東京外国語大学文書館の国立公文書館等指定 ~小規模大学における指定の経緯と意義~

東京外国語大学文書館 
倉方 慶明

   2016年4月1日、東京外国語大学文書館は国立公文書館等の指定を受け、新たな歩みを始めた。本学は、2012年に二学部化(言語文化学部・国際社会学部)を経たとはいえ、長らく外国語学部だけの単科大学であり、国立大学法人の中では非常に小規模の分類に入る。指定施設を有する既存の国立大学の多くが「旧帝国大学」系を中心とした「大規模」な大学であることに鑑みると、本学文書館の人・施設・資金等の資源の乏しさは否めず、その体制も十分なものとは言い難い。しかし、今回本学のような小規模大学が指定を受けたことで、現在指定施設の設置を検討している他の国立大学においても、指定へのハードルが下がり、指定に向けた議論が活性化するのではないだろうか。
   以下、本学における指定の経緯について概観するが、それらが他の国立大学における指定検討の一助となれば幸いである。

1. 設立の概略
   本学文書館の設立は2012年に遡る。その設立目的は、主として①大学史編纂時に収集した資料群の活用と、②現用段階を含めた法人文書管理体制の整備、の2点にあった。本学では1997-99年に百周年記念事業の一環として大学史編纂が進められ、当時より編纂委員会では「ユニバーシティ・ミュージアム」の計画が議論される等、編纂事業終了後の資料群活用の方向性が模索されていた。しかし、キャンパス移転に重なったこともあり、年史編纂終了後約10年間、収集資料群は新キャンパス(府中キャンパス)の片隅に眠ることとなった。
   この間、国立大学の文書管理を巡る状況は、2001年の情報公開法の施行、2004年の国立大学法人化、そして2011年の公文書管理法の施行と、大きく変化し、2011年頃には国立公文書館等の指定を含め、同法に対応した法人文書管理が叫ばれるようになった。特に、公文書管理法第11条4項に定められた保存期間満了後の法人文書が国立公文書館への移管か廃棄をしなければならないとの文言と、真偽はともかく当時流布していた「国立公文書館が国立大学の法人文書の移管を受け入れない」との噂[*]が、学内の歴史学系教員に対し、本学の歴史公文書等の主体的な管理が不可能になることへの危機感を持たせ、法人文書管理体制の整備、そして文書館設置への関心を急速に高めた。
   こうした状況を背景に、本学では先の年史編纂資料群の活用と法人文書管理体制の整備を目的に2011年に準備室が、2012年に東京外国語大学文書館が設置された。

2. 指定申請の契機
   文書館設立当初より本学では国立公文書館等の指定が検討されていたが、本学のような小規模大学での指定は人・施設・資金等の資源の面から現実的でないとして、議論の度に「時期尚早」とされていた。加えて、文書館の存在意義や活動への理解が乏しかったこともあり、設立されたばかりの文書館は学内において数年の期限付きのプロジェクト型事業として認識されていた。その為、設置から2~3年の間は、年史編纂資料群を活用した展示場の整備や企画展の開催、卒業生を巻き込んだ形での新規資料収集プロジェクトの実施、大学史授業の開講等に注力し、活動実績を築くことで、その存在意義への理解の浸透を目指すこととなった。
   幸い、卒業生団体からの寄贈資料群の増加や大学の広報活動に歴史資料が利用されるようになったこともあり、徐々にその活動への理解は広まり、そうした寄贈資料群の収集・整理に際し獲得した予算を活かすことで、収蔵庫・閲覧室・展示場といった文書館に不可欠な施設の整備を進めることができた。またこれらと並行して、指定施設を有する先行諸大学の調査を進め、「時期尚早」と言われながらも、指定に向け必要な準備を一歩一歩進めることができた。
   指定に向けた状況が大きく転換したのは、2015年3月10日に実施された内閣府の事前視察からである。この視察は指定を管轄する内閣府に、当時の施設と活動状況を報告し、今後の指定申請に向け必要な整備に関し助言を得ることを目的に実施された。ここで内閣府より施設面・体制面・活動面に関し、一定の追加整備は必要との留保はありながらも指定申請の検討は十分可能との好意的評価を得たことが、申請に向けた学内認識を大きく変えることとなった。特に、施設整備に多大な費用が掛かると懸念していた収蔵庫の温湿度管理や害虫駆除に関し、「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン」に示された水準は絶対ではなく、各法人の規模・実態に合わせた調整で問題ないとされたことや、閲覧対応についても情報公開窓口との統合や予約制等も検討できるとの助言を得たことは、資源の少ない本学でも指定申請が工夫次第で十分対応可能なものとの認識を生むこととなった。
   率直に言って内閣府の視察は厳しい指摘が相次ぐもの、と視察前は余計な「警戒」をしていたが、実際はその後の指定申請の交渉を含め、現場の実情を考慮した具体的かつ好意的指導・助言を頂いた。ここに記して内閣府及び国立公文書館の担当諸氏には深く感謝申し上げたい。本学の経験からも指定を検討している諸大学にとって、内閣府への相談は重要な転機或いは後押しになると、強調したい。

3. 指定の経緯(1)報告様式の提出と体制整備
   2015年度に入り、指定申請に向けた活動が本格化した。6月、大学文書館担当理事・館長・副館長と各部局の長で構成される文書館運営委員会において、指定申請に着手することが決定されると、翌7月には大学事務局全体への説明会を開催し、指定に向けた活動、特に次年度以降実施が予想される法人文書移管に関しての理解と協力を求めた。そして「報告様式1」(8月)、「報告様式2」(9月)の提出に伴い、指定後の体制の在り方について、主管課である総務企画課とともに具体的な検討を進め、追加の諸整備を行った。やはり資源が乏しい本学では、施設面、体制面でそれぞれ以下の点が特に検討課題となった。

(i)施設面:追加収蔵スペースの確保の必要性
   現在、本学文書館には第1~第4収蔵庫があるが(表1)、2015年4月当初は第1・第2収蔵庫だけであり、3月の内閣府の事前視察の折にも「法人文書保管用のスペース確保が望ましい」との指摘を受けており、今後継続的に法人文書の移管を受けるに当たり、収蔵庫の追加確保は急務であった。その為、総務企画課が主導となり「学内の施設利用の効率化」を名目に全学的な施設の利用状況調査を行い、結果、7月に第3収蔵庫が、2016年1月に第4収蔵庫が追加の収蔵スペースとして確保されるに至った。

【表1-収蔵庫の状況】※学内の小さな倉庫(空きスペース)を整備の上、収蔵庫・荷解室として活用している。
名称(場所)
広さ(㎡)
備考
 第1収蔵庫(研究講義棟4階)
28
 大学史資料群、寄贈資料保管
 第2収蔵庫(研究講義棟4階)
28
 配管設備の為「荷解き室」(寄贈資料の仮置き場他)として利用。歴史公文書等の収蔵場所として利用しない方針。
 第3収蔵庫(研究講義棟5階)
12.1
 入口がトイレ付近の為、収蔵庫として活用困難。現状、機材等保管場所として一部利用。
 第4収蔵庫(研究講義棟3階)
24
 主として法人文書用収蔵庫の予定。

(ii)体制面:1室体制、開館時間と増員の必要性
   国立大学法人の既存施設の多くは、①歴史公文書等を扱う国立公文書館等の指定施設と、②寄贈資料等の歴史資料を保管する歴史資料等保有施設の2室体制を執っている。これには寄贈資料を含む全ての受入資料を受入後1年以内で排架し目録公開しなければならない負担と、高い保存基準が求められる歴史公文書等として保管することのコストを避ける意図があるとされる。しかし本学では内閣府の助言を受け、前者については一般的に寄贈資料の受入が目録作成の上寄贈契約を経て行われることから、受入後1年以内とは寄贈契約から1年以内と解釈すれば負担とならないと考え、後者については2室体制にする場合、歴史公文書等と歴史資料を別々の収蔵庫が必要となることから本学では逆に負担になると考え、最終的に1室体制を執ることとした。
   また、人員体制については専任1名・非常勤補佐員1名の2名で実務に当たっており、指定に伴い法人文書の評価選別・移管、閲覧対応の作業負担が増加することから、増員を検討した。特に閲覧対応については、内閣府の事前視察の折にも「平日の開館が望ましい」との指摘を受けており、平日全ての閲覧対応と、資料調査等で館外に赴くことや職員の休暇(特に疾病等による突発的なもの)のバランスを検討した結果、もう1名の増員が必要として学内で提言した。残念ながら小規模大学のさだめか、指定後現在に至るまで、増員は認められず2名で進めている。

4. 指定の経緯(2)利用等規程(案)の検討と現地調査
   10月頃からは指定後の体制を踏まえた「利用等規程(案)」等の規則整備の検討に入った。規程案についてはメール・電話により随時内閣府と事前調整を進めることになる。原則的にひな形に従うことが求められ、変更箇所については文字通り一言一句下線を引いて示した上でその理由を明らかにしなければならない。本学でも、原則ひな形に準拠したが以下の2点、改革的試みを目指し内閣府との交渉を行った。

(i)利用請求に際し「時の経過」に加えて「利用の目的」を考慮するとの文言追加
   大学が研究教育機関であることに鑑み、「研究利用」を目的とした利用請求に対し、柔軟な対応を可能とし利用を促進する為に追加した。個人情報等の扱いについては十分な配慮を行うことを前提とした上で、当該請求者の研究の目的・実績・公表の方法等を、「文書館運営委員会」で検討し、「研究利用」に限った利用を許諾する道を開くことを意図していた。

(ii)本学文書館の文書館運営委員会の審議による廃棄との文言追加
   重複或いは収蔵スペース上の問題から、「特定歴史公文書等として保存している文書」について再評価せざるを得ない事態が想定される為、本学の文書館運営委員会での審議を経て、内閣総理大臣に対して廃棄を協議する道を作る為に、追加した。

図1 新たに追加整備された公文書用の収蔵庫

図1 新たに追加整備された公文書用の収蔵庫

   両点ともに内閣府との交渉の結果、最終的には「予想通り」公文書管理法の趣旨にそぐわないとの観点から削除されることとなったが、交渉の過程で前者については、大学法人の判断で「情報管理」の観点から対応することは可能であり、当該文書に記載された情報について、移管元部局(大学)の許可を得て情報提供するとの道筋であれば、利用目的等による利用の可否に関する対応として問題ない、と利用請求の枠組みではないが具体的な打開策が示されることとなった。ひな形には準拠すべきとは思うが、各法人に利用の促進を図る等明確な方針・意図があるならば、交渉を試みることにも十分意義はあると言える。
   1月22日、上記の規程案の内容に関する協議と現場の確認を兼ねた現地調査が実施された。ここでは新たに追加整備された収蔵庫(図1参照)だけでなく、閲覧窓口・手数料納付窓口への導線、果ては手洗い場の場所までもが、利用者の目線も踏まえ細かく確認された。これらを経て3月3日、公文書管理委員会において本学の「利用等規程(案)」が審議・承認され、4月1日より国立公文書館等として活動することとなった。

おわりに
   以上、本学文書館の国立公文書館等指定の経緯を概観してきたが、実はこれらと並行して、年間4回の企画展の刷新やホームカミングデイの対応、戦後70年に伴う聞き取り調査等の業務を実施しており、率直に言って自転車操業のなか何とか指定まで辿り着いたという印象である。無事通過できたのは、規程作成・学内調整に当たった本学総務企画課の実行力と、学内の意見を統合しやすい小規模大学ゆえの身軽さがあったと思う。小規模の大学においても工夫次第で自らの歴史公文書等を保管し活用する道筋は開けると言えよう。
   指定を受けたとはいえ、本学の場合、走り出しながら整備を進めている面もあり、未だ充分とはいい難い。特に、学内の教育研究資料の扱い等、まだ課題も多い。よりよい文書管理体制を築くための試みを続けて行きたい。

   (東京外国語大学文書館の活動・概要についてはウェブページhttp://www.tufs.ac.jp/common/archives/を参照されたい。)

[*]本学が文書館設置の検討を開始した2011年時点の噂であり、2014年度には国立大学法人和歌山大学より「大学設立委員会書類」27冊が移管され、国立公文書館は国立大学法人の法人文書の移管を受け入れている。国立公文書館http://www.archives.go.jp/owning/new/shinkibunsho27_01.html参照。(2016年8月5日閲覧)