応が考えられたが、利用者の退席や離席を管理しないと他の利用者に利用制限情報部分が見えてしまう可能性が示唆された。

表2. 利用提供方法の形態

  各方法について検討を行った後、利用提供方法を複数用意するのがよいのか、一つに絞るのがよいのかについて、表3に示す通りのメリットとデメリットが挙がった。

表3.利用提供方法の数

  複数の提供方法を用意する場合は、利用者の選択肢が増えること、柔軟な閲覧対応が可能であることがメリットとして挙がった。一方で、担当者側では管理が煩雑になる可能性があるデメリットが挙げられた。提供方法を一つに絞りこむ場合は、手法を洗練しやすく、複数用意する場合よりも管理が容易であることがメリットとして挙がり、デメリットとしては利用者の閲覧機会が相対的に減ることが挙がった。このように、複数用意する場合のメリットは利用者側にありデメリットは担当者側にあるが、一つに絞り込む場合のメリットは担当者側にありデメリットは利用者側にあることとなった。どちらを選択するかは、公文書館の規模や予算により判断するべきであるとなった。

6.終わりに
  6班では、「電子公文書の利用」をテーマに、班員の所属機関における状況を共有し、今後の電子公文書の利用提供を念頭にして組織の規模等が異なることを踏まえた課題を3点設定し検討を行った。実際に電子公文書の利用提供に携わったことがある班員がいない中で十分に議論が行えなかった点もあり、いずれの課題においても結論にまでは至らなかった。しかしながら、各課題の議論で挙げられたメリットやデメリットを踏まえ、各館の規模や運用実態に応じた選択をしていくことの重要性が明らかになった。今後電子公文書を受け入れていく機関が増えていく中で、積極的に情報収集、意見交換をしていくことが大切であり、班員間の意見交換は大変有意義であった。