令和2年度国立公文書館実習を終えて

学習院大学大学院人文科学研究科
アーカイブズ学専攻博士前期課程
2年 高山 征季
1年 釜谷 友梨子、山口 まどか

  令和2年8月31日(月)から9月11日(金)まで、学習院大学大学院アーカイブズ学専攻が行う「アーカイブズ実習」の機関実習を国立公文書館に受け入れていただいた。第1週に国立公文書館主催のアーカイブズ研修Ⅰに参加し、第2週に国立公文書館での実務研修が行われた。新型コロナウイルスの感染拡大により、アーカイブズに関する様々な研修、講演等の学ぶ機会が少なくなっている中、研修会場では毎朝の体温測定や手指消毒、ソーシャルディスタンスの確保など、感染防止の対策を徹底した上で実施された。大学ではオンライン授業が主であり、大学院1年生にとっては、アーカイブズに関する対面での講義は貴重な機会となった。アーカイブズの現場で活躍されている講師による解説や、グループ討論での意見交換、講義の間の休憩時間における講師や参加者との交流など、対面での研修でしか得られない学びや体験が多くあり、アーカイブズについて学ぶ楽しさとアーキビストとしての責任感や使命感を実感できる大切な機会となった。
  アーカイブズ研修Ⅰの中で、特に大きな収穫だと感じたのはグループ討論であった。グループ討論では関心のあるテーマごとに6、7名のグループに分かれ、1日目に自己紹介と討論テーマの検討、4日目に討論の続き、最終日にはこれまでのグループ討論をまとめ、各グループによる発表を行った。グループ討論の中で、公文書館で実務にあたっている職員と、公文書館がない自治体で文書管理を担当している職員がいるグループに所属した際、公文書館の職員と行政機関の文書管理担当者とでは、アーカイブズに関する知識やお互いの業務への理解に差異があった。討論の中で、忌憚のない質疑が行われ、公文書館職員と文書管理担当者の業務や役割の違いが明確になり、公文書管理全体についての理解がより深まったように思う。討論テーマは評価・選別であり、共通課題を「評価選別は誰がするのか、理想的な体制作り」と設定して、具体的な対応策を検討し、討論結果をまとめた。アーカイブズ研修Ⅰの各講義の内容についてより深く理解するためにも重要な時間となった。

国立公文書館での修復実習の様子

国立公文書館での修復実習の様子

  実務研修は9月7日(月)からの5日間、東京本館とつくば分館において行われ、保存、修復、利用、展示、評価選別、目録作成、利用審査など国立公文書館の業務を実際に体験させていただいた。
  保存の実務研修では資料のクリーニング作業等を、修復の研修では実際に和紙を用いた裏打ちの修復作業を行った。利用の研修に関しては書庫に入り、利用者からの請求があった場合の資料の出納作業を体験した。
  展示業務では、事前課題で作成した国立公文書館の資料を用いた展示計画のプレゼンテーションを行った。また、計画において使用した展示資料を実際に見せていただき、冊子や大型資料など形態や見せたい箇所などに留意しながら、適切な展示方法についての考察を行った。講師の専門官の方からは、来館する相手の立場に立った視点が必要であるとの指摘を受けた。
  評価選別業務では、リスト上のファイル名だけでは内容がわからず判断が難しいものが想像していたよりも多く、適切な判断をするためには各府省とのコミュニケーションが不可欠であることが理解できた。限られた時間の中で、適切な判断と業務上の効率の双方を両立させながら業務を行っている現状を見せていただき、その難しさを実感した。
  9日に訪問したつくば分館では、書庫やマイクロフィルム保存庫、貴重書庫の中を見学させていただいただけでなく、受入れ、目録作成、燻蒸など、本館とは異なる業務の現場を見ることができた。他にも、本館、分館、建設予定の新館それぞれの関係についてもご講義いただき、複数の視角から国立公文書館の担う役割を学ぶことができた。
  今回の実習を通じて、公文書館の業務の全体の流れを学ぶことができた。これから公文書館での業務に従事するにしても、自分の担当の部署だけを見ていればよい訳ではない。全体の業務の中で自分の仕事はどの段階に位置付けられているのかを意識することは非常に重要だと認識した。これまでは紙上で学ぶことが多かったが、今回、公文書館の業務の一連の流れを体験学習させていただいたことにより、実習の事前調査で抱いた多くの疑問も解消することができた。
  アーカイブズ研修Ⅰを受けた後に実務研修をして、座学や討論で生まれた問題意識や関心を取り組みに反映させることができた。また、研修の討論で問題に対する解決策として出した答えにはまだまだ至らない点、議論が熟していなかった点があったことに気づかされた。
  アーカイブズ研修Ⅰを受講中の2020年9月1日に認証アーキビスト[1]の申請受付が始まり、研修の中でも言及があった。この認証制度により、知識・技能、実務経験、調査研究能力という認証要件を満たすことでアーキビストとしての専門性を有することを国立公文書館長によって認証されることになる。これは、アーキビストが専門家として認められるということであり、私たちアーカイブズ学を学び、将来的に認証を受けたいと考えている者にとって非常に重みを感じる。
  公的な資格として認められることで、アーキビストの社会的地位や雇用待遇の向上、キャリア上の目標になることが期待できると思われるが、学生としては、やはり認証と雇用との関係が気になるところである。この認証は専門職員に係る強化方策であり、就職を約束する類のものではない。認証要件では既に現場で活躍されている方々を念頭に様々な形態での実務経験が認められているが、今後新たに実務経験を積んでいくという人は多いはずである。「長期にわたって職務に専任できることが、文書館の運営にとっても、文書館学の発展にとっても、さらに記録史料を利用する内外の人たちにとっても有益なことである。」[2]とされ、アーキビスト認証準備委員会における発言では「公文書館・文書館の設置が進んだが、専門職については曖昧であったため、身分が保障されず 3 年程で異動してしまう、あるいは全く職業と関係ない者が異動してくる」[3]と人事・雇用の問題が指摘されていたことをふまえると、認証アーキビストに基づく安定的かつ継続的雇用が実現することが望まれる。
  そして、認証アーキビストの発展には、社会への広報・普及も重要である。実習の中でこの点についても意見交換が行われた。アーカイブズ関連機関や行政機関等の親機関に対して研修等を通して理解者をいっそう増やし、これら関連業界全体で協力し知恵を出し合っていくことでより効果的な活動ができるのではないか。未来に伝える記録の評価選別、そして管理を行い、アカウンタビリティの実現を支えるという重い公的責任を担っている。広く社会に対してアーキビストの存在意義を訴えていかなくてはならないと思う。
  最後に、国立公文書館の皆様にはお忙しい中、快く実習を受け入れていただき、温かいご指導ご鞭撻を賜りました。心より感謝申し上げます。

〔注記〕
[1] 国立公文書館『令和2年度認証アーキビスト申請の手引き』(2020年6月)
https://www.archives.go.jp/ninsho/download/005_shinsei_tebiki.pdf
[2] 大西愛編『アーカイブ事典』(大阪大学出版会,2003年),154頁
[3] 国立公文書館『アーキビスト認証準備委員会(第1回)議事の記録』(2019年3月11日),2頁
https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ninsyou_giji_01.pdf