記録を守る、未来に活かす。~キャッチコピーに込めた思い~

国立公文書館つくば分館業務係
係長 松田 暁子

  この度、国立公文書館(以下「館」という。)開館50周年記念事業の一環として作成した新しいキャッチコピー「記録を守る、未来に活かす。」の原案を提案しました松田と申します。新しいキャッチコピーの原案に私の案を採用していただけたこと、大変光栄に思います。キャッチコピーの館内募集の話を知ったとき、「これは何が何でも自分が考えたい」という強い思いが湧き上がりました。必死になって考えたのが、このキャッチコピーです。

  キャッチコピーを考えるにあたり、まず、一般の方に館の役割を知っていただくにはどのような表現がよいか考えました。特に、若い世代の方に理解いただけるような表現にしたい、という思いがあり、そのためには誰でも知っている平易な言葉を用い、かつ短い言葉で表現する必要があるだろう、というのが頭にありました。
  また、例えば国立国会図書館のホールに掲げられている国立国会図書館法前文の言葉「真理がわれらを自由にする」が12文字(14音)なので、それと同程度かそれ以内の長さにするのがよいだろう、という考えもありました。
  次に、言葉に込める意味を詰めるため、国立公文書館法や公文書管理法などの関係する法律、館の様々な規程、館のHPや一般向けに作成しているパンフレットなどを読み込みました。その結果、当たり前と言えば当たり前なのですが、館の義務は特定歴史公文書等を永久に保存することであり、その目的は一般の利用に供し活用していただくことだ、と思うに至りました。特定歴史公文書等の保存と利用、これを時間軸に乗せて表現しよう、と思いついたのです。
  しかし、「特定歴史公文書等」とそのまま書いたのでは字数が長くなりすぎて印象に残りにくくなります。また、そもそも一般の方にとっては馴染みのない言葉なので、キャッチーではなくなります。そこで、短くて、かつ誰でも知っている最もふさわしい言葉として、「記録」という表現を用いることにしました。
  また、記録を守り伝えていくなかで、過去・現在・未来といった要素はそれぞれに大切ですが、時間軸の中でどれが一番大切か、あえて選ぶとすれば、記録を現在よりも後の時代(=未来)において活用することが重要であるため、未来なのではないか、と考えました。そこで、キャッチコピーに用いる言葉としては「未来」だけにし、過去と現在については文脈から汲み取れるよう工夫しました(記録=現時点において既に存在しているもの(過去を連想させる言葉)、守る=現時点における行為(現在を連想させる言葉))。
  最後に、世の中に溢れるキャッチコピーに見劣りしないようにするため、毎日の通勤電車で車内広告に目を通して自分なりに研究し、最もありふれたキャッチコピーのスタイルと思われる「・・・、・・・。」という型を用いた次第です。

  キャッチコピーの提案にあたり、もう一つ、私が重視したのが、館の職員が館の使命を改めて認識できる標語にすることでした。
  私は公文書管理法が施行された翌年度の2012年度に館に入職しました。入職当時と比べると、館の業務は拡大しています。そのことにより、職員はこれまでよりも深く掘り下げて業務を遂行することが求められるようになり、同時に、職員一人一人の目線に立ったとき、館の使命という究極的なゴールが見えにくくなっているのではないか、と個人的に感じていました。職員が各自従事する業務に即して館の使命を再認識できる、そして職員が一致団結して館の究極的なゴールに向かっていけるよう職員の心を一つにしてくれる、そんな標語がほしい、と強く感じていました。
  私は館に入職後、利用審査業務・評価選別業務や移管文書の受入管理業務に携わり、現在は主に移管文書の受入業務・保存業務に従事しています。キャッチコピーが表すのは、第一義的には特定歴史公文書等の保存と利用ですが、それ以外の館内の業務にも当てはめることができるようにするために、自分が携わってきた様々な業務を思い出しながら、どの業務にもフィットする最適な表現を探りました。(例えば、利用審査業務なら「利用制限情報を守りながら利用に供する」ために審査を行う、評価選別業務なら「移管すべき文書が、この後、保存期間満了時に確実に移管される」ようにするためにレコードスケジュールについて助言する、など。)
  館の職員の皆さんは、これから業務を進めていく中で、今目の前にある仕事が一体館にとって何のためにやっていることなのか分からなくなり、行き詰まることがあるかもしれません。そんなときには是非、深呼吸してこの言葉を思い出してほしいと思います。

  「記録を守る、未来に活かす。」は館のキャッチコピーではありますが、館以外の公文書館の職員の方、国の行政機関や独立行政法人の職員といった公文書の作成・取得に携わっている方、そして何より一般の方に、国民共有の知的資源である公文書を永久に保存し活用することを自分事として捉えてほしい、という思いがあり、あえて主語を入れませんでした。
  このキャッチコピーをきっかけに、館の役割に興味・関心を持っていただくとともに、公文書をはじめとする記録を将来にわたって保存し活用していくことの大切さについて理解が進み、この社会に当たり前のこととして根付いていくことを期待しています。