群馬県立文書館 テーマ展示1「上州の幕末・明治維新-150年前のふるさと-」について

群馬県立文書館
関口 荘右

1.はじめに
 当館のテーマ展示は、収蔵史料の中から設定したテーマに基づいて史料を選定し、展示室やロビーに展示する事業です。テーマ展示の目的は、利用者・県内外の方々に郷土群馬の歴史や当館業務について関心・理解を深めていただき、文書閲覧などの利用促進につなげていくことです。
 今回は、古文書係が担当し「上州の幕末・明治維新 -150年前のふるさと-」というテーマで、現在開催中です(7月21日~11月4日、9月9日まで前期、9月11日より後期)。本年は明治元年(1868)から満150年に当たり、その年をはさむ幕末・明治維新期の上野国(上州)に関する文書や大型絵図の全31点を選び、複製を作成し展示しています。展示期間中の10月27日には、テーマ関連の「文書館開館記念日行事」を開催し、記念講演会や展示解説会を実施します。また、本年11月17日から平成31年2月24日まで、公文書係が担当しテーマ展示2「明治150年 上野国から群馬県へ(仮)」を開催します。

2.開催準備、展示項目について
 今回の展示テーマは、平成29年初冬に決まりました。「幕末」は、一般的に嘉永6年(1853)の米使ペリー来航以降とする考えもありますが、幕府の天保の改革、諸藩の藩政改革、世直し一揆が始まった天保期以降としました。また「明治維新」の終期は、廃藩置県断行の明治4年(1871)など諸説ありますが、今回は西南戦争終結の明治10年(1877)としました。展示項目は、天保期~明治10年の上州の特徴的な歴史を記した文書や大型絵図を精選し、次の5項目を考えました。
1.天保・弘化期の上州と治安維持
2.異国船渡来・開港と生糸売買
3.和宮下向、前橋城再築、下仁田戦争
4.上州世直し一揆、戊辰戦争
5.蚕糸業視察、廃藩置県、他
 その上で、当時の民衆の生活や行動がうかがわれる史料、文字・書体の整った文書、彩色の絵図などを努めて選びました。

3.展示資料について
 項目1については、幕府領・旗本領・大名領などが錯綜する上州を徘徊した無宿者として有名な国定村忠次郎(国定忠治)関係の文書で、且つ彼らを取り締まる幕府の関東取締出役が記されている文書2点を選び、前期展示・後期展示としました。また、その国定忠治が関所を破り、後に付近の川原で処刑された東吾妻町大戸の「大戸関所周辺絵図」(天保13年)などを展示しました。
 項目2については、嘉永6年(1853)6月の米使ペリー来航と翌年の再来日、和親条約締結に関する情報が上州にどのように伝えられたのか、という視点で「川越藩(後の前橋藩)大津陣屋他、三浦海岸配備絵図」(写真1)などの絵図3点と赤堀家文書「外夷来艦誌 一」を選びました。

写真1 前橋(川越)藩大津陣屋他、三浦海岸配備絵図(部分)

写真1 前橋(川越)藩大津陣屋他、三浦海岸配備絵図(部分)

 また、生糸売買については、上野国産生糸を江戸の川越藩(後の前橋藩)御蔵まで運送するための取り扱い方について記した文書、前橋糸仲間が上野国産生糸の品質を維持するため渋川宿糸仲間に差し出させた文書などを展示しました。
 項目3については、公武合体政策により皇女和宮が14代将軍家茂に嫁すこととなり、文久元年(1861)中山道を通って江戸へ向かいました。途中、軽井沢宿から碓氷峠を越え、羽根石茶屋(現安中市)から新町宿(現高崎市)にかけての上州7宿等で宿泊・休憩しました。一行を迎え入れる準備に当たった幕府・安中藩役人名とその動き、茶屋でのもてなしなどを書き留めた文書、和宮一行の宿泊前後3日は旅人の往来差し止め、警備を厳重にすることなどが記された「御触書之写」(写真2)などの文書を展示しました。文久・慶応期の前橋再築城については、中島家文書と群馬県行政文書の絵図2点、領内からの献上者・献上金書上の文書を展示しました。また、元治元年(1864)、京都にいる一橋慶喜に攘夷を訴えるため上洛途中の水戸浪士とそれを追撃した高崎藩兵との間に起こった「下仁田戦争」については、地元の神戸家文書の店卸帳に詳述された部分と戦死した高崎藩士36名の法名・実名・享年等が記された木版の文書を選びました。

写真2 御触書之写(和宮様御下向之節請書、部分)

写真2 御触書之写(和宮様御下向之節請書、部分)

 項目4については、慶応4年(1868)2月から3月にかけて上州で発生した世直し一揆のうち西上州と東上州の一揆について記した赤堀家文書「慶応記聞 三十三」、上州世直し一揆発生時の小前百姓の囲い籾夫食拝借願い「連印規定書之事」、同年8月の会津戦争直前の沼田城下諸藩荷物継立て人足触書、旗本の新田(岩松)俊純が描いた「猫絵」(蚕の大敵のネズミ除けとして信仰され人気があった)などを展示しました。
 項目5については、明治2年(1869)5月、製糸・蚕種業視察のため上州を訪れたイタリア公使夫妻一行を描いた錦絵(写真3)、新政府外国官から前橋藩・前橋町方へ両者応接のお褒め文書、明治4年7月の廃藩置県の際に前橋藩から前橋町年寄に出された文書、旧伊勢崎県士族卒土着場所絵図を選びました。なお、この項目関連の絵図として、国立公文書館内閣文庫所蔵「天保国絵図上野国」(特 083-0001:冊次47)が明治初年の作製と推定されるため複製写真を展示室前のロビーに展示させていただきました。
 また、幕末・明治維新期の著名な人物が記されている文書として「松平土佐守様御上屋鋪にて御覧(江戸土佐藩邸剣術試合人名書上、桂小五郎・坂本龍馬ほか41名)」(安政4年3月、試合の真偽未確認)、西郷和讃(写、明治10年10月)を展示し、一般県民へのPRをはかりました。

写真3 伊太利人前橋城下誘引到着の図(部分)

写真3 伊太利人前橋城下誘引到着の図(部分)

4.結びにかえて
 本稿は、今年度の当館テーマ展示1について紹介させていただきました。当館の展示物は、予算が少なく、展示室の環境の問題もあり、全て手作りの複製や写真パネルなどです(原本展示会を除く)。解説パンフレットも手作りです。
 展示準備は、担当館員が一致協力し、他の通常業務に従事しながらの作業です。展示史料選定、展示物作成、広報活動は、担当人員数・予算の面から年々難しくなっています。閲覧利用の増加に主眼を置く、文書館にふさわしい展示とは何か。より多くの来館者につながる展示とは何か。今後も模索が続きます。