沖縄県公文書館における教育連携事業
~総合的な学習の時間「南風原町お宝発見隊」を例に~

沖縄県公文書館指定管理者(公財)沖縄県文化振興会 公文書管理課
公文書専門員 津覇 美那子

はじめに
  沖縄県公文書館(以下「当館」という。)は、普及広報活動の一環として、将来の利用者となりうる児童、生徒、学生(以下「児童ら」という。)を対象とした事業も実施している。中高生の職場体験の受け入れや大学生のゼミ単位での団体見学などが主となり、そのなかでも特徴的な取り組みが当館最寄りの南風原町立北丘小学校3年生が行う「総合的な学習の時間 南風原町お宝発見隊」(以下「お宝発見隊」という。)への出前授業である。
  本稿では当館の教育連携事業の一例として「お宝発見隊」への支援を紹介する。児童らが、当館について能動的に自ら調べ、考えながら理解していく過程に、今後の「公文書館教育」の手がかりをつかむことができるのではないだろうか。

教育連携事業の一例 総合的な学習の時間「南風原町お宝発見隊」
概 要

  当館が「お宝発見隊」に協力を始めたのは2015年からである。「お宝発見隊」の目的は、3年生の社会科と連動して児童らが居住する地域について学ぶことである。地域の「お宝」は「よいもの、よいところ」であり、その「お宝」を学び、さらにそれを自身が将来どうしていくか考える内容となっている。児童らは、「お宝」として町特産の野菜(かぼちゃ、ヘチマ)や花(ストレリチア)、伝統行事(綱引き、獅子舞)、偉人(金城哲夫、とび安里、)、伝説(浦島伝説、羽衣伝説)、施設(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター・南風原文化センター)などを12種類ピックアップする。その中に当館も含まれている。

年間プログラムと当館の関わり方
  「お宝発見隊」の年間プログラムは表1のとおりである。児童らは班ごとに1年間のカリキュラムを通して自ら調査、探求していく。

表 1:総合的な学習の時間「南風原町お宝発見隊」年間プログラム
第1段階:グループ分け・文献調査
  1.南風原町の「お宝」と思うものを児童らが選出
  2.町の紹介DVDを鑑賞し、町の「お宝」を整理、調べたいことを各自3つ選択
  3.文献、リーフレット等の資料を調査し、新聞を編集
  4.さらに調べたい「お宝」の希望調査、第一希望を優先に決定(1テーマ7人程度に班分け)
(期間:1学期) 
第2段階:訪問調査・情報共有
  5.夏休み期間中に担当テーマの関連施設を訪れ、現地調査。再度、新聞にまとめる。
  6.各自、夏休み中に作成した新聞を班内で発表し、情報共有/「わかったこと」「わからなかったこと」を確認
(期間:夏休み~2学期初め) 
第3段階:聞き取り調査

  7.「名人さん(それぞれ専門として働く人)お招き会」を開催/「わかったこと」を発表、
     「わからなかったこと」を名人さんに質問

(期間:2学期10月頃) 
第4段階:発表
  8.名人さんから聞いて分かったことをまとめ、ポスター等を作成
  9.ポスター等をもとに、保護者、名人さん、他の班の同級生の前で1年を通して調べて印象に残ったことを発表
(期間:2学期後半~3学期) 

  この年間プログラムのうち、特に「沖縄県公文書館」班の児童らと当館が関わる段階は表1の二重下線部である。具体的な内容を段階別に紹介する。

図2 夏休みに作成した新聞 当館のリーフレットなどからの切り抜き、館内見学の際に見本として配布した和紙が貼られている。

図2 夏休みに作成した新聞
当館のリーフレットなどからの切り抜き、館内見学の際に見本として配布した和紙が貼られている。

[第2段階:訪問調査・情報共有]
  夏休み期間中の調査方法は、展示観覧や閲覧室での資料調査体験、館内見学などさまざまであった。館内見学の場合、書庫や修復室などバックヤードも案内し、資料の保存方法や業務の様子、利用方法などを説明する。書庫では、実際に資料の出納を体験させ、その資料を閲覧してみるといったことも実施した(図1)。児童らのこの調査には、保護者が同行して来館する。保護者の多くは20~30代で、この層への普及広報にもつながっている。
  児童らは、この訪問調査をもとに作成した新聞(図2)を班内で発表し、「わかったこと」「わからなかったこと」をまとめる。

図1 出納体験の指令書

図1:出納体験の指令書
資料の収納の仕組みを説明した後、この指令書をもとに職員同伴のもと資料を出納する。


[第3段階:聞き取り調査]
  児童らは、小学校で開催する「名人さんお招き会」で、「名人さん」を前に「わかったこと」「わからなかったこと」を発表する(表2)。「名人さん」とは、それぞれの「お宝」に関わる人々のことである。

表2:わかったこと・わからなかったこと一例
  わかったこと
  ・琉球王府時代からの文書がある
  ・1階でイベントなどが行われる。
  ・「公文書」は国や県、市町村が作った文書。
  ・沖縄に関係することや大切な資料が保管されている。

  わからなかったこと
  ・いつ、どうして公文書館ができたのか。
  ・公文書館でしか見られない資料とは。
  ・なぜどんな方法で資料をあつめているのか。
  ・どうして公文書館が南風原にできたの?
  ・なぜ室温20℃、湿度60%にしているのか。


図3:クイズ形式のパネル例 「どうして公文書館が南風原にできたの?」への回答

図3:クイズ形式のパネル例
「どうして公文書館が南風原にできたの?」への回答

  「名人さん」として呼ばれた当館職員は、「わかったこと」にコメントしたり、「わからなかったこと」に回答する。その際、3択クイズなどを盛り込み、児童らが楽しく考えられるような工夫もこらした(図3)。このほか、当館の業務や所蔵資料の紹介も加え、公文書館の役割を知る機会とする。例えば、必ず実施する説明のひとつに修復業務がある。紙が「傷む」とはどういった状態なのか、どのような手当をしているのか、なぜ資料を大切にするのかを理解できるような構成としている。はじめに酸性劣化した紙サンプルを手渡し、日常で使用するコピー用紙との違いを確認させる(図4)。児童らは「茶色い」「変なにおいがする」「かたい」などの感想を述べてくれる。次に、和紙を配布し、薄さや感触を確認させ、それを用いた裏打ち作業の映像と修復後の資料サンプルを見せる。
  次に、所蔵資料を紹介する。公文書館の柱である「公文書」を紹介することが理想であるが、まずは資料を身近に感じてもらうため、小学校3年生の児童らが自らの生活と比較しやすい写真資料を中心に紹介する。自身の教室や服装などと比較して何が違うのか気づいた点を自由に発言してもらう(図5)。当館所蔵資料を通して、児童らが今までの生活や社会において当たり前と思っていたことを問い直すきっかけを与えることができる。このような体験を通して、記録を残す重要性を実感してもらえるよう努めている。私たちが暮らす沖縄がどのように変化してきたのか、逆に変わっていないことは何か知るためにも記録を残さなければいけないというまとめに導く。
  このように五感にうったえる説明を試みて、児童らの記憶に残るようなプログラムを組んでいる。

図4 酸性劣化した紙サンプルを確認する

図4 酸性劣化した紙サンプルを確認する

図5:児童らに提示した写真資料の1つ 授業風景 1960年代[宮城悦二郎写真資料 22-037]

図5:児童らに提示した写真資料の1つ
授業風景 1960年代[宮城悦二郎写真資料 22-037]


[第4段階:発表]
  児童たちはこれまでの集大成として、「名人さん」から聞いた内容をもとに、ポスター等を作成し、他の班の児童や保護者に向けて印象に残ったこと、実際に見たものなどを発表する(図6)。当館のことを学んだ児童が「1日普及係」となって同年代に「公文書館」について教えてくれる。担当教員からは、「お宝発見隊」を通して当館に多様な資料があることを知り、教材としての可能性を感じたといった感想もあった。「お宝発見隊」は、教員にも当館の存在を認識させるよい機会となっている。

図6:発表例 公文書館双六。当館について説明後、観覧者にサイコロを振らせて、大きなマスに当たると公文書館クイズを出すなど児童らの工夫がみられる。

図6:発表例
公文書館双六。当館について説明後、観覧者にサイコロを振らせて、大きなマスに当たると公文書館クイズを出すなど児童らの工夫がみられる。

図7:修復に使用する道具を紹介する当館職員

図7:修復に使用する道具を紹介する当館職員


おわりに
  公文書館における「利用普及」の目的は、単なる利用者の拡大という量的な面にだけあるのではない。公文書館、文書館の役割や公文書の仕組みなどを学ばさせ、考えさせることによって将来の利用者及び理解者を育む「公文書館教
育」の要素を取り込みたいと考えている。2019年度は、「お宝発見隊」に加えて、初めてキャリア教育の依頼も受け入れた。北丘小学校5年生が50人ほど来館し、2グループに分けて展示を見た後、講堂内で公文書館の役割や業務の種類などの説明を受けた。また、業務内容については、閲覧、保存修復担当職員が、自身の仕事内容や仕事で使う道具、仕事の喜びや大変なことなどを紹介した(図7)。業務を担当する職員との直接の交流は、公文書館への親しみをさらに与えることができると感じた。また、3年生の時にお宝発見隊で公文書館班だった児童らも居り、継続した形で公文書館教育を実施できたことは良かった。
  現在、新型コロナウイルス感染症流行の影響で、児童らを対象とした取り組みが難しい状況にある中でも、「公文書館教育」の手法を模索し、実行していきたい。今後は、子ども向けのガイドブックの作成に取り組む予定である。

※本論は、『沖縄県公文書館研究紀要第20号(2018年3月発行)』および『現代の図書館第57巻第1号(2019年4月25日発行)』の拙稿の一部をまとめ直したものである。