公文書管理委員会デジタルワーキング・グループ報告書について

内閣府大臣官房公文書管理課
課長 吉田 真晃

デジタルWGHPのQRコード

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  公文書管理は行政の基本であり、時代にふさわしい制度(ルール)と仕組み(システム)が必要です。令和3年9月にデジタル庁が発足するなど、我が国の行政や社会全体が急速にデジタル化していく中、デジタル時代にふさわしい公文書管理の在り方を展望し、その実現に向けた取組を進めていくため、4月に公文書管理委員会の下にデジタルワーキング・グループ(WG)が設置されました。WGは、公文書管理委員会の小幡委員長を座長とし、委員3名、専門委員3名の合計6名で構成され、会議には、内閣官房IT総合戦略室、総務省、国立公文書館、政府CIO補佐官がオブザーバーとして参加しました。WGは3回開催され、幅広い論点について専門的かつ集中的な議論を行い、7月に「デジタル時代の公文書管理について」の報告書(WG報告書)がまとめられました。本稿では、その概要について説明します。報告書、会議資料等については、内閣府のホームページに掲載しています。

  デジタル時代には、従来の紙媒体を前提とした仕組みをそのままにして単に電子媒体に置き換えていくという発想ではなく、デジタルを前提とした公文書管理の在り方を考えることが重要であり、WGでは、そのような将来像を展望しつつ、今後の制度の見直しとシステムの整備の方向を示すこととしました。その上で、「1.デジタルを活用した確実かつ効率的な公文書管理」、「2.業務システムと公文書管理法のルール」の2つのテーマで議論が行われました。

<デジタルを活用した確実かつ効率的な公文書管理>
  第1のテーマはデジタル技術を活用して、手続漏れや改ざん、誤廃棄のない、確実で効率的な公文書管理の仕組みを構築するものです。①9月に発足するデジタル庁と内閣府が中心になって政府全体で活用できる最適な文書管理のための情報システムを実現していくこと、②メタデータを活用して行政文書ファイル管理簿への記載や保存・移管・廃棄・延長等の公文書管理の進行管理を自動化していくこと、③セキュリティやバックアップの確保、改ざん防止等の措置を行うこと、➃令和8年度までの自動化の実現、などが記載されています。
  制度面に関しても見直しを行います。これまでの公文書管理の運用は、紙媒体を念頭に置いたルールで、それを電子媒体に置き換えていこうというものでしたが、公文書がデジタルで作成され、デジタルで保存・管理されることを見据えて、必要な業務プロセスの見直しを行うこととしています。具体的には、①行政文書ファイルは年度別の管理が基本ですが、年度をまたいで政策形成を行う場合など、相互に密接に関連する前後の年度の行政文書について一つのファイルにまとめられるようにすること、②国立公文書館に移管する30年保存文書(法律、政令、閣議決定等)の保存期間を20年に変更し、早期に移管できるようにすること、③全省庁統一的なスケジュールで運用し、一定の期日になれば、行政文書ファイル管理簿の作成や読取専用化が行われるようにすること、などが記載されており、可能なものから速やかに制度改正を進めていくこととしています。また、内容によっては、システムの整備に合わせて対応するものも含まれています。
  デジタルWGの議論は、国立公文書館の機能の充実も視野に入れて議論が行われました。例えば、公文書管理は、行政機関における作成・利用・保存に加えて、国立公文書館に移管して永久保存することを含めて一連の流れであり、今後のシステム整備に当たっては、国立公文書館のシステムを含めて検討する必要があることが指摘されています。また、紙媒体の行政文書は、国立公文書館に移管すると手元に置いておくことができないため、行政機関側で利用する可能性があれば移管できませんでしたが、デジタルであれば容易に複製を行うことができます。このため、①行政機関で必要な写しの文書を保存しつつ、国立公文書館に移管することによって、より広く国民の利用に供することができることや、②移管の1年前に国立公文書館に事前に送付しておくことで、国立公文書館への移管後、速やかに利用可能とすることができるようになる(国民から見ると情報公開請求も利用請求もできない期間を短縮できる)こと、などが提案されています。また、デジタルアーカイブの充実により、国民の利用の利便性が高まることも期待されます。

<業務システムと公文書管理法のルール>
  第2のテーマは、業務システムと公文書管理のルールについてです。業務システムとは、旅行命令や補助金交付など、特定の業務を処理するために個別に整備される情報システムを指し、通常の業務で使われる各省庁のLANシステム等とは別に作られるものをイメージしています。
  こうした業務システムに格納されたデータは、行政文書に該当するため、公文書管理法の適用を受けます。一方で、システム内では、いわゆるドキュメントの形式ではなく、データをそのまま活用して多くの業務が実施されることとなり、また、新たな技術が活用されるようになり、従来の紙媒体を前提とした文書管理の発想の延長では対応できないことが考えられます。このため、業務システムを踏まえた公文書管理のルールの運用や、業務システムの構築・運営に当たっての公文書管理の観点からの留意点について整理しました。
  例えば、紙媒体であれば、物理的に存在する行政文書を管理することになりますので、一つの行政文書に対する文書管理者は一つの組織になります。一方で、デジタルであれば、一つのデータを、複数の機関で閲覧したり、保有したりすることもあります。また、今後は、行政手続データベースの活用が重要となりますが、その内容は常に更新されていきますので、データに基づく意思決定が行われた時点の情報と、最新の情報が異なる場合があります。その場合、意思決定そのものと、その根拠となる意思決定時点の情報が、併せて保存される必要があり、そのようなシステムを組んでおく必要があります。さらに、情報システムそのものについても、今後の行政や社会の重要なインフラであることから、その仕様書などの重要な文書については、適切に保存するとともに、規模の大きなものについては、国立公文書館に移管することが適当としています。

  WG報告書は、7月26日に開催された公文書管理委員会で報告され、議論が行われるとともに、委員長から「政府におかれましても、ワーキングの取りまとめ結果や委員会の意見も踏まえまして、制度の見直しやシステムの構築を進めていただきたい」との要望がありました。今後、公文書管理法施行令、行政文書の管理に関するガイドラインなどの関係規定の改正を行うとともに、公文書管理のための新たなシステムの整備の検討を進めていきます。

  なお、WG報告書が報告された委員会では、行政文書の管理のルールの見直し、廃棄協議の方法の見直し、専門人材の育成・確保の取組方針、地方公共団体への情報提供、新たな国立公文書館の建設など、幅広いテーマについて、説明・報告・議論が行われました。委員会冒頭に井上信治公文書管理担当大臣(当時)が挨拶で述べたように、こうした様々な取組をしっかり連携させながら、公文書管理制度を充実していくことが重要と考えています。