長野県立歴史館の教育普及活動

長野県立歴史館
宮坂 到

1 はじめに
  長野県立歴史館(以下「当館」という。)は、貴重な歴史資料の収集、保存、調査研究、公開を行い、郷土の歴史への親しみと理解を深める歴史学習活動を支援する施設として建設され、今年度で26年目となりました。本稿では、長野県の歴史を実際に「みて、ふれて、体感して」いただくことをねらいとしている当館の、歴史学習活動の中核として位置付けられる教育普及活動の中から、特色となるものを3点(「歴史館学び隊・学習シート」「バックヤード探検」「おでかけ歴史館事業」)ご紹介します。

2 「歴史館学び隊」「学習シート」について
  当館では、見学に来館する小中学生を対象とした5種類の学習カード類を作成し、ホームページ(https:///www.npmh.net/)にアップしています。またPDFデータだけでなく加工のできるwordデータでの提供も進めています。さらに、各シートの解答編もダウンロードできるようにしてあります。
  一番最初に作られたのは「歴史館学び隊」で、開館から10年ほどたった平成15(2003)年、原始・古代中世・近世・近現代の4つの時代区分ごとにA41枚両面刷りのもの(右の写真を参照)を作成しました。希望する方が自由に手に取っていただけるようにと、設置場所を各展示場所の近くとし、学校見学の下見対応時にも、事前事後学習に増刷して活用していただけるよう紹介しました。
  その後、解説員を伴わない自由見学のときでも、より有意義な見学ができるようにと、学習シートの作成と提供を始めました。平成24(2012)年のことです。児童生徒がシートに記入していくことで展示のポイントがつかめるというものでしたが、使用した学校の先生方から「(記述欄が多く)時間内に記入しきれない」という声が寄せられ、平成26(2014)年に改訂しました。難易度を3段階に分け、自由見学時間の長さや児童生徒の実情に応じて3種類の中から選べる学習シートとしました。さらに長野県の学習で来館する小学校3・4年生版も加えた計4種類の学習シートを提供し始め、内容の見直しをしながら現在に至っています。すでに作られていた「歴史館学び隊」は学習シートと区別できるように、解説文と写真のみで、メモ欄を削除し、学習シートを補うものとして位置づけました。
  しかし昨今のコロナ禍で、密を避けるために自由見学を設定していないことで、学習シートに記入する時間が確保できないという問題が起こりました。見学時間に応じたシートを選んでいただくとともに、コロナ禍での見学でも利用しやすいシートについて検討していく必要がでてきています。

「歴史まなび隊」

「歴史まなび隊」

「歴史まなび隊」

「歴史まなび隊」



「施設案内」の様子

「施設案内」の様子

3 バックヤード探検について
  体験型学習の目玉の活動として、当館では「バックヤード探検」を実施してきました。一日最大4校の児童生徒を収蔵庫にご案内し、縄文土器と弥生土器の持ち比べをして違いを体感したり、縄文人骨を見学して人の一生や命について考えたりする活動です。しかし新型コロナウイルス感染症の流行から、見学時に応じた適切な換気のできない収蔵庫内に児童生徒を入室させることに対策の必要性を感じ、木器保存処理室や保存修復室内の機器、職員が作業している様子を見学するルートを設定して「施設案内」として実施するようにしました。収蔵庫の扉の前には内部の様子を拡大印刷した写真を掲示して収蔵庫内部の様子がイメージできるようにし、開館時に作成した歴史館職員の仕事についてのDVDを視聴してから施設案内を開始する工夫を施しました。コロナ禍前のバックヤード探検の印象が強い学校の先生方からははっきりと「土器の持ち比べができる、以前のバックヤード探検の方がよい」というご意見もいただきますが、一方で「実施できることを可能な限り実行しているのがよい」と肯定的なご意見も多くいただいています。日頃目にすることのない遺物修復作業の見学は、キャリア教育の機会としても好評です。

「土器・石器にふれよう」の様子

「土器・石器にふれよう」の様子

4 おでかけ歴史館事業
  当館は南北に長い長野県の北部、千曲市にあります。その立地から長野県の南部にある地域の皆さんにはなかなか来館いただけない状況が続いていました。当館の魅力をより多くの県民に知っていただくために、平成29(2017)年からおでかけ歴史館事業を開始しました。当館職員が館蔵史資料とともに現地へ赴き、地域の歴史はもちろんのこと、長野県の歴史について理解を深めていただいています。体験活動を中心にしたプログラムから希望のものを選ぶだけで、主な準備を当館職員で行います。県南部の小中学校や公民館、PTA行事等に利用していただいています。まだ始まってから間もない事業なので、広報活動として学校訪問をしたり、小中学校の有志教員が会員の信州社会科教育研究会で広報したりしています。

5 まとめ
  体験型の展示に力点を置いた当館では、新型コロナウイルス感染症対策として、見学対応の方法を見直す必要に迫られました。来館者の皆さんに少しでも満足していただけるよう、知恵を絞っています。また当館職員の力量だけでは児童生徒の皆さんにとってよい活動にはなりません。普段から児童生徒と関わっている先生方に見学方法や学習内容をご理解、ご協力いただくことでよい活動にすることができます。先生方との意思疎通をはかるために見学希望受付時だけでなく、直前の電話による最終確認など、連絡を密にしていくようにしています。
  さらに、こちらからうかがうことで移動時の三密リスクを軽減できる「おでかけ歴史館事業」についても、引き続き広報や実践を重ねています。