国立女性教育会館の女性アーカイブセンターについてー女性デジタルアーカイブシステムを中心にー

国立女性教育会館
細川 芽

 1.はじめに
 国立女性教育会館(以下、NWEC)は、成人女性のための社会教育施設として昭和52(1977)年に設立された。NWECは、女性教育指導者及び女性教育関係者に対する研修、女性教育に関する専門的な調査及び研究等を行うことにより、女性教育の振興を図り、もって男女共同参画社会の形成の促進に資することを目的としている(独立行政法人国立女性教育会館法第3条)。その目的を達成するために文部科学大臣より示されている第4期中期目標に基づき、「研修」「調査研究」「広報・情報発信」「国際貢献」の4つを有機的に連携させつつ各事業を実施している。
 4つの事業のうち広報・情報発信事業には以下の3つの柱がある。
 (1)女性の活躍推進等に資する情報の一元化・発信
 (2)男女共同参画等に関する歴史的資料の収集・保存の推進
 (3)より多様な主体への積極的な広報活動の充実・強化
(2)の活動である女性アーカイブセンターについて紹介した後、女性アーカイブセンター所蔵資料の全目録情報と一部のデジタル画像を、インターネットを通じて提供している女性デジタルアーカイブシステムについて述べる。

 2.女性アーカイブセンターについて
 平成17(2005)年6月、NWECは真に担うべき役割を明らかにした「独立行政法人国立女性教育会館の将来ビジョン」を提示し、その中で重点化事業のひとつとして女性アーカイブの構築を行うことを掲げた。アーカイブとは記録資料、またはそれを保存・提供する施設を意味するが、過去において男女共同参画を推進してきた女性の生き方や行動、女性の活動・運動、女性政策・施策、そして女性の学習活動について知るために積極的・総合的に資料を収集・整理・提供する「女性アーカイブセンター」を設立することとした。
 その前準備として平成17~18年度の2年間にわたり、NWEC内外の研究者による「女性アーカイブセンター機能に関する調査研究プロジェクト委員会」が組織され、女性アーカイブのコンセプト及び機能・収集対象等の検討、女性関係資・史料の所蔵状況に関する全国調査、海外女性アーカイブの事例調査など、多様な調査研究が実施された。
 この調査研究を受けて女性アーカイブセンターが平成20(2008)年6月に開設された。開設されてから10年以上経つが、男女共同参画社会の形成に業績を残した女性・全国的な女性団体活動や、女性教育・男女共同参画施策等に関する史・資料を収集し続けている。また収集した史・資料は整理保存すると共に広く活用し、関係機関との連携・協力を図り、男女共同参画推進に関する啓発、学習・研究支援等を行っている。
 資料収集については収集資料基準で以下のように定められている。
 1) 分野
  ①女性(婦人)教育
  ②女性問題、女性労働、女性運動、女性政策
  ③女性関係団体・機関
  ④女性史編纂関連資料
  ⑤国立女性教育会館に関わる資料
 2) 時代
  原則として、明治時代以降に作成されたものとし、当面、「国連女性の十年」(1976~1985年)までの時代に
 重点を置く。
 3) 地域
  原則として、全国的に影響を持った事例に関わる資料
 4) 形態
  原則として、非刊行の公私の記録・文書、音声記録、映像記録等

 主なコレクションとしては以下が挙げられる。
・奥むめおコレクション
 戦前・戦中・戦後を通して暮らしに根づいた女性運動を展開した奥むめお(1895~1997)に関する文書、写真など。
・稲取婦人学級資料
 文部省が実施した稲取実験婦人学級に関連する1954~1957年ごろの資料。
・全国婦人新聞社取材写真コレクション
 女性問題専門誌『女性ニューズ』(旧『全国婦人新聞』の取材写真)。
・ベアテ・シロタ・ゴードン資料
 GHQの一員として日本国憲法の草案作成に携わり、第24条(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)草案などを執筆した、ベアテ・シロタ・ゴードンの関連資料。

ベアテ・シロタ・ゴードン資料

ベアテ・シロタ・ゴードン資料

稲取婦人学級資料

稲取婦人学級資料

奥むめおコレクション

奥むめおコレクション



 女性アーカイブセンターの収集資料点数は14,000点を超えている(平成30年度末現在)。これらの貴重な資料は閉架式で事前予約制ではあるが、閲覧室で閲覧可能である。
 またNWEC本館1階に展示室があり、女性アーカイブセンター所蔵資料を展示する所蔵展示と、さまざまな分野でチャレンジした女性たちのあゆみをシリーズで伝える企画展示を半年ずつ交互に行っている。

 3.女性デジタルアーカイブシステムについて
 NWECでは、女性アーカイブの目録や画像データの管理・運用、またインターネットを介してデジタルアーカイブを提供するために、女性デジタルアーカイブシステムを設計・開発した。
(リンク:http://w-archive.nwec.jp/il/meta_pub/G0000337warchive
 システムの特徴としては、資料の受入からインターネットでの公開までの一連の作業をサポートするシステムであることが挙げられる。そのためデータベース項目には、利用者への公開項目だけでなく、アーカイブ資料に特有の管理項目が含まれている。また、NWECが保有する「女性情報シソーラス」の活用や「女性情報ポータルWinet」との連携を考慮した項目も含まれている。
 データ構造上の特徴としては、資料の属性を記述する上で階層構造(資料群-小資料群-件名)をとることである。データ構造を階層構造としたのは、資料の受入作業段階での作業工程との整合性、データの参照・閲覧段階での多様な検索方法の実装を実現するためである。

 システムの基本仕様
 1) データ登録機能 
  ①ログイン機能
  ②登録方法選択・編集対象選択
  ③データ登録・確認
  ④データ公開
 2) データ検索・閲覧機能
  ・年表検索
  ・キーワード検索(簡易、詳細)
  ・資料群一覧検索
  ・資料種別検索
  ・原資料の利用検索
  ・資料群の分野検索
  ・閲覧機能

 直接NWECに来館しなくてもWeb上で女性アーカイブの目録や画像データを見ることが可能であるため、女性デジタルアーカイブシステムの需要は大きく平成30年度は年間94,762件のアクセス件数を記録した。今後もデジタル化件数を増やしていきたいがシステムを運用している中で一番の課題は、「目録データ、原資料、画像の公開可否、利用条件の最終決定」に予想以上の時間を費やしている点である。近現代のアーカイブ資料は、個人情報を含むものが多く、公開は慎重にならざるを得ない。また、電子化された画像は、個人情報にかかわる部分だけをマスキングして公開することが可能だが、著作権者から電子化の許諾が得られなかった場合、原資料の公開(閲覧)も待たざるを得ないものがある。
 アーカイブ資料は、図書・雑誌のような刊行物と異なり、1点ずつ固有の問題を有しているため、公開に際して一律の取り扱いができない。個別の資料の特性に向き合い、問題を解決していく姿勢が必要である。

女性デジタルアーカイブシステム トップページ

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女性デジタルアーカイブシステム コンテンツ

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 4.おわりに
 NWEC所蔵のアーカイブを活用してもらうには、まず女性アーカイブや女性アーカイブセンターの存在を含めた幅広い広報が必要である。現在展示や展示に関連するイベントを行ってはいるが、あらゆるツールを使って魅力的・効果的な広報実践が課題である。
 今回紹介した女性デジタルアーカイブシステムはインターネットを通して全世界に貴重な資料の画像を提供しているが、日本語のみの対応となっている。今後各方面から注目されているベアテ・シロタ・ゴードン資料の公開も予定されており、少なくとも英語対応は急務の課題となっている。
 ナショナルセンターとしてNWECは、今後も女性の歴史を後世に伝える上で資料的価値、利用価値のある資料を継続的に収集していくだけでなく、地域における女性アーカイブの構築・充実を支援する必要がある。