国立公文書館の独立行政法人化20年にあたって

国立公文書館
幕田 兼治

1.はじめに
  国立公文書館は、中央省庁等改革の一環として、平成13年4月1日に、内閣府の施設等機関から、職員が国家公務員の身分を有する独立行政法人(特定独立行政法人)に移行し、今年度(令和3年度)はそれから20年という記念の年になります。
  本稿では、当時、独立行政法人国立公文書館設置準備に携わった立場で、国立公文書館の独立行政法人化を振り返ってみることとします。

2.国立公文書館の独立行政法人化
  国立公文書館は、平成11年4月27日の中央省庁等改革推進本部において決定した「中央省庁等改革の推進に関する方針」の中で、国立公文書館については、「平成13年4月に独立行政法人に移行することとする」とされ、同日の閣議において決定しました。これを受けて、総理府(大臣官房総務課)に独立行政法人国立公文書館設置準備のためのチームが置かれ、独立行政法人に共通するルールを定めた独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に沿って、独立行政法人国立公文書館設置のための個別法案の策定が始まりました。法案は、「国立公文書館法の一部を改正する法律案」として、平成11年11月5日に閣議決定され、同月8日に、他の独立行政法人個別法58法案及び関係法律(39法律)整備法案とともに国会に提出されました。国会での審議を経て、同年12月14日に成立し、同月22日に公布されました。
  法律の成立・公布を受けて、中央省庁等改革推進本部が、共通事項政令となる「独立行政法人の組織、運営及び管理に係る共通的な事項を定める政令案」、通則法整備政令となる「独立行政法人通則法等の施行に伴う共通事項に関する政令案」及び個別法整備政令となる「独立行政法人国立公文書館等の設立に伴う関係政令の整備等に関する政令案」を立案するにあたり、独立行政法人国立公文書館の成立に伴って必要となる経過措置に関する事項(独立行政法人の成立時に引き継がれる職員の所属、承継財産等の範囲、許認可等の地位の承継等)等についての関連政令の特定など政令案に盛り込むべき事項の作業を行いました。これらの独立行政法人所管の各府省庁の作業・調整を踏まえ、この3本の政令案のほか、各府省独立行政法人評価委員会令(9本)、個別法等に基づく新規政令(6本)が、平成12年5月30日に閣議決定され、同月6月7日に公布されました。
  その後、必要な内閣府令の制定、独立行政法人の設立に関する事務を行う設立委員や法人の長及び監事となるべき者の指名、中期目標の設定などを行うとともに、それを受けて、国立公文書館の立場で、中期計画及び年度計画並びに法人規則などの作成準備を行い、法人登記を経て、平成13年4月1日に、国立公文書館の独立行政法人への移行が完了しました。

3.トピック紹介①(法律関係)
  当時を振り返って、まず、法律案の策定段階でのトピックのうち二つを紹介します。
  一つ目は、独立行政法人設置のための個別法の形式についてです。独立行政法人としての名称、目的、業務の範囲等を定める「独立行政法人○○○○(法人の名称)法」とするのが通常ではありますが、国立公文書館の独立行政法人化においては、平成11年6月に、議員立法により提出され、既に成立・公布されていた国立公文書館法(平成11年法律第79号)の一部を改正する形式としました。
  この法律は、判決確定から50年を経過した「民事判決原本」の保存に端を発したものでありますが、単に、総理府の施設等機関としての国立公文書館の組織や所掌事務を法律により定めるための法律ではなく、これまでの行政府に加え、立法府、司法府を含めた国が保管する公文書その他の記録(現用のものを除く。)(以下「公文書等」という。)について、国立公文書館を中心として、国における歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置を講ずるとともに、国立公文書館において保存する公文書等の移管手続きや一般の閲覧ルールを定める作用法の規定が含まれるものでした。
  そのため、制定時の法の目的やスキームを維持しつつ、国立公文書館を国の機関から独立行政法人に移行させるために必要な範囲内で改正することとし、法律名を「独立行政法人国立公文書館法」とせず、「国立公文書館法」の名称を維持することとしました。
  具体的には、改正前の第1条から第6条からなる条文のうち、第1条及び第2条は、第1章「総則」として、目的及び「公文書等」の定義について、国立公文書館の独立行政法人化に伴う必要な技術的な修正のみを行いました。
  今回の改正の主要部分となる、第3条及び第4条(国立公文書館の組織や所掌事務)は、第2章「独立行政法人国立公文書館」として、5節からなる第3条から第14条までの条文に改正を行いました。第1節「通則」(第3条~第7条)では法人の名称、目的、種類、事務所及び資本金を、第2節「役員」(第8条~第10条)では役員の構成、理事の職務及び権限等、役員の任期等を、第3節「業務等」(第11条、第12条)では業務の範囲及び積立金の処分を、第4節「雑則」(第13条)では主務大臣等を、第5節(第14条)では罰則を定めました。
  第5条は、第3章「国の機関の保管に係る公文書等の保存のために必要な措置」(第15条)として、措置の内容はそのままとし、国立公文書館の独立行政法人化に伴う内閣総理大臣と独立行政法人国立公文書館との関係について、必要な条文を追加しました。
  第6条は、第4章「国立公文書館における公文書等の利用」(第16条)として、内容はそのままとし、現在の国立公文書館では、公文書等の「閲覧」のほか、「写しの交付等」も行っていることから、実態に即して、「閲覧」を「利用」という文言に変更しました。
  また、附則として、施行期日、職員の引継ぎ、国有財産、公文書等の承継等など必要な経過措置等を定めました。
  なお、現在の国立公文書館法は、公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)の制定に伴い、第3章及び第4章の規定は、同法律に措置され、国立公文書館法からは削除されていますが、この改正に当たっては、法律名の変更は行われませんでしたが、実質は、独立行政法人としての名称、目的、業務の範囲等を定める独立行政法人国立公文書館法となっています。
  二つ目は、国立公文書館が独立行政法人化されることによる公文書館法上の位置付けについてです。国の歴史資料として重要な公文書等の保存及び利用に関し、国がその責務を適切に果たすための措置の一つとして設置されている国立公文書館が独立行政法人に移行後も位置付けに変更がないことを確認し、それを明示するため、公文書館法(昭和62年法律第115号)の第4条及び第5条を改正することとしました。
  具体的には、第4条第1項の「公文書等」には、「国が保管していた歴史資料として重要な公文書その他の記録」を含むこととし、第5条第1項の「公文書館」には、「国又は地方公共団体が設置するもの」のほか、「国立公文書館法の定めるもの(独立行政法人国立公文書館)」を含むこととしました。

4.トピック紹介②(政令関係)
  次に、政令に定めた経過措置のうち二つのトピックを紹介します。
  一つ目は、国立公文書館が現に使用している土地、建物、工作物、物品などの権利及び義務の継承です。本館の土地だけは、国民公園である北の丸公園の一部であることから、国有財産のままとし、無償使用することになりました。
  二つ目は、道路の占有です。地形的に湧水が発生することから、それをポンプでくみ出し、近くの濠に排水するための管が道路の下を通過しています。なお、濠に架かる竹橋のそばにある排水口の説明の札が置かれています。

5.おわりに
  独立行政法人化による最大のメリットは、組織・人事管理の自律性が担保されたことと個人的には考えます。具体的には、国の機関であった時には、国の公務員試験制度及び定員管理の統制の下、行政職として採用された職員の人事ローテーションの中で多くの職員が配置されていましたが、独立行政法人化から20年たった現在は、総務・経理部門などの内部管理業務を除き、独立行政法人国立公文書館が公文書館専門職員(アーキビスト)として独自に選考採用した職員が調査研究や保存・利用を担う部署に多く配置され、それらを統括するポジションも担っています。
  また、公文書館法が成立した昭和62年当時は、専門職員を養成する体制が整備されていない状況にありましたが、昭和63年度には、公文書館法の趣旨を理解することから開始した研修を皮切りに、平成10年度には、公文書館法第4条第2項にいう専門職員の確保に資するための「公文書館専門職員養成課程」を開始しました。さらに、平成30年度には、アーキビストの職務とその遂行上必要となる知識・技能を示した「アーキビストの職務基準書」を公表し、令和2年度には、この職務基準書に示されたアーキビストとしての専門性を有する者を認証するアーキビスト認証を開始しました。こういった体制整備が図られる中、これからの20年も、一人ひとりのアーキビストが専門職としての誇りをもって、その専門性を発揮して実践していくことにより社会からの確固たる信頼性を獲得していくことを期待しています。