新しい国立公文書館の建設に向けて~国家的事業としての取り組みへの期待~

国立公文書館長 加藤 丈夫

   長年の懸案であった新国立公文書館の建設に明るい展望が開けてきました。
   この問題については、一昨年から内閣府に設けられた有識者会議や国会における超党派の議員連盟、衆議院の議院運営委員会に設置された小委員会などで検討されていきましたが、先般それらの諸会合の結論として「新公文書館の建設候補地は(国会議事堂近くの)憲政記念館の敷地とし、今後地質の調査や既存建造物との調整などを行った上で今年度内に最終的に決定する」ということになりました。
   いまは構想が緒についた段階なので、新館建設に取り掛かるのは数年先になりますが、私はこれまでの検討を通じて、国が「国家的事業として公文書館の充実に取り組む」という意向が明確になったことに大きな意義があると考えています。
   それは単に建物を作るだけでなく、諸外国に比べて大きく遅れている機能面の充実につながるし、その動きは全国の公文書館に広がると期待されるからです。
   近年は、国や地方公共団体などの公的機関で、重要な記録の収集・保存・公開に関する仕事の重要性が認識されるようになり、(徐々にではありますが)その体制整備が進んでいます。しかし、これに取り組んでいる各機関からは「課題解決に向けての最大の問題はこの仕事に携わる人材が不足していることだ」という声が上がっており、人材不足は全国の公文書館共通の問題となっています。
   国立公文書館でも同じ問題を抱えており、先にあげた有識者会議がまとめた「国立公文書館の機能・施設の在り方に関する基本構想」にも、「新館の建設に合わせて機能面の充実を図り、それを推進する人材の確保に努めること」という指摘があります。 
   機能の充実に関する具体的な課題としては、例えば、①行政機関等からの文書の移管に加え、自ら資料の積極収集に取り組み所蔵資料の充実をはかること、②資料のデジタル化を推進することと併せ、全国の公文書館との情報連携を強化することなどがありますが、これに取り組むには相当のマンパワーが必要であり、人材が確保できなければこの課題解決は不可能です。
   これから国立公文書館としては、“新しい設備に相応しい機能を整備すること”を目標に取り組んでいきますが、その役割を担う人材の増強には長い時間がかかるし、一つの機関の努力でできるものでもありません。
   私は、できれば国内のアーカイブズ関係機関にもご相談しながら、こうした問題に対する検討を深めていきたいと考えていますが、いずれにしても、この度の「国としての新館建設への取り組み」が、全国の公文書館活動の充実につながることを願っています。