第13回EASTICA総会及びセミナー「デジタル記録遺産の選別と保存」参加報告

国立公文書館 統括公文書専門官室 
公文書専門員 渡辺悦子

会場となったルネッサンスホテル前にて

会場となったルネッサンスホテル前にて

はじめに

 2017年11月6日(月)~9日(木)にかけて、第13回国際公文書館会議東アジア地域支部(以下、「EASTICA」。)総会及びセミナーが、中国国家档案局とEASTICAの共催により、貴州省貴陽市にて開催された。
 セミナーのテーマは「デジタル記録遺産の選別と保存(Selection and Preservation of Digital Documentary Heritages)」で、EASTICA加盟国[1]を中心に約200名が出席した。議長国である日本からは、当館の加藤丈夫館長他3名が参加した。以下、理事会/総会、及びセミナーの概要について報告する。


1.理事会/総会

(左から)イ・サンミン新事務局長、サイモン・チュー前事務局長、加藤館長、チェ・ジヒ会計官

(左から)イ・サンミン新事務局長、サイモン・チュー前事務局長、加藤館長、チェ・ジヒ会計官

 理事会では、前回議事録の承認や前年度の活動報告、財政報告等が行われた。EASTICAの事業を代表する香港大学既卒者向けアーカイブズ学講座[2](Postgraduate Certificate in Archival Studies、以下「PCAS」。)にかかる報告では、2016年は日本をはじめ香港、韓国、マカオの他、イタリアからの参加者があり、2017年(11月13日~12月2日開講)はフィリピン、フィジー、ブータン、インドなど、EASTICA域外からの参加が増えていることが報告された。
 総会は、中国国家档案局長・李明華氏及び貴州省長・何力氏よりそれぞれ歓迎の辞が述べられた。また、20年にわたりEASTICA事務局長を務めてきたサイモン・チュー氏(香港)が勇退することとなり、後任には長くEASTICA会計官として貢献した経験のある韓国記録学会会長のイ・サンミン氏が全会一致で選出された。
 その他、中国から黒竜江省档案館、成都市档案館、M+(香港西区文化区の博物館)が新たにカテゴリーC[3]会員として承認された。中国国内からのC会員登録は近年とみに増加しており、中国における文書館政策の興隆をうかがわせるものである。
 なお、2018年のEASTICA開催国については、追って決定・発表される。

2.セミナー・セッション

講演するGillian Oliver氏

講演するGillian Oliver氏

2.1 Dr Gillian Oliver(オーストラリア、モナシュ大学)「アーカイブズにおけるデジタル・キュレーション:プロセス・ソリューション・技術」
 デジタル・キュレーションとは、デジタル情報を、必要な期間、必要な方法で利用可能であるよう保存・管理することであり、情報が「利用可能である」とは、1) 必要な際に探し出せる、2) アクセス・利用できる、3) 内容を理解できる、4) 内容が信頼できることとされる[4]。デジタル記録には、デジタル情報の構造及びシステムの複雑性、莫大な量、短い寿命、コンテクスト化の必要性、所有権管理のむずかしさ、予見的措置の必要性、十分な管理者・管理費・専門家の欠如といった課題が常にあり、これら課題は広く認識されているものの、万能の解決策があるわけではない[5]。デジタル・キュレーションにあたって基準となる考え方[6]を意識しつつ、各機関がそれぞれの取り組みに応じて検討する必要がある。
 デジタル・キュレーションにおける選別とは、情報オブジェクトの重要性の決定と、決定に係る基準の策定プロセスである。決定は、内容(わかりやすさ、範囲、関連性、重要性、独自性や利用可能性など)、文脈性(作成者や作成の過程など)、証拠性(アカウンタビリティ、真実性、先行関係など)、運用上の要因(費用、代替性など)、社会的要因、技術的要因(機能性、諸権利、サイズ、利用性など)に基づいて行われることになる。決定過程のフローとして、イギリスのデジタル保存連合(Digital Preservation Coalition)のデシジョン・ツリーが参考になる。
 デジタル・オブジェクトを収集・整理し、公開する際にアーキビストが考えなければならないことは様々である。プログラム設計は、デジタル・オブジェクトのライフサイクル[7]に基づき段階を追って行われることになるだろう。例えばデジタル化プロジェクトの場合、計画当初は画像解像度やファイル形式、使用される機材や付与されるメタデータに関する知識は明確に記憶されているが、時の経過やスタッフの異動、予期せぬ災害などが原因で、これらの情報は失われてしまいやすい。結果、収集されたデジタル・オブジェクトは、利用できず、また利用価値もなくなってしまうリスクがある。
 こうしたことを避けるためにも、シンプルなファイル形式や付与するメタデータの慎重な選定(使用機材・ソフトウェアの名称等も含む)、ワークフローの策定や、ファイル名称とディレクトリ構造のルール化、ストレージ・メディアの決定などを、正しく行い、記録を確保しておくことが重要である。

2.2 Fang Yun(天津市档案館)「『インターネット+』時代のデジタル記録資源の保存・保護:天津市档案館の取り組み」
 天津市は国家中心都市の一つで、中華人民共和国の直轄市である。市档案館は1964年に設立、1997年より国内における第一級の档案館の評価を得ている。170万冊にのぼる所蔵資料のうち83万冊は中華人民共和国建国以前のもので、また天津市の方言や習俗を記録した視聴覚資料や、諸外国の公文書館に保存されている天津市関連の資料の収集[8]にも力を入れている。所蔵資料のデジタル化は優先業務として進められており、2020年までに全所蔵資料の50%がデジタル化される予定である(2017年前半で30%に相当する41万冊以上が終了)。
 デジタル記録(デジタル化記録を含む)の増加に伴い、記録管理におけるあらゆるプロセスに情報技術を応用すべく、市档案館では2010年から情報ネットワーク・プラットフォーム(ローカル、政府、インターネット等の各ネットワーク)の構築やセキュリティ対策、オンライン検索システムの開発に加え、近年はクラウドによるプラットフォームの構築に乗り出している。クラウドネットワークは現在、館内のみで外部との接続はされていないが、今後オープン化を検討している。
 加えて、2015年の全国人民代表会議において、情報技術と産業を連携させ発展を目指す「インターネット+」[9]が国家戦略として打ち出されたことを受けて、天津市では「インターネット+e-政府」の整備が進められており、档案館にもさらなる取り組みが求められている。デジタル記録は伝統的な紙媒体記録と同様に記録としての法的要件を満たし、確実な保存とすみやかな利用に耐えうるかを課題として、調査研究、法の整備とパイロット・プロジェクトの実施、利用者による利用のニーズの把握の3つを中心に取り組みを進めている。

2.3 Jeongin Yang(韓国国家記録院)「韓国国家記録院のソーシャル・ネットワーク・サービス活動について」
 2004年に「National Archives of Korea」として再出発した韓国国家記録院(設立は1969年、以下「NAK」。)は、展示や教育プログラムの実施によるアクセス推進のため、近年Facebook、Instagram、You Tubeといった多様なメディアの発展により可能となった双方向によるコミュニケーションを利用した広報活動の推進に努めている。館HP上では、活動や記念日などを紹介する「カードニュース」や李氏朝鮮時代の歴史事実をイラストとともに伝える「webtoonシリーズ」等のコンテンツを、またYou Tube上に作成されたNAKによる動画チャンネル「ArchivesOn」では、ニュース、イベント、現場レポートといった動画コンテンツを作成し公開している。これらはさらに、NAKのSNSアカウントを通じて拡散されている。
 コンテンツの作成は、プラットフォームを管理する情報システム部、NAKの各部署、メディア・アート大学との協力によって行われており、その連携を取り持っているのが広報担当である[10]。各コンテンツは、カードニュースは月3件、Webtoonシリーズは毎月1件、ArchivesOnにおける動画コンテンツは月に約4~5件作成されているとのことである。

Webtoonシリーズの『国際人権の日』[11][画像をクリック]

Webtoonシリーズの『国際人権の日』[11][画像をクリック]

2.4 質疑応答
 セミナーでは、講演者を壇上に迎えてのQ&Aセッションが行われた。
 G. Oliver氏に対しては、目録記述について、紙媒体をはじめとする物理的資料はISAD(G)に基づき記述しているが、デジタル記録の記述はどのように行うべきか、ISAD(G)はデジタル記録の記述に応用できるかという質問があった。目録記述とはメタデータの集積であり、デジタル記録の記述には様々な可能性があると考えられるが、2016年に国際公文書館会議のアーカイブズ記述にかかる専門家グループ(Expert Group on Archival Description)が、Record in Context – 概念モデル[12]をリリースしている。本概念モデルがどこまで適切かは検討段階だが、これがデジタル記録の記述に適した標準となることを望んでいる、との回答があった。
 また、天津市档案館のファン氏に対し、全ての紙媒体記録をデジタル化する必要はあるかとの質問には、記録の内容の価値を見て、全所蔵資料の70-80%について行われる見込みであり、残りの20%は行われないだろうと考えているとした。サイモン・チュー氏はこれに付言する形で、資料のデジタル化は普及・利用を目的とするものでもあり、各機関の方針やデジタル化にかかるコスト等に鑑み合理的な選択が必要と述べた。
 この他、登壇者に対して各機関の実務や事例に即しての活発な質問が行われた。

3.国/地域別報告

発表を行う当館の高杉電子公文書係長

発表を行う当館の高杉電子公文書係長

3.1 日本「電子公文書等の評価選別と保存: 日本の公文書管理制度における取り組み」
 国立公文書館(以下、「当館」。)は2011年に施行された「公文書等の管理に関する法律」に基づき行政文書の評価選別、保存を行っている。同法は、行政機関に保有されている行政文書等を媒体の如何に関わりなく適正に管理することを求めているため、電子公文書等も歴史公文書等としてレコードスケジュールの設定を行い、保存期間の満了後に移管となったものは当館に受け入れている。
 電子公文書等の管理・保存に関する検討は2005年以降に本格化しており、様々な調査、検証実験を経て、2009年「電子公文書等の移管・保存・利用の具体的方法に係る方針」が整理され、長期的な見読性確保のため、長期保存フォーマット(PDF/A-1)に変換したうえで「電子公文書等の移管・保存・利用システム(Electronic Records Archives of Japan)」(以下、ERAJ。)にて保存することを原則とすることとなっている。2010年に構築されたERAJは、2011年度より受入れ・保存を開始、2016年度末までに2万件以上の電子ファイルを受け入れている。
 長期保存のための取り組みとしては、メタデータの付与、セキュリティの確保、ハッシュ値を用いた電子ファイルの同一性の確認、複数のメディアへの保存と遠隔地バックアップ(つくば分館)を行っている。一方で、音声及び動画フォーマットに対応する長期保存フォーマットの定めがないことや、PDF/A-1への変換が定められている文書作成、表計算等の電子ファイルであっても、変換ソフトウェアのサポート対象外の形式である等の技術的な問題から、フォーマット変換を実施していないものなど、今後の方策にかかる検討が必要なものもある。また、日本政府の電子政府・電子行政の推進に伴い、政府機関における電子決裁率が80%を超える中で、今後当館における電子公文書等の受入れ・保存に及ぼす影響は現在未知数の部分が多く、ERAJの今後の運用やシステム更改の在り方等についての検討を継続的に行っているところである。

3.2 中国「中国における電子記録資源の蓄積と保護」
 中国国家档案局(State Archives Administration of China、以下、「SAAC」。)が管理するデジタル記録資源は、政府組織の事務システムで作成されるボーン・デジタル記録と、紙媒体で作成された記録のデジタル化記録である。中国国内にある3,336館にのぼる国家総合档案館[13]はSAACの指導のもと設置・運営されるため、国内全体に統一的なデジタル資源管理・保存の仕組みを構築することが可能となっている。
 1990年代以降、SAACは紙媒体文書の保存・管理に使用される手法をもとに、ボーン・デジタル記録の管理プロセス(作成、移管、受入れ、保存等)における規則や標準[14]を整備し、実施に努めてきた。2016年度末までに、1億959万ファイル(1,814TB)の電子文書、1,300万件の写真、12万時間分の視聴覚記録を受け入れている。
 原資料保存とアクセス促進の観点から所蔵資料のデジタル化にも取り組んでおり、デジタル化にかかる技術的仕様やガイドラインを整備して、2016年末までに51億点の絵画と2,500万点の写真、24万時間の視聴覚記録のデジタル化が完了している。こうした実績はデジタル化を推進する各レベルの政府が出来うる限りの財政支援を行っていることにより達成可能となっている[15]。
 こうした取り組みの一方で、ビッグデータなど国家戦略として推進される新しい産業形態における新しい形式の記録の作成が進められるなか、必ずしも十分な対策がなされているとは言えない状況にある。また電子記録の長期保存にかかる取り組みも課題である。管理面では、まず国の情報安全管理システムのネットワークに档案館の情報システムを組み込む他、複数の異なるメディア(cross-medium)へデータ保存している。また遠隔地域(cross-region)[16]におけるデータのバックアップを実施するため、遠隔地に所在する機関同士でペアとなり互いの電子記録を保存する体制をとっている。遠隔地の機関同士が円滑に互いのデータを管理・保存できるよう、共通のアプリケーションの使用につき全国的な要請を行っているところである。技術面については21世紀初頭より電子記録管理システムにかかる資格制度を構築し、300に及ぶ項目においてテストを実施、認定を受けた電子記録管理機関は現在14機関となった。また、2016年10月以降、SAACではデジタル記録の長期保存形式としてOFD形式(Object-View Form Definition)を使った標準の採用を開始しており、将来的には現行のPDF形式からOFD形式へ移行される予定である。この他、各種メディアの長期保存を確実にするため、レガシーメディア、レガシーデータの対応を研究するセンターを設置し、技術的陳腐化への対応に取り組んでいる。

会場の様子

会場の様子

3.3 香港「電子記録の選別と保存」
 香港特別区政府档案処(Government Records Service 、以下「GRS」。)は、1840年代に香港政府が成立して以降の、紙媒体をはじめ写真・視聴覚資料・マイクロフィルム・電子記録など約140万件にのぼる様々な媒体の記録を所蔵している。
 近年は香港特別行政区政府の業務の電子化に伴い、ボーン・デジタルで作成される記録が急速に増えている。そのため行われている取り組みは3つに大別できる。1つ目が評価選別にかかる取り組みで、保存期間の全面的見直しと共に評価選別を記録作成のできるだけ早い段階で行うこと、また更改を予定している記録管理システム内に評価選別と保存期限満了後の移管/廃棄決定にかかる機能や記録の分類スキームのメタデータ付与を組み込むよう設計することである。2点目は専門家の技術レベルの強化で、電子記録のライフサイクルを通じた管理・保存に必要な枠組みや管理、システム構築の際に必要な知識を養うため、作成機関職員に対する研修プログラムの作成・実施[17]を行っている。最後は、電子記録の選別・保存はアーキビストだけではなく作成・移管元機関との「共同責任」において行うものであるため、作成機関との協力・連携の強化に努めるというものである。
 所蔵資料のデジタル化も、重要な取り組みと考えている。2001年以降開始しているデジタル化作業は、マイクロフィルムはハイスピード・マイクロフィルムスキャナ、紙媒体記録はOCR技術によって、それぞれスキャニングを行っている。2016年までに200万画像(8万件)のデジタル化が終了しており、これは全所蔵資料の6%に相当する。また、2015年、GRSは大規模デジタル化のワークフローを構築するためのパイロット・プロジェクトを実施、この結果に基づき、2018年から本格的な大規模デジタル化を開始する予定である。

3.4 マカオ「電子記録のアクセスと保存」
 マカオ档案館(Archives of Macao、以下「AM」。)が所蔵する大部分のデジタル記録はデジタル化された記録である。デジタル化作業は、1999年までにAMに移管された記録のバックアップ・プロジェクトの過程で作成されたマイクロフィルムをメインに行っており、その他紙媒体記録のデジタル化も順次実施している。デジタル化されたデータはフォールトトレラントシステム(Fault-torelant system。システムの一部に故障や不具合がおきても予備の系統に切り替える等して機能を保ち正常に稼働し続けるシステム)で保存されるほか、DVDにバックアップが取られている。これらデジタル化した画像の一部は徐々にHP上で公開している。HPで提供している画像は低画質画像のみで、高画質画像が必要な利用者は窓口に来る必要があるなど課題はあるが、今後もより多くの記録の電子的公開と利用促進に努めていくこととしている。
 マカオ特別行政区政府が近年、e-政府化に注力していることから、ボーン・デジタル記録が今後急激に増加することが見込まれている。そのためAMでは、2013年以降、保存と利用、記録管理システムの構築にかかる調査を開始しており、2015年にはAM館内で作成される記録の電子的管理システムを導入した。これにより実際の運用に基づく経験や理解が得られたことで、政府機関への助言に備えることができるようになったと考えている。
 一方で、電子記録の長期保存にかかる取り組みはまだ始まったばかりである。専門家を招いての特別委員会を立ち上げた他、政府業務で作成されるデジタル記録の内容、量、フォーマット等の情報収集を行い、政府で作成される電子記録の全体像の把握に努めている。今後は中国をはじめ諸外国のアーカイブズ機関による標準や取り組み、ベストプラクティスから学び、情報収集につとめ、課題の克服を目指して行きたい。

3.5 韓国「UNESCO国際記録遺産センターの設立」
 今回のセミナーのテーマとは異なるものであるが、韓国国家記録院が招致することとなったUNESCO国際記録遺産センターについての紹介がされた。
 本センターは、UNESCO「世界の記憶」プロジェクトの実施にあたって、記録遺産に登録された資料の保存管理にかかる研究・教育を行う機関として、UNESCOのカテゴリー2に類する機関として設置することが決定[18]したものである。主な活動は、UNESCOの同プログラムを促進・サポートするため、「世界の記憶」登録後の保存体制の整備や記録遺産に関する政策の策定等にかかる調査研究、発展途上国に対する保存・修復の教育プログラムの実施等とされている。開館は2019年を予定しており、韓国の「世界の記憶」に登録された『直指心体(Jikji)』が最初に刊行された忠清北道清州市に建設されるとのことである。

おわりに

 EASTICAセミナーではじめて「デジタル」がテーマに扱われたのは2000年であり、以後、今回をあわせると6度目となる[19]。今世紀に入ってからデジタル記録の管理と保存にかかる関心はますます強まっていることがうかがえ、また各回の報告を通読してみると、それぞれの国における取り組みが年々強化され、多様化していることが見えてくる。
 今大会では、中国と韓国の先進性が特に目立っていた。デジタル記録管理分野では、両国はアジア地域にとどまらず世界的にその先進性が指摘されているところである。韓国は毎年国連の電子政府ランキングの上位にランクイン し、また中国は現在、国を挙げての電子政府化を強力に推し進めている。両国の国立公文書館における「デジタル」が抱える様々な課題に対する危機感とその対応力は、次元の違いすら感じるものだった。
 デジタル記録の保存・管理にかかる課題は共通しているが、各国の制度や機関の規模により対応の形は様々である。こうした各国の先進的事例をEASTICAというつながりの中で身近に得られるのが本会議への出席の意義でもあり、今後も国を超えて地域として考え、課題を共有していくことのできる場となるよう、EASTICAにおける当館の役割を模索していかなければならないと感じた。

[1]中国、日本、韓国、モンゴル、朝鮮民主主義人民共和国、香港、マカオの5か国2地域。朝鮮民主主義人民共和国については、今回参加はなかった。
[2]プログラムの詳細は長岡智子「香港大学既卒者向けアーカイブズ学講座に参加して」(『アーカイブズ』第64号所収、available at: https://www.archives.go.jp/publication/archives/no064/6099、access: 2018/01/16)参照。
[3]EASTICAの会員は以下の5種のカテゴリーに分類される。カテゴリーA:国家あるいは地域の公文書館機構。カテゴリーB:国家あるいは地域のアーキビスト協会。カテゴリーC:記録の管理・保存にかかわる機関やアーキビストの専門的訓練機関。カテゴリーD:個人会員(アーカイブズ機関またはアーキビストを訓練する機関の現職スタッフもしくはスタッフであった者)。カテゴリーE:名誉会員。アーカイブズ分野において特に貢献のあった東アジアの者で理事会により選出された者。
[4]オーストラリア・イギリス・ニュージーランドの各国立公文書館において、いわゆる「デジタル継続性(Digital Continuity)と呼ばれている概念が引用されている。
[5]ただし、情報の長期保存システムの構築にかかる国際標準規格(ISO14721)「OAIS参照モデル(Reference Model for an Open Archival Information System)」は、長期保存にあたっての考え方として参照すべきものと紹介があった。
[6]例えばファイル形式を検討する場合であればOpenness(開放性、広く一般に使われているか)、Portability(移植性、OSやハードウェアへの依存性が少ないかどうか)、Usability(使いやすさ)とQuality(質、構造的に簡素で安定しているか、)など。
[7]講演では、デジタル・キュレーション・センターのライフサイクルモデルが紹介された。available at: http://www.dcc.ac.uk/resources/curation-lifecycle-model(access: 2018/01/16)
[8]アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、計13か国を訪問し、資料収集を行ったとのことである。
[9]モバイルインターネットやクラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネットなどの技術と、インターネット+医療、インターネット+物流のように他の産業を結び付け、従来の産業の新たな発展を目指すもの。日本貿易振興機構 (JETRO)「『互聯網+(インターネットプラス)』で変わる 中国 のライフスタル」(2017年3月)より。 available at: https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2017/7854a5ba68a23e2d/reportchina2017.pdf(access: 2018/01/16)
[10]NAKにおける広報担当者は2017年11月現在で2名とのことであった。
[11]韓国国家記録院のHPより。ここでは画面の都合上、横にならべたが、Web上ではスクロールしてみる形となる。available at:http://k_archives.blog.me/221173551543(access:2018/01/16)
[12]Record in Context- Conceptual Morel。Available at: https://www.ica.org/sites/default/files/RiC-CM-0.1.pdf (access: 2018/1/16)。本概念モデルについては、寺澤正直「新たなアーカイブズ記述の国際標準 Record in Context (RiC)への対応にかかる課題の抽出」(『アーカイブズ学研究』No.27所収、2017年12月)に詳しい。
[13]中央、省、市、県などの行政区域の各等級に設置されるもので、さらに各核管理レベルの中国共産党機関や人民代表大会、人民政府等の記録を収集管理する。詳細は大澤武彦「中国国家档案局・中央档案館の最近の動向」(『アーカイブズ』52号所収、available at: https://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_52_p42.pdf)(access: 2018/01/16)
[14]例えば、公記録に分類される電子記録の仕様やXMLベースによるカプセル化の仕様等が紹介された。
[15]2011-2015年で、中央政府の財務省は第一歴史档案館に対しデジタル化に4000万元(約7億円)拠出したという。
[16]互いに300km離れた場所で、異なる水系(黄河・長江)の機関同士でペアになることが求められている。天津市と貴州省は互いの電子記録を保存しあう関係にあるとのことである。
[17]電子記録保存や記録管理、アーカイブズ専門機関によって作成されたオンラインコースやwebinar(インターネット上で行われるセミナー)など。
[18]UNESCO第39回総会(パリ)において、EASTICA開催期間中の11月7日に正式合意に至っている。
[19]EASTICAセミナーで取り上げられた「デジタル」関係のテーマは以下のとおり。「電子記録の管理戦略」(2000年、中国・アモイ)、「電子政府化の進展と電子記録管理」(2007年、日本・東京)、「東アジアアーカイブズにおけるオンライン利用サービスの発展」(2008年、韓国・ソンナム)、「今日のアーカイブズ-デジタル時代の法制・アクセス・保存」(2011年、日本・東京)、「デジタルアーカイビング:計画から実施まで」(2013年中国・北京)、「デジタル時代のアーカイブ 再び」(2015年、日本・福岡)、そして今回の「デジタル記録遺産の選別と保存」(2017年、中国・貴陽)。
[20]国連E-Government Survey 2016より。Available at: https://publicadministration.un.org/egovkb/en-us/Reports/UN-E-Government-Survey-2016(access:2018/01/16)