第28回日本資料専門家欧州協会(EAJRS) 年次大会参加報告及びノルウェー国立公文書館等視察報告

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官 島林 孝樹

はじめに

 本稿は、2017年9月13日(水)から16日(土)にかけてノルウェー(オスロ)で行われた第28回日本資料専門家欧州協会年次大会(The 28th EAJRS Conference)の概要及びノルウェーの公文書館等施設への視察の概要、並びに資料調査の内容を報告するものである。

1. 日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会

EAJRSにおける水沢研究員の発表の様子

 本大会は、2017年9月13日から16日の4日間にかけて開催された。会場は、オスロ大学であり、9月13日・14日はセントルム(Sentrum)キャンパス、9月15日・16日はブリンデン(Blindern)キャンパスで開催された。本大会には、佐野豪俊国立公文書館アジア歴史資料センター(以下、「アジ歴」。)次長、水沢光アジ歴研究員及び筆者の3名が出席した。
 EAJRS(European Association of Japanese Resource Specialists)とは、欧州において日本研究のための資料提供に関心を有する専門家の受け皿として1989年に発足した組織である。主な構成員は、図書館司書、学芸員、研究者である。EAJRSの年次大会は、毎年9月に4日間にわたって開催される。会期中には、10前後のセッションが行われる。

 今回、大会へ出席した目的は2点である。第1に、アジ歴における検索機能向上の取り組みを報告する等によって、広報活動を行うことである。第2に、同大会参加者と直接接触して、アジ歴の認知度を直接確認するとともに、すでに利用している者からは、アジ歴の運営するデジタル・アーカイブについての意見・要望等を聴取することである。
 本年度のEAJRSのテーマは、「日本学支援のデジタル対策」であった。大会では、日本国内のみならず、海外の機関において、日本学支援のためのデータベースの作成や資料検索の向上といったデジタル化対策について発表がなされた。会議への参加者は合計60~70名程度であり、コアメンバーは欧州で日本資料を扱っている図書館司書などの専門家であった。ただし、留学生や研究者など初めて会議に出席したという参加者も多かった。

 水沢研究員からは、「アジ歴における検索機能向上の取り組み」(9月15日9:45~10:15)というテーマで、報告がなされた。アジ歴における最近の取り組みとしては、「アジ歴グロッサリー」及び辞書・表記ゆれ機能という2点の機能を中心に、情報検索向上の取り組みが報告された。「アジ歴グロッサリー」とは、資料検索をより容易に行うことができるように開発された検索ナビゲーション機能である。テーマ別のキーワード一覧、地図、組織変遷表、年表等を見ながら、検索を簡単に行うことができる。一方、辞書・表記ゆれ機能は、検索されたキーワードに対して、「同義語」、「関連語」、「表記ゆれ」を示し、より多くの関連資料を提示する検索サポート機能である。さらには、今後の検索機能の展望として、1) 「アジ歴グロッサリー」のさらなる充実(2017年度テーマは、「内地」と「外地」の官僚機構)、2) 具体的な名称を知らなくても検索できるツールである「地名・人名・出来事事典」の開発、3) 作成者数の増加、機密レベルの追記といった目録情報の充実化の3点が論じられた。
 アジ歴の新しい検索機能について報告した口頭発表に対しては、公開資料の内容についての質問や、目録に追加してほしい情報へのコメントなど、参加者から様々な声を聞くことができた。

 本大会では公文書館のみならず、図書館や博物館といった多様な機関におけるデジタル化対策に関して最近の動向が知ることができた。また、情報を提供する機関側の視点のみならず、実際に情報を利用するユーザー側からの報告も行われ、活発な議論が行われた。とりわけ、多くのヨーロッパ在住の図書館司書や研究者などから話を伺い、海外から日本関係資料にアクセスすることが難しい現状を実感することができた。またその分、アジ歴に対する期待の大きさを感じた。

2.施設見学

 2017年9月17日(日)に、水沢研究員及び筆者は、ノーベル平和センター、ノルウェー・レジスタンス博物館、オスロ国立美術館を視察し、展示等を見学した。これらの視察は、ノルウェーにおけるアジ歴の資料調査の予備知識となるとともに、古代から近現代にかけてのノルウェーの歴史について展示を通じて知る上で有益なものであった。概要は以下の通りである。

ノーベル平和センターの外観

2.1 ノーベル平和センター

 ノーベル平和センターは、ノルウェーの独立100年を記念し、2005年に創設された施設である。ノーベル平和賞の歴史や歴代受賞者の経歴や功績を紹介する博物館である。本センターは、子どもを対象にした学習機能の役割も果たしており、映像などを駆使した展示で、楽しく学習できるようになっている。また、歴代のすべての平和賞受賞者の経歴や功績が網羅されており、ノーベル平和賞のこれまでの歩みを学べるとともに、子ども向けの平和学習としても幅広く利用されている点から分かるように、戦争の映像や平和について考えさせられる展示となっている。


2.2 ノルウェー・レジスタンス博物館

 ノルウェー・レジスタンス博物館は、第二次世界大戦時、ノルウェーがドイツ軍に占領されたときの抵抗運動に関する資料が数多く展示された博物館である。ここでは、占領時におけるノルウェー国民の生活などを再現して展示しており、当時、ナチスの侵攻に抵抗し続けた人々がどのような暮らしを送っていたか、ノルウェーが置かれていた状況を深く学ぶことができる施設となっている。また、銃などの武器や爆撃地の印がある地図等も展示されており、戦争の生々しさ、悲惨さを観覧者に伝える工夫がなされている施設である。

2.3 オスロ国立美術館

 オスロ国立美術館は、1836年にノルウェー国会によって創設された美術館である。同館では、ムンクをはじめとして、19世紀から20世紀のノルウェーの画家の作品が数多く展示されている。ノルウェーの代表的な画家であるムンクの作品については、とりわけ目立つところに展示されており、観覧者の関心をひく工夫がなされている。さらに、ムンクのみならず、ゴッホ、クロード・モネ、ルノワール、ピカソ、ロダンなどの近世ヨーロッパの作品も数多く所蔵している点にも目を見張った。
 ムンクの画法はジャポニスムの影響を受けているとされているが、葛飾北斎をはじめ多くの日本画が所蔵・研究されている点を、視察を通じて知り得た。芸術を通じても、日・ノルウェーが密接な関係にあることが分かった。

3.ノルウェー国立公文書館

 2017年9月18日に、水沢研究員及び筆者は、ノルウェー国立公文書館を訪問した。同館は、1817年に設立されており、職員数は約300人である[1]。中央国家当局機関の公文書を管理するオスロの本館のほか、オスロを含む8つの地方公文書館[2]とサーミ公文書館(先住民族サーミ人の資料を管理する公文書館)、ノルウェー保健公文書館(患者の医療記録を管理する公文書館)がある。文化省ノルウェー国家公文書サービス庁がこれらの公文書館を管理する立場にある。

ノルウェー国立公文書館の外観

 今回の訪問の目的は、職員との意見交換及び所蔵資料等についての情報収集である。
 意見交換については、公文書の評価・選別やデジタル化を中心に行った。評価選別業務においては、行政機関から移管の申し出があって初めて評価選別を行う点、受入れのみならず評価選別の時点で、紙媒体・電子媒体という媒体の違いによって、担当者が分かれる点、作成から25年以上経過した非現用文書が移管対象となる等、日本での評価選別の仕組みや制度との差異を確認できた。一方、デジタル化については、3,200万画像の資料をデジタル化し公開しているが、業者に依頼するのではなく、館で実施していると伺い、日本との業務体制の違いを確認できた。また、デジタル化資料のうち国民の生年などのデータについては、その50%を約500人ものボランティアがテキスト化している点を知ることができた。


日本・ノルウェー関連の資料:1950年代に行われた皇太子殿下(現在の天皇陛下)のノルウェー訪問について記録された資料

 意見交換後は、書庫及び展示を見学させていただいた。書庫見学においては、日本・ノルウェー関連の資料を紹介いただいた。今回紹介いただいた資料は3点である。1点目は、1920年代にノルウェーに漂流した日本人について記録された資料である。2点目は、1950年代に行われた皇太子殿下(現在の天皇陛下)のノルウェー訪問について記録された資料である。3点目は、ノルウェーに展開したインテリア関連の企業について記録された資料である。実際に資料を閲覧させていただき、日本・ノルウェー関係を知る上でも有益なものになった。展示については、バイキングに関する資料、ハンセン病に関する資料、ノーベル平和賞に関する資料等を観覧させていただいた。これらは、ノルウェーの歴史や出来事を知る上で有益な資料であり、国民のアイデンティティ形成にも寄与する公文書の重要性を一層認識させられた。


ノルウェー国立公文書館職員との記念写真

おわりに

 本稿は、EAJRS年次大会の概要及びノルウェーの公文書館等施設への視察の概要及び資料調査の内容を報告するものであった。年次大会におけるアジ歴の口頭発表に対しては、公開資料の内容についての質問や、目録に追加してほしい情報へのコメントなど、参加者から様々な声を聞くことができ、アジ歴に対する期待の大きさを感じた。また、ノルウェー国立公文書館での視察を通して、日本との業務の違いを知ることができたほか、閲覧させていただいた日本・ノルウェー関連の所蔵資料は、日本・ノルウェー関係を知る上でも有益なものとなった。



[1]ノルウェー国立公文書館の概要については、太田由紀・本村 慈「第42回国際公文書館円卓会議(CITRA)参加報告」『アーカイブズ』42, 2010 pp.37-48.も参照。
http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_42_p37.pdf
[2]ノルウェーには18の県があり、国が管理する8つの地方公文書館が18の県をそれぞれ管轄している。