「公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書」の改訂について

国立公文書館 業務課
デジタルアーカイブ係長 髙杉美里

はじめに

   独立行政法人国立公文書館(以下「当館」という。)では、全国の公文書館等におけるデジタルアーカイブ化の推進に資するための技術的支援として、平成20年度に「全国の公文書館等におけるデジタルアーカイブ・システムの標準仕様書」(以下「標準仕様書」という。)を作成し、国内の公文書館等へ配布するとともに、ご要望に応じて同書の説明を行う等普及に努めてきました。平成24年度に一部改訂を行いましたが、その後もデジタルアーカイブに関連する技術状況の進展は著しく、全体的な見直しによる改訂の必要が生じていました。このため当館では、平成28年度に「最新のIT技術を活用したデジタルアーカイブ・システムの調査検討」(平成29年1月)を実施し、デジタルアーカイブに関連する最新のIT技術等の調査検討を行うとともに、標準仕様書の改訂に向けた考え方の整理を行いました 。そして平成29年度には、同調査検討の成果を踏まえ、標準仕様書の改訂作業を実施し、当館ホームページ上に改訂版の標準仕様書(以下「改訂版標準仕様書」という。)を公開しました 。
 当館では、平成30年度以降、全国の公文書館等のデジタルアーカイブ化推進に資するための技術的支援において、この改訂版標準仕様書を用いることとしています。本稿では、改訂前の標準仕様書からアップデートされた箇所で、改訂版標準仕様書のポイントとなる点について概要を紹介します。

1.選べるシステム環境・構成

   改訂前の標準仕様書においては、各公文書館等が単独でデジタルアーカイブ・システムを構築し、運用する形態のみが想定されていました。しかしながら近年では、クラウドサービスを利用することで、複数の公文書館等や類縁機関等が共同でデジタルアーカイブ・システムを運用することも可能となっています。そこで改訂版標準仕様書では、各公文書館等がその固有の状況やニーズ等に応じて、柔軟にデジタルアーカイブ・システムを構築・運用することができるよう、システムの運用形態、構成、インフラ基盤のそれぞれについて以下のような複数の在り方を整理し、紹介することとしました。


運用形態

単館運用/共同運用

構成

基本的な構成/標準的な構成/発展的な構成

インフラ基盤

クラウド/オンプレミス

 

2.安全なシステムの構築・運用

   デジタルアーカイブ・システムは常にインターネットに接続した状態におかれることから、インターネットを通じた様々な脅威への対策を講じることが求められます。また、近年の公的機関のWebサイト等においては、公開情報のみを配信する場合であっても、Webサイト等への信頼性を高める観点から暗号化通信が用いられる傾向もあります。
 このため改訂版標準仕様書では、デジタルアーカイブ・システムのセキュリティ確保に有効と考えられる対応として、ウィルス対策、外部攻撃対策、不正アクセス対策等に係る具体的な手法について紹介を行いました。
 また、デジタルアーカイブ・システムの継続的な安定運用に有効と考えられることから、システム監視、バックアップ、データ移行に係る対応策について説明を追加したほか、デジタルアーカイブ・システムの性能要件に関する考え方を示しました。

3.使いやすさの追求

   改訂版標準仕様書では、利用者にとって使いやすいデジタルアーカイブ・システムの構築が可能となるよう、利便性向上やデータの利活用促進に関連する機能や仕組みについての説明を充実させました。
 特に利便性向上の観点からは、複数の検索支援機能(辞書検索機能、ファセット検索機能等)、デジタルコンテンツ(画像、音声、動画)の閲覧等の機能、ユーザ・インターフェース等について具体的な説明を行っています。また、目録データやデジタルコンテンツの利活用促進という観点では、目録データの外部提供インターフェース、リンク切れ防止、標準的なライセンス表示等についての説明を追加しました。

おわりに

   改訂版標準仕様書では、利便性が高く安全なデジタルアーカイブ・システムを構築するための仕様について、分かりやすくお伝えしたいと考え、できるだけ平易な記述を心がけました。全国の公文書館等の皆様には、この改訂版標準仕様書を、デジタルアーカイブ・システム構築事業のための計画検討や調達に係る仕様書作成等の様々な場面においてご活用いただければ幸いです。
 なお、当館では今年度も、公文書館等からのご要望に応じて改訂版標準仕様書についての訪問説明等を実施することとしています。当館による訪問説明等をご希望の場合は、当館業務課デジタルアーカイブ係までご連絡ください。