滋賀県における時代に則した新しい文書管理の在り方について-歴史的文書保存・活用事業-

滋賀県総合政策部県民活動生活課県民情報室長
八田 博之

1. はじめに

滋賀県公文書センター
滋賀県公文書センター

 公文書は、県の諸活動や歴史的事実を記録し、県民の知る権利に応え、県民への説明責任を果たすための重要かつ貴重な資料です。

 本県は、全国的にも稀な歴史記録の宝ともいえる歴史的文書(明治期~昭和戦後期までの9,222簿冊、約75万件)を管理しているとともに、戦後期以降においても、滋賀県政、滋賀県民の足跡を記す様々な文書を、県庁に併設している公文書センターで保存しています。

 この「滋賀の記憶・誇り」とも言うべき公文書を、将来にわたって適切に保存し、県民をはじめ県内外に発信していくため、公文書管理法の趣旨を踏まえ、現用文書から歴史的文書へと移行するという公文書のライフサイクルに沿った新たな公文書管理の制度構築を進めているところです。

2. 本県の文書管理の現状と課題

2-1 現用文書

公文書センター文書庫 現用文書
公文書センター文書庫 現用文書

 本県の公文書は、滋賀県文書管理規程等に基づき、管理しています。平成17年度からは文書管理システムにより、電子化を導入し、年間約24万件の公文書を作成しています。現在の文書管理システムは、文書を収受または作成してから廃棄するまで一元的に管理する機能を備えており、文書件名目録の情報をホームページで公開する機能もあります。このほか、電子決裁や電子文書の保存などの機能があり、決裁過程や保存場所が確認できる事務処理の透明化、蓄積された文書データの再利用など、文書事務にとって不可欠な基盤となっています。

 作成した公文書は、本庁の場合、主務課から公文書センターの文書庫に引き継がれ、保存されています。この文書庫は約50,000箱を収容可能であり、現在およそ7割を使用しています。保存文書の中には、歴史的に価値のある文書も多く含まれています。

(1)統一的な新しい管理ルールとして条例等公文書管理規程の制定

 情報公開は、知事以外の実施機関(議会、各行政委員会、警察本部、県立大学等)を含めた共通のルール(滋賀県情報公開条例)で定めているのに対して、文書管理は、実施機関ごとにそれぞれ規程を定めています。それらは、「事務は、原則として公文書により処理しなければならない」との事務処理の原則のほか、公文書を作成し、または取得してから廃棄するまでに行う一連の手続を定めたものです。開かれた県政を進めるためにも、県全体で統一的な文書管理ルールを導入することが望ましいと考えています。

 また、歴史資料として重要な公文書の取扱いについては、定めておらず、非現用文書(歴史的文書)の管理については、現用文書とは異なる「滋賀県歴史的文書の閲覧等に関する要綱」で定めています。時代に則した、適正な公文書管理を行うためには、現用および非現用文書のライフサイクル全体について、統一的な文書管理ルールで規定する必要があります。

(2)最長30年経過した文書の歴史的文書への持続的な移行

 滋賀県公文書公開条例(現・滋賀県情報公開条例)の施行に伴い、昭和63年4月に全面改正された滋賀県文書管理規程では、昭和62年12月の公文書館法の成立を受け、保存期間の基準に「県行政の沿革に関する文書で重要なもの」を永年保存として追加し、歴史資料として重要な公文書は、永年保存することとしました。

 しかし、有期限保存の文書の中にも、現用文書としての役割を終えたものの、歴史的・文化的価値という観点から保存すべきものがあります。このため、平成19年度から、滋賀県文書管理規程(知事部局)その他の県の機関が定める公文書の管理に関する規程に規定する保存期間を経過し、廃棄の対象となった公文書の中から、歴史的価値を有すると認められるものを選別収集しています。

 現在の滋賀県文書管理規程では、最長30年保存や現用文書から歴史的文書への継続的な移行についての規定がないため、昭和戦後期以降の公文書の歴史的文書への移行を進めるには、永年保存文書の処置や個々の文書ごとに保存期間の満了時の措置をあらかじめ決めておくレコードスケジュールの導入や、移管・廃棄についての取扱い等を明確にする制度について検討する必要があります。

(3)地方機関文書を含めた歴史的文書の適切な管理体制の整備

 歴史的文書の選別収集は、「滋賀県公文書の収集および保存に関する要領」に基づき、県民情報室長が行っており、県の全ての機関の廃棄対象となった公文書が対象となっていますが、公文書センターの文書庫を利用していない機関(地方機関、県立学校、警察、県立大学)は、事実上対象外となっています。

 地方機関が保有する文書の中にも歴史的に価値が高い公文書があるため、地方機関の歴史的文書を正確に把握するとともに、県全体として歴史的文書の保管の在り方の検討を行う必要があります。

公文書センター文書庫 歴史的文書(中性紙保存箱で保存)
公文書センター文書庫 歴史的文書(中性紙保存箱で保存)

2-2 歴史的文書

 幸いにして、戦災や自然災害に遭うことがなかったため、明治期から戦前までの公文書は、保存状態が良く、貴重な資料が数多く残っています。平成18年11月に滋賀県公文書保存活用検討懇話会の提言が知事あてに提出されたことを受け、平成20年6月、県民情報室内に「県政史料室」を開設しました。明治期から終戦までに作成された公文書で、公文書センター文書庫において歴史的資料として特別に管理されている文書を「歴史的文書」と位置付け、県政史料室で県民の方々に閲覧していただいています。

 「歴史的文書」計9,068簿冊(明治期4,178冊、大正期1,597冊、昭和戦前期3,293冊)は、平成25年3月に、「滋賀県行政文書」として滋賀県指定有形文化財に指定されました。

県政史料室
県政史料室

 現在、3名の歴史的文書担当嘱託員が歴史的文書の閲覧申請やレファレンス等の対応にあたり、申請された文書の利用の可否を検討したうえで提供しています。電話等による利用相談や展示見学などを含む利用者数は、平成26年度で1,703人となっています。

(1)目録整備

 歴史的文書(明治期~昭和戦前期、9,068簿冊)の件名目録を整備し、平成26年10月からは、簿冊目録および件名目録をエクセル形式により滋賀県のホームページに掲載し、インターネット上からも検索可能となりました。

 戦後期の永年保存文書(昭和21年~56年、10,578簿冊)については、簿冊目録を整備していますが、歴史的文書への移管を進めていくには、既に作成後30年が経過している戦後の文書の件名目録の整備を早期に進める必要があります。3名の行政文書担当嘱託員が件名目録の作成に携わっており(10,578簿冊のうち現在約70%作成)、平成30年度中の完成を目指して作業を進めています。

「歴史的文書を考える」講演会
「歴史的文書を考える」講演会

(2)普及啓発

 歴史的文書をより利用しやすくするためのサービス向上や情報提供の充実を目指して、県政史料室の展示スペースで、年間を通して約6テーマの企画展示を行っています。平成27年度は、「山林の明治維新-保護と乱伐の19世紀-」や「時代を映す国勢調査-『文明国』の象徴から総力戦体制へ-」等のテーマで展示を行いました。

 庁内向け情報誌として発行している県民情報室だよりには、「タイムトラベルコーナー」と「歴史的文書を読んでみよう」の2つを連載しています。後者については、掲載したくずし字の読み方と文書の歴史的背景を解説する「解読講座」を昼休みに職員向けとして開催しています。

 また、シリーズ「歴史的文書を考える」として毎年講演会を開催しています。平成26年度は「地方自治の黎明―明治期滋賀の町村のかたち―」と題して、京都橘大学教授の高久嶺之介氏に御講演いただくとともに、講演会に関連した企画展示「初代県令松田道之と地方自治」を開催し、多くの方に来室していただきました。

 平成23年度から、県内歴史的公文書等担当者会議として、滋賀県内の各市町の担当者が集まり情報交換する場を設けています。他府県の事例を学びつつ、それぞれの現状や課題について話し合っています。

 公文書館的機能として、文書の適正な保存、閲覧、レファレンス、展示、研究、デジタルアーカイブなどが求められているため、その機能や今後の方向性についてさらに研究する必要があります。

(3)選別収集

 文書庫内の有期限文書のうち、保存期間が満了した文書の中から、「滋賀県公文書の収集および保存に関する要領」にしたがって、歴史的に価値がある文書を県民情報室および県政史料室の職員(14人体制)で選別しています。保存期間満了文書のリストをチェックし、現物を確認して、歴史的に価値があるかどうかを判断します。選別した文書を文書庫内の歴史的文書保存区画へ容易に移動できること、現用文書を担当している県民情報室職員(7人)と非現用文書を担当している県政史料室嘱託員(7人)が協力して選別を行っていることなど、現用文書と歴史的文書を同一の所属および書庫で管理していることのメリットは大きいと感じています。平成27年度は文書保存箱で21箱分を選別しました。(保存期間が満了した文書保存箱総数1,921箱、選別率1.09%)

3. 現在の取組

GHQ関係文書
GHQ関係文書

(1)GHQ関係文書の公開

 戦後文書のうちGHQ関係文書154簿冊については、文書件名目録が完成し、一般の閲覧に供する準備が整ったため、滋賀県情報公開審査会へ諮問を行い、平成27年6月15日から、「歴史的文書」として県政史料室に移管し、情報公開請求によらず閲覧に供することとしました。

 本年は戦後70年の節目の年であったことから、占領下での県政への関心も高く、関連企画展示として「占領下の滋賀-GHQとその時代-」を開催したところ、新聞にも多数取り上げられ、多くの方に閲覧していただきました。

(2)公文書管理に関する有識者懇話会の開催

 公文書管理法の施行に伴い、本県において時代に則した公文書の管理および公文書館機能の整備を図るため、公文書管理に関する有識者懇話会を設置しました。

 委員は以下のとおり各界の有識者で構成しています。

氏名 所属
青柳 周一 滋賀大学経済学部 教授
梅澤 幸平 元・滋賀県立図書館長
大賀 妙子 国立公文書館 専門調査員
大橋 晶子 京都新聞社滋賀本社編集局 編集部長
佐伯 彰洋 同志社大学 法学部長

(五十音順)                                                                              

第1回有識者懇話会

第1回有識者懇話会

 第1回有識者懇話会(平成27年8月20日)において、「本県の公文書管理の現状と課題」について意見交換を行ったところ、主な意見は以下のとおりでした。

・他自治体の事例を参考にしながら、新たな施設を造るよりも、既存の県政史料室を最大限に生かす方向で考えるのがよい。
・文書管理担当と公文書館機能が同組織にあるメリットを生かしつつ、新しい文書管理の取組ができればよい。
・展示の工夫など、利用者にとって身近で、利用しやすい公文書館であることが必要である。
・移管や廃棄に第三者のチェックがあった方がよい。また、音声などデジタルデータの管理等についても検討すべきである。

(3)今後の予定

 平成27~28年度にかけて、有識者懇話会を開催し、各界の有識者から意見をいただき、その意見をもとに滋賀県の文書管理の在り方の方向性を検討していきます。平成28年度は、条例等公文書管理規程の検討および歴史的文書利活用策の検討を行い、平成29年度を目標に、条例等公文書管理規程の制定および県政史料室の公文書館機能の強化を目指しています。戦後文書(昭和21年~昭和56年)の目録整備が平成30年度で完了する見込みのため、それに合わせて滋賀県の文書管理体制を刷新したいと考えています。

4. おわりに

 滋賀県では、県民情報室内に県政史料室を開設し、公文書館機能の充実をはかってきました。今後、既存の機能の長所を生かしつつ、さらなる公文書管理体制の充実を進めていきたいと考えています。

 本事業を進めるにあたっては、国立公文書館、先進の地方自治体および公文書館の方々から貴重な御教示をいただいているところであり、この場を借りて御礼申し上げます。

データシート
機関名: 滋賀県県政史料室
所在地: 〒520-8577 大津市京町四丁目1番1号
滋賀県庁新館3階県民情報室内
電話/FAX: 077-528-3126 / 077-528-4813
Eメール: kenmin-j@pref.shiga.lg.jp
ホームページ: http://www.pref.shiga.lg.jp/b/kemmin-j/kenseishiryoshitsu/hozonbunsho2.html
交通: JR大津駅から徒歩5分
開館年月日: 平成20年6月17日
組織: 知事―総合政策部―県民活動生活課―県民情報室
人員: 11名(室長1名、室長補佐1名、担当職員2名、参事員1名、非常勤嘱託職員6名)
建物: 床面積約120㎡
所蔵資料: 歴史的文書9,222簿冊(明治期4,178冊、大正期1,597冊、昭和(戦前)期3,293冊、昭和(戦後)期154冊)
開館時間: 午前9時~午後5時
休館日: 日曜、土曜、祝休日、年末年始
主要業務: ・「歴史的文書」の閲覧業務(申請受付、利用審査、複写等)
・問合せに対するレファレンス業務(資料検索、情報提供、回答)
・啓発活動(企画展示、県民情報室だより発行、講演会および解読講座の開催)
・保存期間が満了した有期限保存文書の選別収集
・件名目録作成作業