【巻頭エッセイ】 歴史資料の積極収集に取り組む~国立公文書館の機能拡充に向けた新しい試み~

国立公文書館長
加藤 丈夫

   いま、国立公文書館では新しい試みとして、重要な歴史資料の積極的な収集について検討を始めています。
   公文書管理法に定められた国立公文書館の主要な役割は、国の各機関と独立行政法人等が作成した歴史公文書等の「移管」を受けて、それを広く国民の利用に供することですが、もう一つ、個人や法人の重要文書を「寄贈・寄託」の形で受け入れることがあります※。
   寄贈や寄託の対象になるのは、主に国の重要な意思決定に関わった政治家や官僚の日記や口述記録などですが、その一例として、当館では佐藤栄作元首相の日記を所蔵しています。ご承知のように佐藤栄作氏は1964年から72年までの7年8カ月に亘って首相を務め、日韓基本条約の締結や沖縄返還をなしとげましたが、首相在任中も個人としての日記を毎日書き続けていました。これを読むと、国の政策決定の最高責任者としての苦心や苦悩、更にそれを達成したときの喜びが分るのですが、それは単なる個人の記録でなく国としての重要資料であるということができます。
   そして、こうした要人の記録を収集することは、公式記録である公文書と合わせて国の政策決定の真実を知ることにつながるし、それは公文書の内容を補完し充実させることになると考えられます。
   こうした記録は未収集のまま残されているものが沢山あるに違いないし、それも日記やメモなど書き残されたものだけでなく、当事者の記憶として残っているものもある筈ですが、そうした資料の収集に当たっては、対象範囲をどこまでとするか、対象物として何を取り上げるか、どんな方法で収集を行うかなど解決しなければならない問題が沢山あります。更にそれにかかる費用の問題も考えなければなりません。
   その中ではインタビューなどによって当事者の証言を記録するオーラルヒストリーの手法なども検討事項になるでしょう。
   これまで国立公文書館では、個人や法人から申し出があったときに寄贈・寄託という形で「お受けする」というやり方が普通だったのに対して、これからは、むしろこちらから積極的に収集に乗り出そうというのですから、正反対の方向の取組ということになります。
   現在当館ではこうした問題に詳しい専門家による検討会議を設けて、その具体策を検討することにしていますが、これが軌道に乗れば、国立公文書館に新しい機能が加わることになると期待しています。

※現段階では立法府の文書は移管されていません。