防衛省防衛研究所史料閲覧室の移転に前後して

防衛研究所戦史研究センター史料室
主任研究官 菅野 直樹

1 はじめに

   昭和31(1956)年、防衛庁防衛研修所(当時)に戦史室が編入され、以来、戦史編纂のため、旧陸海軍関連史料の収集及び整理に鋭意努めてきた。この間、33年には、アメリカから占領期接収史料が返還されるなど、同室の所蔵史料は充実をみた。戦史室は40年から『戦史叢書』の刊行を開始し、戦史室には旧陸海軍及び近代日本の戦争について、問合せが相次いだ。
   組織改編で戦史室が戦史部となってまもない54年、同部は市谷から目黒に移転、翌55年の事務次官通達に基づき、同年9月から史料閲覧室において、戦史編纂に活用された史料が一般公開されるに至った。60年に所名が防衛研究所と改称された一方、『戦史叢書』の刊行終了後も長い期間にわたり、国内外からの様々な問合せへの対応は継続し、逐次整理済みの史料が公開されてきた。
   平成13(2001)年、史料室が改編され、総務大臣から公文書館等に類する機関として指定を受けた。同19年における防衛庁の省昇格を挟み、同23年に史料室は、内閣総理大臣から歴史的資料等の適切な管理を行う施設として指定を受け、所内の組織改編を経て今日に至っている。
   史料室に関する法的な位置づけとして注意すべき点は、当室が独立行政法人国立公文書館、外務省外交史料館、宮内庁宮内公文書館と異なり、国の機関や独立行政法人等から行政文書の移管を受けていないことである。当室は、あくまで旧陸海軍に係る戦史史料、すなわち公文書管理法(第2条第4項第3号)にいう歴史的もしくは文化的な資料、または学術研究用の資料を特別に管理する施設なのである。保安庁・警察予備隊発足以降の防衛省・自衛隊に関連した歴史公文書等を保存していないことを付言しておく。
   本稿では、戦後70年を迎えた平成27年度の業務状況、翌28年度に実施した目黒から市谷への所を挙げての移転に焦点をあてて、史料室の現況と、移転後における利用上の留意点につき述べることとする。

2 戦後70年-平成27年度の業務状況

   平成27年は、戦後70年の大きな節目に加え、周知の通り、折からの防衛省・自衛隊を取り巻く安保法制をめぐる国会審議に関心が高まったこともあり、かつての戦争をめぐって、史料室に対するレファレンス件数は増加した。27年度の件数は2,066件に達し、前年度に比べ約14パーセントの増加をみたのである。その中でも報道・出版関係者からの照会は605件に上った。そして、親族の戦死や旧陸海軍との関わりをはじめ、家族史作成及び慰霊巡拝に伴う戦跡調査等に関する問い合わせも多く、旧軍人遺族から301件の照会があった(なお、これらの件数は軽易な対応に留まった1,557件を含まない)。当室が回答に要した時間を平均すると、1件当たり46分を費やした計算になる。
   同年度に来館者数は3,000人に達し、こちらも前年度を上回った。年代別にみると、例年と同様、60代(539人)及び70歳以上(297人)の者が多かった一方で、30代(667人)、20代(598人)の多さも目立ったが、こちらも大半が報道関係者と考えられる。史料取材の申請は76件と、前年度に比べ41件増加した。出版掲載等の申請も103件と、前年比46件の増加をみた。
   博物館等での史料展示に対する協力も多く、防衛省以外で9件、省内で2件の展示に関わり、合計38点の史料につき、館外貸出を実施した。
   寄贈としては、同年6月に大東文化大学東洋研究所から、かつて『昭和社会経済史料集成』として編纂された史料の原本52点を貰い受け、目下、逐次整理中である。これを含め、同年度は552点にのぼる史料及び図書を貰い受けた。
   かつて米国から返還され、平成に入って以降、防研が入手するところとなった、いわゆる青焼き図面の海軍技術史料については、鋭意公開を進めている。
   以上のように多忙であった27年度の後、防研は翌年度、所を挙げて目黒から市谷に移転した。

3 平成28年の移転

史料庫に排架されている中性紙箱

史料庫に排架されている中性紙箱

   史料の移転作業は、7月11日から開始した。移転に際し、史料及び図書を収納した中性紙箱が大きな貢献を果たした。さきに所を挙げての移転が決定した後、平成25、26両年度にわたって、史料室は所蔵史料の数量や形状に鑑み、必要な箱数を割り出した。箱の購入に当たって、要求数はもとより、単年度予算でなく、2年度にまたがって国庫債務負担行為で支弁することが認められた。
   酷暑のさなか、中性紙箱は日光、湿気、塵芥等から史料を保護するとともに、移転作業を効率的にする役割を果たしたといえる。大小6種類のサイズからなる中性紙箱は、総計で約12,900箱に上った。
   研究所全体の施設移転が8月第1週に集中した一方、史料の移転作業は8月10日までの期間を要した。


4 史料閲覧に関する留意点

   史料閲覧を希望される方は、防衛省正門でなく、省敷地北側に位置する加賀門のみからの入出門となる。都営大江戸線牛込柳町駅が最寄りで、駅から加賀門に至る行程はほぼ平坦で歩行容易であるが、都バスを利用することもできる。JRもしくは東京メトロ市ヶ谷駅から加賀門を目指す場合、DNP大日本印刷株式会社の社屋が建ち並ぶ通りを進行されると比較的歩き易い(詳しくは当研究所ホームページ「史料閲覧室」を参照)。入門の際には写真付の身分証明証を提示する必要がある。
   入門後、防研の一部と国際平和協力センターが置かれているF2棟内を1階から2階へと上がり、掲示の矢印を参照し史料閲覧室へ向かう途中、ロッカールームがある。閲覧を希望される方には、ここでいったんロッカーに、史料閲覧の際に不要な荷物を入れていただく。ロッカーを閉じるに当たっては100円硬貨が必要である(硬貨は利用後返却)。史料閲覧室に進むには、F2棟からF1棟へ続く細長い廊下を歩く必要がある。

防衛省加賀門

防衛省加賀門

ロッカールーム

ロッカールーム




史料閲覧室

史料閲覧室

   史料閲覧室(183㎡)において、戦史史料をじかに閲覧する際、防研が目黒に所在していたときと比較すると、前述した青焼と称される図面等の技術関係史料、及び簿冊全体にわたって複写が可能である史料を、閲覧者がデジタルカメラ等で撮影可能となったことは、利用上、大きな改善点である。閲覧者は史料閲覧室に隣接する小閲覧室(8㎡)にて、1回あたり30分以内で史料を撮影できる。また、今回の移転を機に、史料閲覧室に隣接するレファレンス室(21㎡)を新たに設け、相談者には同室内にて対応するため、プライバシーを確保するとともに、閲覧環境もより静穏になった。
   移転を機に閲覧利用上、及び史料保存上改善した事項は多く、戦史史料の管理をめぐる長期の態勢はここに築かれたといってよいであろう。

データシート
   機関名:防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室
   所在地:〒162-8808 東京都新宿区市谷本村町5番1号
   電 話:03-3260-7102(直通)
   URL:http://www.nids.mod.go.jp/military_archives/index.html
   交 通:都営大江戸線牛込柳町駅から徒歩9分
             JR・東京メトロ市ヶ谷駅から徒歩13分
             都営バス白61系統 薬王寺町から徒歩3分
         (入門は、防衛省敷地北側加賀門のみとなります。) 
   開館(再開)年月日:平成28年9月26日
   設置根拠:「防衛庁本庁における情報提供に関する改善措置等について」(昭和55年9月18日、事務次官通達)
   組 織:防衛省-防衛研究所-戦史研究センター-史料室(史料閲覧室)
   人 員:室長以下正規職員11名(2名欠)、非常勤職員3名
   建 物:防衛省F1棟庁舎地下2階~地上3階
             史料閲覧室 183㎡ /史料庫 2,213㎡
   主な所蔵史料:陸軍史料約58,000冊、海軍史料約38,000冊
   開館時間:平日午前9時から午後4時30分まで(入館は閉館の30分前までです。)
   休館日:土曜日 • 日曜日、国民の祝日に関する法律で定められた日、年末年始(通常12月28日から翌年1月4日まで)、その他特別な行事の日
   主要業務:戦史史料の受入・分類に関すること
                  戦史史料の閲覧・複写に関すること
                  戦史史料の整理・補修に関すること
                  著作物の引用に関すること
                  レファレンス、取材に関すること
                  公開審査に関すること
                  戦史史料検索システムの管理運用に関すること