公文書に学ぶ 大人の美文字講座

公文書の数だけ文字がある。公文書の中には、美文字のヒントがたくさん隠されています。日本書道師範の涼風花先生が当館所蔵資料の美文字ポイントを解説します。
涼 風花(りょう ふうか)先生


「公爵徳川家達貴族院議長ニ被任ノ件」
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今号の美文字資料 (請求番号:任B00349100)
公爵徳川家達貴族院議長ニ被任ノ件

徳川家達いえさと (1863〜1940)は、明治2年(1869)に成立した静岡藩(現在の静岡県と愛知県)の最初で最後の藩主です。御三卿の一つである田安徳川家の慶頼よしよりの三男で、幼名を亀之助といい、明治元年に徳川宗家を相続しました。英国留学を経て、公爵となった一方、明治36年から昭和8年(1933)まで貴族院議長を務めました。文書は、家達が貴族院議長に任命された際の裁可書です。第3回企画展「最後の殿様―廃藩置県から府県制へ―」では、家達に関する資料もご紹介します。

涼先生の美文字解説

強さと勢いを与える起筆

平たい字形に厚みのある線、そして起筆を強めに打ち込む書き振りが「牛橛造像記ぎゅうけつぞうぞうき」という古典を連想させます。「爵」や「内」を見てみると、縦画が短いため横に広がって見えることがわかります。また、「十」の1画目や「右」の2画目の起筆は、筆を打ち込む入り方で尖っていて線が太いので、強くて勢いのあるイメージになります。カタカナの「ス」「テ」などを見ても、やはり骨格がしっかりとしています。勢いのある書き振りから、硬派で決断力のある人柄を感じました。一方で、「太」は3画目を2画目にくっ付けず線の集まりすぎを防いでいるので、余白が広くなり美しく見えます。私個人としては、「勲」「等」「総」の堅めの行書がとても好みです。

「爵」「右」「太」「勲」


今号の手習い「家」

point

余白と線方向が「家」のカギ

ウ冠の下は小さなスペースを残します。6画目は丸めず、起筆を入れたら直ぐに短く真っ直ぐな線を引き、そこから下へ下ろすイメージです。左払いの7,8画目は6画目にくっつけず、払いの向きを放射線の様に変えましょう。